担当:西堀泰英(大阪工業大学)

通学に困っている生徒がいますが,こうした困りごとに関係する組織は複数にまたがります.通学の問題は誰が取り組むべきなのでしょうか

誰かに任せるのではなく,関係者を巻き込んで地域全体で取り組むことが大事だと考えます
この記事は通学・送迎シリーズの第3弾です.第1弾は「通学でのかしこい送迎の使い方を考えよう」,第2弾は「通学の苦労は将来に受け継がれる」でした.第2弾の最後に,「通学の苦労を地域で受け継がないための努力が求められる」ことを書きました.今回の記事では,このことについて取り上げます.
通学は交通問題のオンパレード
通学の問題は実に様々です.筆者が愛媛県の高校生と進学を控えた中学3年生を対象に行った調査では、通学で直面する主な問題として、次のようなものが確認できました.
望む教育を受けられる学校が近くにない.通学に利用できる公共交通の本数が少ない.定期代が高い.最寄駅や学校まで送迎が必要.その送迎が家庭や社会の負担になる.自転車や徒歩通学で交通事故や犯罪被害に遭わないか心配.などなど.
通学は交通問題のオンパレードと言えます.
通学の負担を生徒や家庭に押し付けない
なぜ通学が交通問題のオンパレードになるのかを考えます.
特に地方部に言えることですが,職場,病院や商業施設は広い土地が確保できる郊外に立地することが多くあります.公共交通が整っていなくても,駐車場を設けることで自動車利用者は便利に来訪することができます.その結果,元々公共交通サービスが不十分な地域であるのに、さらに公共交通の利用者が減り公共交通が減便・廃止されることで,自動車を利用できない人の移動がより一層不便になっている側面があります.
少子化に伴う高校の再編整備(統廃合)は,通学の交通問題をより一層深刻なものにしています.
自動車利用が便利な社会を作ったこと(自動車社会化:モータリゼーション)によって通学が交通問題のオンパレードになり高校生やその家庭が不便を被っているのであれば,不便を強いられる高校生の通学の負担は,生徒自身や家庭が負うのではなく社会が支えるべきです.
しかし現在は人口減少や自動車社会化の進展により,すでに述べた高校の再編整備や公共交通の減便や廃止が行われるなど,社会が通学を支えられなくなってきています.その結果,通学問題に直面する生徒や,送迎を担う家庭に,負担やがまんを強いるようになっていると言えます.これまでとは異なる取り組みが求められます.
社会(地域社会)ができることはたくさんある
高校生の通学を社会が支える方法は,公共交通事業者に頼ること以外にも様々なものが考えられます.
公共交通のサービス改善
公共交通のサービスを改善し,より利用しやすくすることで通学環境が改善することが期待できます.公共交通サービスは,路線網,ダイヤ(運行本数や速達性),車両や駅等の施設,運賃など様々な要素で構成されます(詳しくは,公共交通が提供する6つのサービスとは何でしょうか?).しかし,運行を担う公共交通事業者は人手不足や厳しい経営環境に置かれており,改善したくても単独ではできない場合が多いのが実情です.
これらのうち,駅等の施設は地域の社会インフラと捉えることもでき,地域社会が交通事業者と連携して改善することができそうです.駅舎内の待合空間が快適なものとなり,宿題や受験勉強ができるようになれば,単なる待ち時間を有意義な時間にすることもできます.例えば,鉄道事業者と地域が連携して駅舎の建て替えやリノベーションを行う事例は全国各地に見られます(図1)(地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言 参考資料).

