スクールバスの空き時間をコミュニティバスとして活用することはできますか?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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スクールバスの空き時間をコミュニティバスとして活用することはできますか?

天の声
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地域公共交通へのスクールバスの活用はよく出てくるアイディアです。いくつか注意点はありますが、子供たちの安全を確保した上で、上手に活用しましょう。

どの空いている部分を使うのか?

 スクールバスは一般的に朝夕の通学時間しか運行されておらず、多くの場合は毎日利用する人数も決まっているため、空いている時間や空席を地域住民のために上手く活用できないかというアイディアはよく出てきます。地域公共交通計画の中で求められる、輸送資源の総動員の中にもスクルーバスは例示されており、その活用が期待されています。

 スクールバスの活用と書きましたが、実際には子どもたちと地域住民が一緒に利用する方策として、いくつかのパターンに分けられます。

  • 混乗化:これまでのスクールバスに地域住民が「混ざって」乗車
  • 乗合化:一般的な「乗合」バスに子どもたちが乗車
  • 共用化:同じ車両を「共用」し、スクールバスの利用時間以外に乗合バスとして運行(一緒には乗り合わない)

 どのパターンで行うかによって注意すべき点が変わってきます。それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、自分たちにあった方法で活用しましょう。

混乗化

 スクールバス「を」活用するということは、既にスクールバスがあるということなので、一番最初に思いつくのはこの方法かもしれません。
 混乗化だけではありませんが、スクールバスの活用で前提となるのは、最も優先順位が高い子どもたちの登下校の移動が確保されることです。大人たちは学校を卒業して大分時間がたってしまい忘れがちですが、スクールバスは短縮授業の時もその時間に合わせて運行していますし、それ以外にも校外学習や部活の遠征といった用途に使われることもあります。コミュニティバスとして利用することで、学校行事での利用ができなくなるというのは受け入れがたい、というようなことがよくあります。

 また、スクールバスの車両購入や運行に補助金を受けている場合は、「へき地児童生徒援助費等補助金に係るスクールバス・ボートの住民の利用に関する承認要領」に則って、文部科学省の承認を得る必要があります。とてもお役所的な対応ですが、この補助金はあくまでも子どもたちの移動を助けることが目的なので、対象外である住民が利用する場合は目的外の利用であるため、あらかじめ承認を得ることが必要です。

 この承認を受けるための要件として「子どもたちの登下校に支障のないこと」「安全の面で万全を期すこと」が求められており、子どもたちが優先であることが示されています。

乗合化

 混乗化とは逆パターンで、一般の乗合バス(路線バス)を子どもたちが通学に利用するというパターンです。子どもたちがバスに乗るというところだけ切り出せば、不思議なことは何もありませんが、スクールバスが通常無料であるのに対して、毎回運賃を払って乗車するところに違和感があるかもしれません。

 これに対しては、子どもたちに定期券を交付し、それに掛かる費用を自治体が負担することで、乗車時に運賃の授受がなくなり、これまでと同じスクールバスの感覚で乗車をすることが可能です。また、混乗化の際に必要となる文部科学省への承認も必要ありません。

 自治体からすると、これまでスクールバスの運行に掛かっていた費用が定期券交付の費用に付け変わるイメージです。神奈川県大井町などではこれに加えて、普段スクールバスを利用していない子供にも、申請により定期券を交付し、公共交通の利用促進に繋がるような仕組みとしている地域もあります。

共用化

 共用化は子どもたちと地域住民が乗り合うことは想定せずに、朝夕はこれまで通りスクールバスとして活用している車両を昼間にコミュニティバスとして活用するというように、時間帯により車両の使い方を変える方法です。混乗化と同様に子どもたちの利用が優先されますが、あらかじめ調整の上で使用する時間帯を定め、可能な時間の範囲で共用します。

 また、スクールバスとしての利用時間帯には地域住民は乗車しないため、子どもたちが乗り切れないこともなく、安全の確保も容易であるため、混乗化より学校やPTAの同意が得やすいというメリットもあります。

 逆に、共用化を検討する際に問題となるのが、車両は共用できても運転手が共用できないということです。これまでのスクールバスの運用に合わせて朝夕に運転する運転手は確保されていますが、昼間も同じ人が運転しようとすると運転時間が長くなり、一人で運転することが困難となります。バス業界全体で運転手不足がいわれる中で、新たに運転手を確保するというのは難しい問題となります。

子どもたちの安全が最優先

 このようなスクールバスの活用方法はいくつかありますが、実際には簡単にいきません。前述したように、子どもたちの「安全の面で万全を期すこと」は必須条件であり、これは混乗化以外の場合にもあてはまります。

 特に、地域住民から、大人と子供が乗り合わせることに対する不安から、混乗化や乗合化について反対意見が出されることで、検討が進まない自治体もあります。さらにコロナ下の運用では、これまで混乗化を認めていた自治体でも密を避けるために混乗化を止めたという事例もあります。

 これに対しては、こうしたら確実に子供たちの安全が確保できるということはありませんので、学校、PTA、さらに地域の人々とよく相談をしながら、子どもたちの安全が最優先であることを忘れずに取り組みを進めていくことが重要です。

参考文献

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