担当:福本雅之(合同会社萬創社)
住民アンケートでは住民の声が十分に拾えない場合があるって本当?
実施方法や調査票の設計などに留意すべきポイントがあります。
住民の意見を幅広く収集するために住民アンケートを行うことは多いと思います。特に自治体の交通担当者はニーズを把握する場合、二言目には「住民アンケートを実施する」と言いがちです。
アンケート調査は、幅広い人を対象に実施でき、定量的な結果を得られることから、ニーズ調査の方法として広く用いられています。しかし、適切な調査票を設計し、適切な方法で実施しなければ、まともな結果は得られません。特に、以下に記載したようなポイントに注意が必要です。
なお、実際に利用している人を対象に行う利用者アンケートは対象が異なるため、住民アンケートとは注意すべきポイントに多少の違いはありますが、考え方として参考にできることは多いと思います。
公共交通を使わない人にも答えてもらうための工夫
「公共交通に関するアンケート」「路線バスの利用に関するアンケート」というタイトルで実施しても、多くの住民が自家用車で移動している地域の場合、ほとんどの住民が「オレには関係ないや」と思ってまともに回答してくれない可能性があります。
できるだけ多くの人にアンケートに答えてもらうためには、「日常の移動に関するアンケート」など、多くの人が自分にも関係があると思うようなタイトルにすることが必要です。
当然、こうしたタイトルにしていながら中身が公共交通の設問ばかりであれば、途中で回答をやめてしまうでしょうから、自家用車での移動についての設問なども用意して、移動にまつわることを全体的に把握しましょう。その結果は、自動車による送迎などをはじめとして、公共交通の施策を考える際にも有益な情報であることが多いのです。
世帯主以外の回答を得たい場合の工夫
住民がアンケート票を受け取った場合、「誰々宛て」と特定の名前が書かれていなければ、世帯主(多くの場合はいわゆる「お父さん」)が代表して回答する場合が多いでしょう(あるいは「お父さんの名前」で「お母さん」が代理回答することも一定数あるかと思われます)。
そうすると、回答者が勤労世代の男性に偏ってしまいがちで、地域の人口構成を反映しない結果となってしまう恐れがあります。
このことは、高齢者を対象とした交通施策を考えるような場合に問題となります。アンケートの回答を得たいのは高齢者なのに、世帯主が回答してしまっては本当に得たい人の回答が得られないからです。
こうした場合の対応として、1)配布時の宛名を世帯宛ではなく個人宛とする、2)アンケート票に「●●歳以上の方がご回答ください(世帯の中で一番年齢の上の方、というような書き方もある)」と明記する、3)アンケート票を1世帯につき複数枚配布し、世帯全員に回答してもらうようにする、などの対応が考えられます。
正しく回答してもらえるような調査票設計
アンケートはその内容を正しく理解して回答してもらわなければ、良い結果が得られないのはいうまでもないところです。できるだけ簡潔で、わかりやすい調査票を設計することが大切です。
このため、1)分量が多くて回答中に挫折する、2)条件分岐が多数あって設問間の移動が複雑、3)(特に高齢者を対象にする場合)字が小さくて読むのが難しい、4)設問の文章や言葉遣いが難しくて理解しにくい、5)設問の内容の配列が適当で回答者の意識が断絶する、といったことがないように注意する必要があります。
さらに、評価について問う場合は、選択肢を良い順に並べるのか、悪い順に並べるのかでも結果が異なることが多いので、選択肢の配置順にも十分に配慮することが望まれます。
また、自由記述の設問が多いと、回答者も負担が大きい上に、入力や集計の際も大変な手間がかかりますので注意しましょう。
参考までにですが筆者の場合、分量はA4版4枚(A3両面コピー)まで、字の大きさは12ポイント以上、設問はなるべく選択式にする、などの工夫を行うようにしています。
回収率を上げるための工夫と注意点
以上ののことに気をつけて実施することは当然ですが、アンケートの回収率を上げるためにはその他にも以下のような工夫がよく行われています。
- アンケートの意図がわかる説明文を同封して協力を呼びかけます。その際、実施者の名前を明記する方が望ましい(自治体の場合、市長名などを載せる)とされています。ただし、そもそも興味のない人の場合、読まれない可能性があることは認識しておきましょう。
- 回答に用いるボールペンなどを同封し、謝礼代わりとすることも考えられます。この場合、重量が増えるため郵送料が高くなることと、たとえ回答してもしなくても同封の品が手に入るため、回答に非協力的な人には効果が薄い可能性がある点に注意が必要です。
- 回答者の中から抽選で図書券などの粗品をプレゼントするケースも見られます。このときには、粗品を用意するための費用が必要であることに加え、記名回答が必要となるため、個人情報の取り扱いに留意が必要です。
以上に挙げたようなポイントに気をつけてアンケートの設計・実施をする必要があります。ニーズを把握したい相手に併せて是非いろいろな工夫をしてみてください。
住民アンケートが適切でない場合もある
最後に、ある地区で住民アンケートを行おうとしたときのエピソードを紹介します。
坂のきつい交通不便地区で、高齢者の移動手段の確保するためにバスを走らせることとなり、高齢者を対象とした住民アンケート調査を提案したところ、反対の意見が出ました。
その理由は「地区の中に郵便ポストは1つしかない。そこまで坂道を歩いてアンケートの回答を投函に行ける人は移動に困っていない。それができない人の意見が知りたいのだ」というものでした。
このためこの地区では住民アンケートではなく、徹底した聞き取り調査を行うこととなりました。
住民の意見を把握したい場合、アンケート調査のやり方や調査票を工夫することは大切なことですが、意見を聞きたい対象者にアプローチする方法としてアンケート調査がそもそも妥当なのかどうかも含めて検討をしましょう。