担当:福本雅之(合同会社萬創社)
地域公共交通会議と法定協議会って似ているけど、何が違うんだろう?
根拠となる法律が違うので、それぞれ違う機能を持っています。
法定協議会と地域公共交通会議の違い
地域公共交通会議の根拠法規は「道路運送法」であり、乗合バスやタクシーなど、旅客自動車運送事業(道路上で自動車を用い、旅客から運賃を得て運送サービスを提供するもの)が協議対象です。また、自家用車による有償運送も対象となります。
一方、法定協議会の根拠法規は「地域公共交通活性化再生法」であり、バスやタクシーだけでなく、鉄道、旅客船など、全ての交通モードを対象とします。
地域公共交通会議の役割
路線バス事業に規制がある理由
日本の路線バス事業は、運賃収入によって運行経費をまかなう独立採算制の下で、交通事業者が運営することが基本原則となっています。一方で、路線バスは住民の生活に直結する公益的な事業の側面があり、安全かつ安定的な供給が求められます。
そこで、採算性と安定供給の両者をバランスよく実現するため、路線バス事業を行おうとする事業者に対して、国が事業への参入や運賃などについて規制を行っています。その内容について定めた法律が道路運送法です。これによって、事業者が運賃収入によって採算を確保し、安定的に安全なサービス供給がなされる仕組みとなっているのです。このことから、採算性が確保できず、安定的なサービスが実現できないと判断される場合には認可を得ることができません。同様の理由で、事業者の経営を脅かすことにつながる自家用車による有償運送も認められていません。
ところが、採算の確保が路線バス事業認可の条件となると、利益を得るほどの利用者が見込めない公共交通空白地域にバスを走らせることや、運賃を低廉に抑えて収支が成り立たなくなってしまうこと、バス事業者が存在しない地域においてバスを走らせることなど、事業としては成り立たないが政策的にバスを運行するような場合には、事業認可を得ることができないことになります。また、そもそもバス事業者が存在しないような地域の場合、バスサービスを供給する方策がなくなってしまいます。
地域公共交通会議で協議を調えるということ
そこで、通常の手続きでバス事業者が事業申請を行うと認可を得ることができない内容であっても、自治体が主体的に関与すること(例えば財政的な支援なども含みます)でバス事業者が利益を得ることができ、安定的なサービス供給が担保される場合に限って、特別に認可を得られる仕組みが設けられています。
その仕組みとは、地域の利害関係者が参加する「地域公共交通会議」において、当該サービスの必要性についての合意が得られた場合であれば、認可が得られるというものです。このように地域公共交通会議の場において合意形成がなされることを「協議を調える」と言います。この場合、利害関係者が内容について地域公共交通会議の場で合意していることから、手続きにかかる時間も短縮されます。
また、バス事業者が存在しないなど、バス事業者によってサービスを提供することができない場合には、自家用有償旅客運送という自家用車を用いた有償のサービス提供が可能となっており、これについても地域公共交通会議で協議を調えることで、登録を行うことができます。
法定協議会の役割
法定協議会の機能
法定協議会には、地域公共交通会議のように事業規制に関わるような機能はありません。法定協議会の最大の機能は、主宰する自治体の地域公共交通計画を策定し、実施するということです。
自治体が地域公共交通施策に取り組む際、交通事業者や地域住民、関係行政機関などの利害関係者を含む多様な人たちとの協議が必要となりますが、個別に協議や調整をして合意形成を図るのは煩雑であるため、関係者が一堂に会する協議組織を作る方が効率的です。この協議組織が法定協議会です。
法定協議会には、参加応諾義務があり、主宰者から参加を要請された場合に拒むことができません。また、参加者には結果尊重義務もあるため、協議会で決定された事項に反するような行動は慎む必要があります。鉄道や路線バスなどの公共交通の多くは民間交通事業者によって運営されているため、自治体が公共交通施策を行おうとしても、交通事業者が拒否した場合には実効性が担保できませんが、法定協議会を活用することで、交通事業者をはじめとする様々な関係者を巻き込んだ取り組みを行うことができます。
法定協議会と地域公共交通会議の一体的な運用
法定協議会と地域公共交通会議は、機能が違うとはいえ、参加する関係者はほとんどが同じであることが多く、また、法定協議会で策定した地域公共交通計画に基づく事業を具現化するためには、道路運送法上の手続きが必要であることが多いため、別々に会議を開くことは非効率です。このため、法定協議会と地域公共交通会議を別々に設けるのではなく、1つの協議組織に両者の機能を併せ持つことができる(二法協議会)ようになっています。この場合、協議会の設置規約に両者の機能を持つことを規定しておきます。