自家用有償旅客運送ってなんですか?

担当:福島大学 吉田 樹

住民・NPO等
住民・NPO等

自家用有償旅客運送って何ですか?

それはね…
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自動車によって誰かを有償で輸送する場合,道路運送法に基づく許可を受け(緑ナンバー)る必要がありますが,自家用車(白ナンバー)を用いて有償で輸送する形態も存在しています。それが自家用旅客有償運送です。

自家用車を用いた輸送形態は半世紀の歴史

 自動車によって誰かを有償で輸送する場合,道路運送法に基づく許可を受けることが基本です。許可されて運行される車両は「緑ナンバー」(事業用自動車)となり,自家用車の「白ナンバー」(自家用自動車)とは明確に区分されています。また,「緑ナンバー」の車両で誰かを輸送する運転者は「二種免許」を取得しなければなりません。しかし,自家用車を用いて有償で輸送する形態も存在しています。それが自家用旅客有償運送です。

 自家用旅客有償運送は,2006年10月の道路運送法改正で制度化(同法78条)されましたが,自家用車による有償の輸送自体は,半世紀の歴史があります。

 一つは,路線バスの廃止代替として存在してきました。運輸省(当時)は,1970年度に通達を発し,道路運送法101条(のちの80条。現78条)にある「自家用自動車の有償運送の禁止」の例外として,市町村が保有する「白ナンバー」の車両で「廃止路線代替バス」を運行できるようになりました。1977年度には,廃止路線代替バスの運行費補助制度も創設(1994年度まで)され,「80条バス」として,全国に拡がりました。ちなみに,路線バスの廃止代替運行は,貸切バス事業者が保有する「緑ナンバー」車両を用いる方法もあります。貸切バス事業者は,災害など緊急時や乗合事業者の運行が困難な場合に限り,1年以下の期間を限り乗合旅客の運送が可能です(道路運送法21条)が,当時は,継続的な廃止代替運行も通達で認められていました(「21条バス」と呼ばれました)。ところが,「80条バス」と同様の運行費補助が「21条バス」に拡大したのは1983年度と後からであり,「白ナンバー」への補助が「緑ナンバー」に先行していたことになります。

 もう一つは,公共交通機関の利用に困難を伴う障害者・高齢者に特化した移動サービス(スペシャル・トランスポート・サービス(STS))です。こちらも1970年代から,心身障害児の通所・通園,在宅高齢者の通所リハビリテーションや通所介護などを目的に,地方公共団体や施設が用意したバスやリフト付車両で輸送する形態のほか,ボランティア団体によるドア・ツー・ドアの送迎サービスも登場しました。しかし,「80条バス」のケースとは異なり,通達に位置づけられず,「グレーゾーン」としての期間が長く続きました。

 転機となったのは,2000年に施行された「高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)[1]」と介護保険法でした。交通バリアフリー法の附帯決議では,STSの導入に努めることが盛り込まれたほか,介護保険法を受けて,訪問介護事業所のヘルパーによる通院送迎が行われるようになりました[2]。さらに2003年には,NPOなど非営利法人のボランティア有償運送(福祉有償輸送)を可能とする構造改革特別区域制度が導入され,地方公共団体が主宰する運営協議会で必要と認められた福祉有償輸送に対し,車両など一定の条件を付した上で,特区の下で事業が許可されることになりました。2004年3月には,特区の枠組みを踏まえ「福祉有償運送及び過疎地有償運送に係る道路運送法第80条第1項による許可の取扱いについて(ガイドライン)」を整理,その後も政府の構造改革特別区域推進本部と国土交通省での検討を経て,2006年10月の改正道路運送法で自家用有償旅客運送が制度化され,今日の法的な枠組みができたのです。

自家用有償旅客運送の形態 

 自家用有償旅客運送(道路運送法78条)は,同法の施行規則のなかで3つに区分されています。市町村が運営する「市町村運営有償運送」と,NPOなど非営利団体が運営し,地域住民の生活に必要な移動手段を確保する「公共交通空白地有償運送」,要介護者など移動困難者を対象とした「福祉有償輸送」です。市町村運営有償運送は,さらに「交通空白輸送」と「市町村福祉輸送」とに分けられるため,自家用有償旅客運送は,表に示した4つの態様で整理されることが一般的です。

 いずれの形態においても,「緑ナンバー」による「サービス提供が困難」であることが前提となり,導入に際しては,市区町村,公共交通事業者,自家用有償旅客運送を実施しようとする団体(NPO等)に利用者代表などを加えて組織する法定協議会の場で,対話し意思決定する(このことを「協議を調(ととの)える」と言います)ことで,道路運送法に基づく「登録」を行うことができるようになります。市町村有償運送に関しては,2006年10月の改正道路運送法により制度化された地域公共交通会議の場で,公共交通空白地有償運送と福祉有償運送は,運営協議会の場で行うことが基本ですが,地域公共交通会議で協議することも可能です。

