前編に引き続き、2022年夏に沖縄県で「誰もが使いやすい交通、理想の交通ってなんだろう?」をテーマに、現状の公共交通ではカバーできていない生活や観光の移動ニーズを考え、そのニーズに答える新たな交通手段を検討した上で、その交通手段をデータ化して路線図上に可視化することを目的として開催されたワークショップの内容をお伝えいたします。
メインイベント(2022/8/16・17 @沖縄産業支援センター)
メインイベントでは、プレイベントで分かれた6チームで、4つのことにチャレンジしました。
- 新たな交通手段を考える
- データを作る(駅やバス停のポイント、経路、時刻表)
- 発表資料を作る
- 発表する
技術的な面にも触れておくと、上記「2. データを作る(駅やバス停のポイント、経路、時刻表)」については、チーム内で検討した路線の情報をGoogleスプレッドシートに入力し、そのデータを事務局でOTTOP(Okinawa Transit Tourism OpenData Platform)の仕組みを用いてGTFSデータに変換することで経路検索が可能な状態にし、各チームで検証を行いました。私も今回初めてOTTOPの仕組みに触れてみましたが、エクセルと同じ感覚で入力したGoogleスプレッドシート上のデータを簡単にGTFS化でき、とても便利なツールだと思いました。一方、データ変換が簡単であるものの、元となるデータを入力する作業者次第で、セル結合や行列単位の非表示機能など独自の入力規則でデータが入力できてしまい、その後の工程でGTFSデータに一括で変換ができないという問題がありました。これに対応するために、ダイヤの見直し等が発生しデータを作り直す度に、事務局でデータのクリーニング作業(微調整や不要なデータ削除など)を行う必要が出てきてしまう点は、事務局の担当者としては困難な状況でした。
また、「3. 発表資料を作る」においては、Canvaというツールを利用しました。Googleスプレッドシートより豊富かつオシャレなデザインのテンプレートがが多く、事務局であらかじめ発表資料のテンプレートを用意しておくだけで、各チームがカスタマイズして見栄えが良いプレゼン資料を作っていました。複数名でプレゼン資料を作る機会には今後もぜひ活用したいツールです。
肝心の「2.新たな交通手段を考える」については、各チームで既存の公共交通網やRESASで公開されているデータ、自治体が発表している都市計画なども参考に「誰」に「どのような状況」で利用してもらいたいか?「どうしたら乗ってもらえるか」を時間が許す限り議論をしていました。現地を訪れた経験がないメンバーとの意識統一と、交通結節点となるバス停の設置場所を調査するために、実際に現地を訪れ調査してきたチームもいて、検討方法についても様々な特徴がありました。
各チームに分かれて「新たな交通手段」を考えてもらった後には「交渉タイム」という時間を設けて、他チームが考えた交通手段との連携を考えてもらいました。交渉の結果、乗り継ぎしやすいようルートを変更したり、停留所の位置やダイヤの調整を行うチームも出てきました。その様子を外から見ていると参加者は市町村を跨いだ路線作成や広域の計画策定時の調整の難しさを疑似体験する場にもなっているようにも感じました。
各チームが考えた「新たな交通手段」
各チームの検討結果は以下のようになりました。
(プレゼン資料や路線の詳細はリンク先から確認できます)
- チームA 宜野湾市に住みたくなる路線
(メインエリア:宜野湾市)
普天間基地を突っ切る「ねたてライナー」。海が見えるロープウェーで楽しく移動 - チームB ゴールデンサンライズルート
(メインエリア:金武町〜東海岸)
北部東海岸沿いに住みながら那覇市近郊への通勤を可能に!東海岸の活性路線 - チームC チームB学校に行こう 観光に行こう
(メインエリア:南城市〜南部)
南部地域から学校をつなぎ通学を楽に。八重瀬町、南城市の小さな魅力も見逃さない、素通りさせないコミュニティバス - チームD レンタカーなしでゆっくり沖縄南部を楽しむ観光路線を作ろう!
(メインエリア:南城市〜南部)
観光最終日はレンタカー要らず!ゆっくり南部観光&空港まで楽々移動。 - チームE パリピ観光の夢を叶える斬新路線
(メインエリア:沖縄市〜中部)
北谷だけじゃない、ディープな沖縄市飲みを叶える後悔させない片道ライナー! - チームF ずみ!みゃーく 宮古島観光路線
(メインエリア:宮古島)
宮古島滞在がレンタカー無しで完結!無敵観光路線
最終プレゼンの様子
各チームとも個性的な内容となりましたが、チームAでは米軍基地が返還された前提で、宜野湾市都市計画マスタープランに描かれている道路やエリアを考慮するという、沖縄ならではのアイデアもありました。各チームとも、”空想”で考えて良いはずの交通手段を、現実の課題や計画を考慮することで説得力があるプレゼンになっていたと感じました。
さいごに
イベントの参加者から寄せられたコメントを紹介しておきます。
- ちゃんと地図を見ながら議論することで納得度が高まった。
- 空想とはいえ、路線の定義を決めるところ、落とし所が難しかった。
- データと感覚を併用したが、議論をする中でデータでは見えない部分など経験や感覚も大事だと思った。
- 現行計画、現地調査や走行時間を確認して時刻表の設定が大変。。。
- 実際に自分が乗車してみたいと思えるルートを楽しみながら考えました!
- 既存のバスのルートは、意外に理にかなっていることが分かった。
- 時刻設定が難しい。バス会社も苦労してるなと思った。
このコメントや現地で参加者と話をすると、イベントに参加した方が普段はあまり使っていない公共交通に興味を持つきっかけとなったことを確信しました。また沖縄に詳しくなかった方が沖縄のファンになり「また来てみたい」と思ってもらえたと感じました。
「空想路線を作る」という現実とかけ離れた目標設定でしたが、イベントを通じて参加者にとっても主催者にとっても、地域公共交通を考える良いきっかけになったと思います。来年以降も同様のイベントが企画できるよう働きかけてみたいと思います。事務局として参加しても、とても楽しいイベントでした。
参考資料
- OTTOP(Okinawa Transit and Tourism Opendata Platform)https://www.ottop.databed.org/
- 開催報告「おきなわ空想路線図を作る! データ活用ワークショップ」https://www.ottop.databed.org/post/report-oodc2022