共創競争で狂騒していませんか?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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地域公共交通のリ・デザインのために共創しなければ!

天の声
天の声

共創することが目的になっていませんか?共創することを競争してしまった結果、疲れ切ってしまわないように気を付けてください。

 

地域公共交通のリ・デザインと3つの共創

 国土交通省の進める地域公共交通のリ・デザインでは、交通事業者の内部補助を含む経営努力では公共交通を維持することが困難となっている状況下において、自動運転やMaaSなどデジタル技術を実装する「交通DX」、車両電動化や再生可能エネルギーを含めたエネルギーマネジメントなど「交通GX」、①官民共創、②事業者間共創、③他分野共創の「3つの共創」を進めることで、地域の関係者の連携と協働を通じて、利便性・持続可能性・生産性を高めることを目的としています。

 DXやGXが現在の公共交通を高度化し、利便性や生産性を高めるための技術であるとすれば、3つの共創は高度化されたサービスを自治体・交通事業者・地域が連携して上手に使っていくことで持続可能性を高める取り組みであるといえます。

官民の共創

 官民の共創においては、「エリア一括協定運行事業」や「鉄道・バスの公設民営や上下分離」などが例示されています。これまで公共交通事業の維持を民間に任せにしていたものを、サービス水準の検討やそれに対する運賃の設定、インフラ等の設備の保有リスクといった役割を官(=自治体)と交通事業者で分担して行くという考え方です。
 自治体の関わり方については「これからの公共交通に対する自治体の関わり方」も合わせて参照してください。

事業者間の共創

 (交通)事業者間の共創においては、「独立禁止法の適用除外による共同経営」や「MaaSを活用した交通モードを越えたサービスの提供」などが例示されています。
 共同経営はバス事業者同士の話と思われがちですが、バス事業者同士である必要はなく、バス事業者と他の交通事業者を組み合わせることも可能です。また、ポイントになるのは計画を作るのは事業者同士ですが、その計画は必ず法定協議会において意見聴取をした上で、国交省に申請することになります。つまり、この段階で法定協議会を主宰する自治体や地域の利用者の意見を加えることができ、上手にこの仕組みが使えれば事業者間に加えて「官」や「地域」とも共創できる可能性が広がります。
 共同経営については「乗合バス事業の共同経営について前編後編」も合わせて参照してください。

他分野との共創

 3つの共創の中で一番注目され、かつ、逆に良くわからないのが他分野との共創ではないでしょうか。他分野での共創では「地域経営における住宅・教育・農業・医療・介護・エネルギー等との事業連携や地域経済循環」が例示されています。。。が、他分野とされて交通以外の分野を並べて書いてあるだけでは良く分からないので、具体的な事例として前橋市の交通×介護の事例を見てみましょう。

国土交通省「アフターコロナに向けた地域交通の「リ・デザイン」に関する提言」より

 この取り組みは、これまで介護サービスの事業者が個々に利用者の移送サービスを提供していたものを、タクシー会社に束ねて委託することで効率化するものです。これにより、介護事業者は本来の介護サービスに集中でき、タクシー事業者は新たに安定的に業務を獲得できるというような双方にメリットがあります。
 これまで移送サービスの運転を担っていた職員からは、普段運転しているクルマより大きなハイエースを運転するのが怖かったといういう話もあり、単純に労力が削減された以上の効果があったのではと思います。
 このように他分野との共創では、必ずしも何か新しいサービスを生み出さなければならないのでなく、「交通」という視点にとどまらず「移動」という広い視点で需要を捉えることで、今あるサービスを組み合わせることも含まれると考えることができます。その結果、地域で行われている様々なサービス(この事例であれば介護)がより良くなることにつながることが地域経済循環の一部だと考えれば、少しは取っつき易くなるでしょう。

取っつき易くても簡単じゃない

 一方で、取っつき易いからといって簡単にできるわけでないのも事実です。
 介護事業者からすれば、タクシーは移動させてくれるだけで利用者のケアなんてできないでしょ!とか、タクシー事業者も昼間は車両が余ってるとかいわれるけど運転手がいないんだよ!とか、実際にやろうとすると個別の事情があることがほとんどです。

 先行事例をそのまま真似て自分たちの地域でやろうとして失敗するのはこれが原因です。「共創」すること自体は良いことなので総論賛成となりがちですが、実際には個別の事情を調整する段階で反対となってしまうのです。「共創」することが目的となってしまうと、共創することを競争し、良いことのように思えるので反対できず、最後は息切れして続かないばかりでなく、地域全体が疲弊するということにもなりかねません。

 そうならないために、「共創」をゴールと考えるのではなく、異なる立場の人が対話を始めるきっかけだと考えて、お互いの「できること」の最大値で協力するのではなく、お互いの「やりたいこと」の範囲で協力することから始めるのが良いでしょう。

参考文献

国土交通省:地域公共交通の「リ・デザイン」とは

国土交通省:アフターコロナに向けた地域交通の「リ・デザイン」有識者検討会

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