ボランティアの助け合いで移動サービスはできますか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

ボランティアで近所の人を運ぶのって、白タクになるのかなぁ?

それはね…
それはね…

運賃を取らないのであれば問題ありませんが、安全性の確保などには十分に注意しましょう。

無償で人を運ぶことは問題ない

 有償、つまりお金をもらって自動車で他人を運ぶためには、道路運送法に基づき旅客自動車運送事業の許可を得なければなりません。そして、旅客自動車運送事業に用いられる車両は、事業用自動車として登録される必要があり、緑色のナンバープレートが取り付けられます。この許可を得ない者や、事業用車以外(=自家用車)を用いて、お金を取って他人を運ぶことは道路運送法違反となって処罰(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)の対象になります。いわゆる「白タク」「白バス」行為と言われるものです。

 逆に言うと、お金をもらわなければ、個人や団体が自家用車を用いて他人を運ぶことは何ら問題ありません。代表的な例として、旅館が宿泊客の便宜を図るために運行する無料の送迎バスが挙げられます。

 よって、外出に困っている高齢者を、お金を取らずに近所の人が自家用車で送り迎えするようなボランティアは何の問題もありません。

実費相当額であればお金をもらうことも可能

 ところが、送迎の回数が度々になってくると、送迎されている側が「タダで送ってもらうのは申し訳ない」という気持ちになって、「いくらか払いたい」と言い出すのは良くある話です。送迎している側も「ガソリン代ももらえないようでは続けられない」ので、ボランティアをやめようと思ってしまうかもしれません。ボランティアだからと言って送迎する側が一方的に負担を強いられるようなやり方は、継続性の観点から望ましくないでしょう。

 実は、ガソリン代や高速道路通行料、駐車場代の実費相当額であれば金品を受け取ったとしても道路運送法違反になることはありません。なお、ガソリン代については、以下のような方法で算出することができます。

ガソリン代の算出式 走行距離(km) ÷ 燃費(km/ℓ) × 1ℓあたりのガソリン価格(円/ ℓ)

重要な安全性の確保

 金品のやりとり以上に気をつけなければならないのは、安全性の確保です。他人を同乗させて運転するのですから、普段以上に安全に気をつけた運転をしなければならないのは当然ですが、万一、事故になってしまった場合に備えて、保険に加入することが望ましいです。現在は、ボランティアによる送迎を対象とした保険商品も販売されていますので、こうした商品を活用して、万一の事故に備えることが求められます。

既存の公共交通との関係

 地域内でボランティア移動サービスに積極的に取り組んだ結果、利用者が、無償もしくは実費しかかからないボランティア移動サービスへ流れてしまい、路線バスやタクシーが事業として成り立たなくなって撤退してしまうことも懸念されます。

 ボランティア移動サービスが十分に供給されているうちはそれでもいいのですが、ボランティアを担っている人も歳を取りますから、5~10年先にはボランティアをする人が減っていくかもしれません。そうすると、ボランティア移動サービスの供給が不十分となる一方、路線バスもタクシーも利用者の減少によるサービスの低下などで使えなくなってしまっているので、移動を支える仕組みが崩壊することも想定されます。

 既存の公共交通が存在する場合には、ボランティアによる移動サービスとの役割分担を明確化し、競合関係ではなく、お互いに足りないところを補完し合う関係を目指すことが求められます。

ボランティアでどこまでやるのか

 最後に、ボランティアでどこまでの移動ニーズに応えなければならないか、ということについて問題提起しておきたいと思います。本来、ボランティアはやりたい人がやれる範囲で行うものです。

 ところが、ボランティアで実際に移動問題に取り組みはじめたところ、「定期的な通院をしている人がいるので、自分の予定を調整してでも送迎をしないといけなくなってしまった」、などということが生じ、負担が大きくなってしまうことが考えられます。こうなると、現時点で担い手となっている人も大変ですが、新たにボランティアに協力しようという人が尻込みをして出てこなくなってしまう可能性もあります。

 ボランティアによる移動サービスの提供を地域で検討する際には、どこまでのニーズをボランティアによる移動サービスで支えるのかについて議論を尽くし、サービスで担う範囲についてしっかりと線引きをした上で、利用する人にも理解してもらうことが必要ではないでしょうか。

参考文献

タイトルとURLをコピーしました