 自家用有償旅客運送の運転者は,「二種免許」の取得者だけに限らず,自家用有償旅客運送の種類に応じた大臣認定講習を受講した「一種免許」の保有者でも可能です。また,旅客から収受する「対価」は,運送に要する燃料費や人件費など,実費の範囲内であることが基本であり,価格に適正利潤を組み込める公共交通の「運賃」とは異なる性質のものです。ちなみに,自家用有償旅客運送の対価は,近隣のタクシー運賃の二分の一を目安とすることとされていますが,これは,上限を示したものではなく,実費の範囲であれば,タクシー運賃の二分の一を超えて設定することもできます。

 自家用有償旅客運送の制度については,国土交通省自動車局旅客課『自家用有償旅客運送ハンドブック』(https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk3_000012.html)に記されています。

表 自家用有償旅客運送の態様

※1 当該市町村の居住者や日常的に用務先とする人が原則だが,会員等に限定した運用ではないため,事実上,輸送対象は不特定である。

※2 区域内の交通事業者が同意し,市町村長が認めた場合は,訪問客も対象とすることが可能。2020年中に施行される改正道路運送法で,自家用有償旅客運送の運送対象に観光旅客その他の当該地域を来訪する者を追加できるようになる。

※3 非営利団体等にはNPO法人、一般社団法人、一般財団法人、社会福祉法人、商工会、権利能力なき社団(自治会など)が含まれる。

自家用有償旅客運送の動向

 高齢化が高度に進展し,「無理に車を運転しなくても良い」地域づくりが求められるなか,自家用有償旅客運送の適用可能性が拡がってきました。

 市町村運営有償運送のうち「交通空白輸送」は,先にお話しした「80条バス」の流れを汲むものであり,時刻表と運行経路を固定した「定時定路線」運行に限定されてきました。しかし,2017年8月からは,時刻表や運行経路を定めない運行も可能になったほか,ボランティア個人や企業からの持ち込み車両(当該自動車の自動車検査証と自動車の使用者と申請者との間で締結された契約書又は使用承諾書の添付が必要)を使用できるようになりました。

 また,2020年中に施行される改正道路運送法では,交通事業者が協力する自家用有償旅客運送制度(以下,協力型有償運送)が創設されます。市町村運営有償運送では,地域の交通事業者に運行や整備を委託する事例が既にありますので,目新しい制度ではない[3]のですが,協力型有償運送が明文化されることで,道路運送法上の「登録」に要する手続きが簡素化される予定です。一方,公共交通空白地有償運送や福祉有償運送でも,地域の交通事業者がNPO法人等の構成員となることを視野に入れており,事業承継が難しい過疎地の交通事業者が「二枚目の名刺」を持つことで,移動手段を失わせないことも意図されています。

 こうした制度動向は,交通事業者だけでなく,自家用有償旅客運送を運営する団体も「担い手不足」の課題を抱えていることによるものです。公共交通空白地有償運送の登録団体数は全国で124団体,福祉有償運送は2,482団体(いずれも2019年3月末)です。直近の5年間で増加したのは100団体ほどで微増傾向にありますが,撤退したケースも散見されるようになりました。自家用有償旅客運送の導入は,「緑ナンバー」による「サービス提供が困難」であることが前提ですが,地域を鳥瞰図で眺めて鉄道駅やバス停留所がなくても,タクシーの営業区域に含まれていれば「サービス提供が困難」とはならない,というわけではありません。交通事業者が「緑ナンバー」としてサービスを提供することが合理的でなければ,「サービス提供が困難」と見做すことができるのです。

 埼玉県飯能市の吾野・東吾野地区(人口約4千人)は,タクシーの営業所や配車拠点が遠隔にあり,回送距離が長くなりやすいため,地区内から市街地への公共交通空白地有償運送の利用を認める一方,市街地から地区内への移動は,有償運送車両の市街地での待機時間が長くなり,運転者の負担が大きくなるため,有償運送の利用を認めず,鉄道やタクシーの利用を促しています。公共交通との「合わせ技」で,自家用有償旅客運送を活用し,公共交通の供給効率を高め,「くらしの足」の選択肢を豊かにすることにつながった事例です。

参考文献:

・ 吉田 樹:地方分権と地域公共交通-自家用有償旅客運送を例として,都市問題,110(3)pp.44-57,2019年.

・ 一般財団法人トヨタ・モビリティ基金:みんなで作る地域に合った移動の仕組み,pp.4-5,2018年.

[1] 現在は「高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」になっています。

[2] 加えて,ホームヘルパー資格を有するタクシー運転者が身体介護として通院送迎を実施できるようになりました。

[3] 従来の制度でも「できたこと」を広めるために,法律や省令等に敢えて明文化することがこの分野ではよく見られます。