図1 地域の自治体等と連携した駅の活性化の例参考文献1
また,兵庫県加西市のコミュニティバスでは,路線やダイヤの見直し,無料乗車券の導入,新たな路線の導入などサービスを改善したことにより利用者数が増加したことが過去のトリセツ記事でも報告されています(公共交通の利用促進に取り組むために その4:人口減少/自動車型社会でも公共交通の利用が増加した事例).
通学定期券代に対する補助
また,運賃に対して地域社会ができることの一例として,通学定期券代に対する補助が挙げられます.例えば,これも過去のトリセツ記事(いまさら聞けない「通学」支援とその効果)でも紹介した,滋賀県竜王町(町内在住の高校生や大学生等に対して町内を発着する路線バスの定期代を半額補助)や,兵庫県神戸市(市内在住高校生が市内高校に通う際の通学定期代の全額補助)が取り組む事例がありますが,他にも多くの地域で取り組まれています.
網羅的に調査したわけではありませんが,通学定期券代への補助は市町村が行うことが多いようです.その場合,補助対象となる範囲(=通える学校)が限られるケースもあるようです.高校生の通学を考えると,基礎自治体の範囲を越える支援があることが望ましいと思います.
始業・終業時間の見直し
学校に最寄りの駅やバス停にあと数分早く到着できれば始業に間に合うのに…,という声は珍しくありません.ただ,通学だけのためにダイヤを見直すことは容易ではないかもしれません.車両や人員の運用,鉄道であれば優等列車との接続や単線区間での行き違いなど影響が広範囲に及ぶことが考えられます.
ダイヤを変えるのが難しければ,代わりに始業や終業の時刻を変えることが考えられます.例えば愛媛県南部の高校では,JRのダイヤ改正に合わせて終業時刻を5分早める対応がとられています.(JRのダイヤ改正に伴う時程の変更について)
道路利用時のルールを守りマナーを高める
以上は公共交通に関連して地域社会ができることでしたが,自転車や徒歩など公共交通を使わずに通学する生徒も多くいます.特に自転車は,ヘルメット着用の努力義務化や,交通違反に「青切符」が導入されるなど,その利用に対する社会の目が厳しくなっています.
自動車や歩行者にとっては,自転車が厄介者に見えることがあるかもしれません.一部の自転車利用者が,イヤホン装着,逆走,横並び走行,歩道を高速で走行をしているなどという声も聞こえてきます.一方自転車にとっては,車道を高速で走る自動車に恐怖を感じることがあるでしょうし,自転車通学する生徒が交通事故に遭うことを心配する保護者もいるでしょう.
しかしお互いに邪魔者扱いを続けていては何も解決しません.大事なのは,ルールを守りマナーを高めお互いに思いやりを持って道路を利用するということに尽きると思います.そんな説教じみたことを言われても誰も守らないと思われるかもしれませんが,道路を利用する一人ひとりが意識を変えることができれば,通学だけでなく地域の交通安全につながることが期待できます.
地域全体で取り組むことが大事
通学の問題を改善するために大事なのは,通学の問題に気づき,それをなくすには誰が何をすべきかを考え,対策するための役割分担を決めて実施する流れを作ることです.学校や交通事業者が単独で取り組んでもできることは限られるため,足りない部分の埋め合わせは生徒や家庭が負担することになります.地域の関係者が連携して取り組むことが求められます.
自治体で交通政策を担当されている方々は,通学の問題に気づきやすいのではないでしょうか.交通政策側から通学問題に関係する部局,例えば教育政策,こども政策,まちづくり(都市計画や道路)政策,安全・防犯政策などの部局に働きかけることを検討してはいかがでしょうか.多部局で連携することでできることの可能性が拡がります.さらに交通事業者や地域住民(PTA等を含む)などの協力を得て,地域全体で取り組むことが大事です.
参考になる事例としては,2021年に千葉県八街市で痛ましい交通事故が発生したことを受けて行われた通学路の合同点検が挙げられます.この時は,全国的な取り組みであったことからこども家庭庁が司令塔となり,関係省庁の下で教育委員会や学校,警察,道路管理者が連携して点検が進められました(図2).

図2 通学路合同点検の推進体制参考文献2
このやり方を踏まえると,地域で通学問題に取り組む際には,自治体が司令塔となって教育委員会や学校,警察,道路管理者,交通事業者,そして地域住民の参画を得る体制を構築することが考えられます.このような体制を構築して通学の問題に取り組み,通学の苦労を将来に受け継がないようにすることが,住み続けられる地域の実現に求められるのではないでしょうか.
参考文献1 国土交通省:地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言 参考資料,2022年.
参考文献2 内閣府:令和6年度交通安全白書,2024年.

