コミュニティバスの利用者増には何をしたらいいですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

コミュニティバスの利用を増やしたいのだけど何をしたら良いだろう?

利便性向上のための投資を考えましょう

 「バスが空気を運んでいるのでなんとかしたい」「コミュニティバスの利用者を増やしたい」というのはよく聞く話です。単純な話として便利になれば利用者は増えます。では、どうすれば便利になり、利用者を増やせるのでしょうか?

ダイヤ見直しや広報・宣伝による利用増

 第一に考えられるのは、現状のダイヤに使いにくいところがないかをチェックし、まずいところがあれば見直しをすることです。例えば、病院の前にバス停があるのに、診療開始時間に間に合わないダイヤになっている場合や、鉄道との乗り継ぎができないダイヤになっている場合などには、ダイヤ見直しによって利用者が増えることが期待されます。

 また、せっかくバスを運行していても、「どこに行くのか」「いつ走っているのか」を知らない人には使ってもらえませんから、広報や宣伝を行うことで利用者を増やすことも期待されます。

 これらの施策は、本来、バスを利用してくれるはずの人であるにも関わらず「都合に合わない」「そもそも知らない」といった理由で使っていない、いわば「取り逃している客」を捕まえるものであり、マイナスをゼロにする効果があります。マイナスであることは良くないことなので、これらの見直しや広報・宣伝は当然、行うべきですが、新たな需要を生み出すまでには至らないと考えられます。

投資をすることで利便性を向上する

 マイナスをゼロにするだけでなく、ゼロからプラスに持っていくためには、新たな需要、つまり「便利になったからバスに乗ってみよう」と思ってもらえるような利便性向上策が必要です。そのためには、現状のサービスを改善したり広報したりするだけでなく、積極的に投資をする、つまり、サービスを向上することが必要です。

運賃値下げによる利便性向上

 同じサービスであれば値段が安い方が、買いたいと思う人が増えるのが普通です。したがって、運賃を値下げすることで利用者を増やす施策が思いつきます。

 例えば、長野県上田市では市内を走る路線バスを対象として、2013年から最大500円を上限とする運賃低減バス施策を実施しました。これにより、距離にもよりますが、路線バスの運賃が、従来に比べて1割〜6割引きになりました。その結果、利用者数は従来の約1.2倍に増加しました(出典:上田市地域公共交通計画)。

 ただし、運賃低減による減収分は市が補填するということで施策を実施しているため、市の財政負担は増加しました。また、利用者は運賃低減バス実施前に比べて約1.2倍になったものの、その後の利用者数は横ばいとなっており、継続してバス利用者を増やすには至っていません。

 運賃値下げについては、ここが重要なところですが短期的にインパクトのある施策であるため、需要を喚起する効果は大きいですが、その金額に人々が慣れてしまうと効果が薄れていきます。実際、上田市においても実施から10年が経つと「バスの運賃が高い」という意見が市民から聞かれるようになっています。サービスそのものに対する価値を見いだしてもらえなければ、継続的な利用拡大にはつながりにくいと言えそうです。

サブスクリプション導入による利便性向上

 運賃そのものを値下げするのではなく、バスをよく利用する人(高校生や高齢者など)を対象としたサブスクリプション(一定の金額を支払うと利用し放題になる。要するに全線乗り放題の定期券)のメニューを用意する方法もあります。サブスクリプションと運賃値下げは似ているように思うかもしれませんが、効果が異なります。

 まず、これまでの運賃に比べて負担が少なくなることによって、新たな利用者の獲得につながるという、潜在需要の顕在化の効果があります。これは、運賃値下げと変わらない効果です。

 これに加えて、サブスクリプションを購入した利用者は、せっかく利用できるのだからと、いままではバスを使わなかった短距離の利用や、潜在化していた外出が増え、バスの利用そのものを増やす効果があります。サブスクリプションの購入者が利用を増やしても、運賃収入は増えないので収益向上にはつながりません。ただ、サービスが変わらなければ経費も増えませんから、多くの人に利用してもらう方が財政負担は正当化されやすくなります。

増便による利便性向上

 利便性向上の中で王道なのは増便をすることです。便数が増えると利用機会が増えるため、利用者の増加に最も効果があると言えます。

 例えば、岐阜県関市の関シティバス・買い物循環線は、2020年10月に増便(両回り合計15便→両周り合計20便)した上で、60~90分に1本という不均等な運行間隔を、1時間に1本のパターンダイヤへと変更しました。その結果、再編直後こそCOVID-19の影響により利用者を大幅に減らしたものの、COVID-19感染拡大下においても利用者の増加が続き、再編から3年後には従前の利用者数を突破、その後も利用者の増加が続いています。

 増便によって運行経費が増加したため財政負担額は増加していますが、利用者の増加によって改善傾向にあり、負担の増加分については利便性向上のための投資と捉えています。

(出典:関市公共交通活性化協議会資料)

投資によるサービス向上が利便性向上のカギ

 利用者の利便性向上のためには、文字通り、サービスを便利にするという視点が必要です。その意味で、増便が最も望ましい施策であると考えられます。また、いくつかの事例では、バス停の増設や、本数を変えずにパターンダイヤ化すると言った方法で利便性を高めて効果を上げているものもあります。この他にも、路線の見直しによる目的施設への速達性の向上、乗り換えダイヤの調整や、乗り換え環境の改善、わかりやすいバスマップなどの情報提供についても利用者増加に効果があります。また、運賃値下げや、広報・宣伝に意味がないわけではなく、増便をはじめとするサービス向上策と組み合わせることでシナジー効果を発揮することが期待されます。

 いずれにしても、利便性を向上するためには投資が必要であり、そのためには公的な負担の増額が求められる場合が出てきます。

 公共交通に対する公的負担というと、どうしても赤字補填や欠損補助というイメージが強いですが、そうした対症療法的な消極的公的負担だけでなく、利便性向上のための積極的公的負担はもっと行われるべきではないでしょうか。