担当:福本雅之(合同会社萬創社)
うちの市でもコミュニティバスを走らせているけど、これって普通のバスと何が違うの?
運賃収入だけで事業を成り立たせるのではなく、まちづくりや外出支援と連携した政策的なバスサービスがコミュニティバスです。
市町村の運営するバス=コミュニティバス?
コミュニティバスの導入に関するガイドライン(国土交通省)によると、「交通空白地域・不便地域の解消等を図るため、市町村等が主体的に計画し」運行するもの、とされています。
一方で、大都市圏や地方中核都市には市の交通局が運行する、いわゆる「公営バス」があります。また、過疎地域においては、かつて民間事業者が運行していたバス路線が赤字で廃止になった後、「廃止代替バス」や「自主運行バス」という名称で市町村が運営している路線バスもあります。こうしたバスはコミュニティバスには入らないのでしょうか?
実は、コミュニティバスには明確な定義は存在しておらず、「コミュニティバスと名乗ったバスがコミュニティバス」というのが実態です。しかし、コミュニティバスと名乗っているものの多くに共通する特徴は存在しています。
コミュニティバスの歴史
ムーバスの登場
コミュニティバスが日本で広まるきっかけになったのは、東京都武蔵野市で1995年に運行を開始した「ムーバス(図1)」です。武蔵野市には民間バス路線が多数存在しているため、移動に困っている人はいないように思えました。しかし、駅からさほど離れておらず、路線バスも走っている地区の高齢者から当時の市長に「買い物に出かけられずに困っている」という手紙が寄せられました。高齢者が外出しにくい状態が続くと、体が弱り、やがて介護が必要になります。こうなると高齢者本人にとって不幸であるばかりか、公的な財政負担も莫大なものとなります。市は高齢者が気軽に外出できるようなバスができないかと考え、ムーバスの計画がスタートしました。
高齢者の行動を調査した結果、歩行能力が低下した高齢者は幹線道路にあるバス停まで歩くことが困難であることがわかりました。そこで、こうした高齢者が利用しやすいバスとするために以下のような運行内容が決められました。
- 小型バスを用いて住宅街の中に入り込むこと
- バス停は歩行距離が短くなるように200m間隔で設置すること
- 毎時決まった時間にバスが来るパターンダイヤとすること
- バス停に番号を振ってわかりやすくすること
- 駅を起終点としたわかりやすい循環路線とすること
- 気軽に利用できるようにワンコイン100円運賃とすること
運営と運行の分離
こうしてムーバスのコンセプト(計画)が固まったわけですが、市が直接運行をする(つまり、交通局を作る)のは負担が大きいため、民間バス会社に運行してもらうことになりました。しかし一つ大きな問題がありました。それは運賃です。
当時の路線バスの初乗り運賃は200円程度でした。路線バスの運賃は、運賃収入で採算が取れる(黒字になる)ものでなければ、国が認めてくれませんでした。ムーバスは定員の少ない小型バスを用いた上に、100円の運賃しか取らないことにしたのですから、採算が取れるとは考えられず、国から運行の許可を得ることができないことになります。
しかし、ムーバスは収益事業としてバス事業者が運行する路線バスとは違い、市が高齢者の外出支援という行政目的を達成するために運行しようとするものです。そこで、運賃収入だけでは不足する赤字額について、市がバス会社に補填することを前提として、運賃を100円とすることが認められました。
つまり、市がコンセプト(計画)を立てて、費用負担をしながら事業として動かす(運営)が、実際の運転業務(運行)はバス事業者に委託するという役割分担を行うことで、政策目的(ムーバスの場合は高齢者へ外出手段の提供)達成のために、運賃収入のみでの採算確保を前提としないバスサービスを実現するモデルを示したわけです。この「運営・運行分離方式」は、それまでの路線バスが「計画=運営=運行」の全てをバス事業者が担い、運賃収入による収益確保を目的とした企業活動として運行されていたことを考えると画期的なものでした。
コミュニティバスの特徴
運営・運行分離方式を採ることで、市町村やNPOなどがバスサービスの計画や運営を行うことができるようになりました。特に市町村がこの方法を用いて運営するバスが増えるにつれて、一般的な路線バスとは区別をして「コミュニティバス」と呼ばれるようになりました。
特に、ムーバスの成功が広く知られるようになるにつれて、2000年前後から全国の市町村でコミュニティバスの導入が進みました(図2)。その際、100円運賃や小型バス、循環路線といった「ムーバスの見た目」を真似したところが多かったため、コミュニティバス=100円運賃の小型バスというイメージが付いてしまいましたが、これは本質的な理解とは言えません。ムーバスがこうした「見た目」になった理由にこそ本質があります。
つまり、「運営主体が何らかの目的を達成するための手段としてバスサービスを提供」するということです。これがムーバスの場合は高齢者への外出手段提供でしたが、他の地域では、中心市街地活性化や公共交通空白地域の解消などが目的となっている場合もあります。100円運賃や小型バスといったサービスの見た目は、そのための要素に過ぎません。
このため、コミュニティバスの成否は、運賃による採算が確保されているかどうか(収支率)ではなく、運行の目的が達成されているかどうかで評価することが重要となります。高齢者の外出支援や中心市街地活性化、公共交通空白地域の解消などといった目的は、バスの収支率だけで測れるものではないからです。こうした効果は従来、定性的に述べられることが多かったのですが、定量的に把握するための方法としてクロスセクター効果という考え方も広まりつつあります。
参考文献
国土交通省:コミュニティバスの導入に関するガイドライン
土屋正忠『ムーバス快走す 一通の手紙から生まれた武蔵野市のコミュニティバス』ぎょうせい、1996年