反転攻勢2!病院との連携(共創)することで自動車利用から公共交通利用へ転換

土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)

 

意欲的担当者
意欲的担当者

地域公共交通を盛り上げるためには「共創」という言葉がキーワードになっている気がしていますが、具体的な実践を知りたいです。

一緒に考えよう
一緒に考えよう

京都府長岡京市では大規模病院の移転に伴い、病院と一緒に自動車利用を抑えて公共交通利用を中心にした交通アクセスを考えることで、実際にバスの利用者が増加することになりました。

はじめに

 国土交通省では、地域公共交通の今後の在り方として「共創モデル実証プロジェクト」などに取り組まれています。共創は重要な概念となっているようです。

 そして、少しずつ「共創」が進んできたように思います。

 ここでは、公共交通に関して「まちづくりとの共創」というような言葉がまだなかった頃から大規模病院と一緒に交通アクセスの問題に取り組み、成果を上げてきた京都府長岡京市の取り組みを紹介したいと思います。

病院の移転問題

 長岡京市内に立地する京都済生会病院(病床数288床、以下「済生会病院」)は地域医療の中核を担っていますが、より施設を充実させるため、同じ長岡京市内に2022年6月に移転をすることになりました。

 これを好機として、できるだけ公共交通(長岡京市のコミュニティバスである「はっぴぃバス」と阪急バス)による通院をしてもらうように検討することになりました。その結果、当時は2系統で運行していたはっぴぃバスを3系統にして、市内の公共交通不便地域の解消と、病院へのアクセスの向上を図ることになりました。

図-1 長岡京市のはっぴぃバス(長岡京市HPから)

地域公共交通会議で「待った!」がかかり、データを集める

 ところが上記の案件を協議する第20回長岡京市地域公共交通会議(2020年10月21日)で、病院へのバスのアクセス性が向上することで、タクシーの利用が減少する恐れがある。タクシーについては全く考慮されていないことに異議を申し立てるという意見がありました。

 そこで、先ずは現在の病院への通院手段を把握し、移転の際にはどんな移動手段を使う意向かを把握するために、来院者を対象としてアンケート調査を実施することになりました。この時に内心は「行きはコミュニティバス、帰りはタクシー」という状況になるのではないかと想定をしていました。

アンケート調査の結果

 2020年11月に済生会病院の職員さんが通院者に対して、来訪交通手段と移転の際に想定される利用交通手段についてヒアリングを行うことになりました(回答数115人)。

 その結果は、2021年3月に開催(この時は残念ながらコロナの影響があり書面開催でしたが)された第22回長岡京市地域公共交通で報告されました(図-1)。

図-1 済生会病院への通院交通手段(現在と移転以降=将来)N=115

 この結果、現在は自家用車(送迎を含む)を使って通院している人の割合が18%+26%=44%(行き)、18%+24%=42%(帰り)でしたが、病院移転後は8%+16%=24%(行き)、8%+16%=24%と20ポイント近く自動車利用が減少すると回答されています。また、路線バスとコミュニティバスであるはっぴぃバスの合計は現在の行きで26%、帰りは27%でしたが、病院移転後はそれぞれ55%、53%とほぼ利用が倍増するという回答が得られています。

 またタクシー利用についても、現在と将来(病院移転後)を比較すると行きで3ポイント、帰りで2ポイントの増加となっています。

 第22回長岡京市地域公共交通の結果を見て、タクシー事業者の皆さんも、自動車から公共交通などへ転換が進むことでタクシーの利用者も増加することが把握でき、コミュニティバスを2系統から3系統に充実する原案に賛成をいただくことができました。

実際の利用はどうなっているのか?

 アンケート調査では「コミュニティバスに乗る」と回答をする人たちの多くが、実際には利用はしない、という経験は多くの人たちがされていると思います。

 そこで、病院移転前後のはっぴぃバスの乗降データを確認することにしました。

 表-1は病院移転前に、済生会病院までの通院手段の分担率を聞いたものです。そして表-2ははっぴぃバスの済生会病院バス停留所の乗降車人数をみたものです。

表‐1 済生会病院移転前の利用交通手段意向調査

データ:第22回長岡京市地域公共交通会議資料(N=115)

表-2 はっぴぃバスの実利用者数(済生会病院バス停)

データ:長岡京市提供

 表-1と表-2から、令和3年度(現在)は病院の移転前、令和4年度(将来)は病院の移転後に対応するデータと考えると、実数とパーセントの違いはあるのですが、移転前の意向調査・利用者数調査と病院移転後を比較すると3倍から4倍の利用増加となっています。

共創することでサービス向上=公共交通の利用者数が増えた

 バスは系統が増加するなど明らかにサービス水準も向上したので、3~4倍の利用者数増加を実現することができました。ただ、タクシーについては、まだ十分なデータを把握することができませんが、少なくともバスに喰われたというようなことを耳にすることはなくなりました。

 さらにサービスの向上という点では、済生会病院バス停を使って病院に行く人については、済生会病院から往復のバス代を無料とするチケットを提供していただいています。運賃負担額は、2022年6月~2023年3月の10ヶ月間で約240万円(利用者数は1.4万人)となっています。

 病院側からすると病院送迎バスを運行するよりも、既存のバスを活用する方がコストも安く、業務負担も軽くなるので、運賃無料化は継続していきたい、と判断されています。

 さらに、こうして自動車利用からバス利用に転換をしてもらうことで、移転当初は心配されていた近隣における交通渋滞等も起こっていないので、病院としてもはっぴぃバスの存在は重視されているとのことです。また、こうした活動の積み重ねで病院内の駐車場も、実際の稼働は少し余裕があるので、自動車のスペースを減らしてバイク・自転車向け駐輪スペースに変えた、ということです。

共創することで

 今回は長岡京市と済生会病院との共創について報告をしています。お互いのメリットを感じてもらうことで、良い方向に歯車が回転する、ということになります。

 また、タクシー事業者さんとも、当初のアンケート調査結果などを共有することで、賛同を得ることができました。やはり感情の問題だけでなく、ファクトとデータでも意見交換をすることの重要性を再確認することができました。

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