担当:トリセツ編集会議
突然ですが、みなさん、本は読んでますか?
・・・と、上から目線気味のメッセージから始まり恐縮ですが、トリセツ編集会議メンバーも普段はなかなか本をじっくり読むことが出来ず、せっかく買った本も、いわゆる「積ん読」状態が・・・
という状況のなか、ふとしたキッカケで「トリセツ編集会議メンバーで読書会をしよう!」というオフライン企画が持ち上がり、先日第1回「トリセツ読書会」を行いました。ルールは単純、各メンバーがお気に入りの1冊を持ち寄り、読破した上で要約及び感想を書いたレジュメを1~2枚程度用意して配布。1人10~15分程度のプレゼンを元に議論を深めるというスタイル。
読書なんて最近マトモにしてないし、まとめて書評を発表するのも上手くできるかなぁ・・・と不安でしたが、いざやってみると、これが楽しいこと。各人が持ち寄った書籍は下記に示すとおり過去の名著から最新の技術論までバラエティに富んでおり、メンバーが紹介する多くの示唆を含んだ書評から議論が盛り上がり、討論の時間が全く足りません(笑)。
せっかくの機会なので、今回、メンバーが持ち寄った書籍を一挙紹介しますので、みなさん是非手に取って、秋の夜長の課外活動?の参考にしていただければと思います。そして、是非、職場や知り合いの数人とで「読書会」をしてみてはどうでしょうか。他人が読んだ本に対しても興味が沸き、まるで自分が読破したような謎の達成感に包まれること請け合いです!
(誰が何を読んだか?答えは文末)
スマート・イナフ・シティ ~テクノロジーは都市の未来を取り戻すために~
(ベン・グリーン著、中村健太郎・酒井康史訳)
テック企業の語る夢の技術に踊らされてはいけない、という本の帯に誘発されたのが、この本を手に取るキッカケ。急速に進む技術進展に端を発した「スマート・シティ」構想が謳う、テクノロジーがあらゆる都市問題の解決を目指すのだという視座(これを筆者は「テックゴーグル」と称している)に対して警鐘を鳴らす。
技術者が良かれと思って導入を進めているテクノロジーが、技術的に解決可能な「局所解」のみで語られており、社会の背後にある複雑な民主的、政治的要素を(結果的に)軽視していることの弊害・危険性を説く。ただし、しかし、テクノロジーの全否定ではなく、むしろテクノロジーの積極的活用を前提としつつ、「テック・ゴーグル」を外すことの重要性を主張。一つだけ紹介するならば、「テクノロジーに合わせて目標・価値観を決めるのではなく、社会のニーズに応えるためにテクノロジーを導入」すべきという点。安易にテクノロジーに飛びつくのではなく、人間本位での泥臭い議論の上で、適切にテクノロジーをコントロールする必要性を再確認した一冊。
スモールイズビューティフル 人間中心の経済学
(E・F・シューマッハー著 小島慶三・酒井懋(つとむ)訳、講談社学術文庫)
E・F・シューマッハー(1911~1977)はドイツ生まれで、第二次大戦後に英国に帰化し、英国石炭公社顧問を務めた経歴を持つ。
石油危機以前に、西欧諸国の経済成長の結果から、科学技術の進展、大規模化により、経済が大規模化することが、環境や人間性への悪影響を与えている可能性を指摘し、これに対するアンチテーゼとして、途上国の経済成長では「中間技術」により、環境や人間性と調和した小規模で分散した永続的な社会のあり方を目指すべきことを提唱。
中間技術とは、大量生産ではなく、大衆による生産と定義されている。著者は本書において、生産について、賃金を得るための「労働」ではなく、一人ひとりが創造力を発揮しながら取り組む「仕事」と捉えているようであり、生産を通じて人間性を高めるものとしており、それを補助するための技術=中間技術が必要と主張している。この中間技術は、地域に根ざして蓄積されてきた知識に基づき、結果として生産や経済活動が各地域に分散することで永続的な社会につながると考えている。
著者がこのような着想に至った背景として、キリスト教や仏教といった宗教的倫理観が背景にあり、中でも仏教国の自然と共生する人間のあり方が大きな影響を与えているようである。
大規模で暴力的な資本と科学技術によって自然環境を破壊し資源を浪費するのではなく、人間の知識、地域に根ざした技術により、小規模で分散した社会を目指すことが、一人ひとりに幸福と社会の永続性につながるとした考え方は、現代において様々に指摘される「持続可能性」を先取りしたものと言える。
翻って、本書から現代日本に生きる我々が得るべき教訓は、途上国の発展とは別のものであろう。すなわち、途上国の成長局面における自然・人間性に対する破壊を回避するということではなく、(元)先進国の衰退局面におけるソフトランディングにも、小規模で分散し、地域に根ざした経済や技術が必要ではないか。AIに代表される最新技術はますます資本集約的となっているが、その利用は地域の富を域外に流出させることになる。豊かな地域社会を取り戻すためには、地域の人がそれぞれに創意工夫をしながら仕事を担い、それぞれの地域で小規模な経済活動を回していく必要があるのではないか。
豊かさとは経済の規模だけでなく、貨幣換算できる経済の外側にある人間性であり、それを高めるためにはスモールな技術や経済を目指すべきという指摘は、現代的であると考えさせられました。
バラバラな世界で共に生きるーリチャード・ローティの哲学
(朱 喜哲(シュ ヒチョル)著、NHK出版新書 2026年5月、2024年にNHKで放送された「100分de名著 ローティ”偶然性・アイロニー・連帯”」もベースになっている)
◯何故、この本を手に取ったのか?
・高校の同級生の哲学者Oくんからの推薦図書。
・推薦の弁「なぜアメリカでトランプが選挙に勝ったのか。民主党的(リベラル)なものが、何となく邪悪なものにされつつある。その理由が知りたいということと、リベラル再生の道はないのか?さらに言うと、トランプ的なものはまだまだ続くのだろうか?ということにヒントが得られると嬉しいと読み出した。
・さらに、公正と公平についてもヒントになる本なら、さらに嬉しい。
◯この本は米国の哲学者リチャード・ローティ(1931年10月4日 – 2007年6月8日)の著書をベースにしている。
我々は何の気なく使う「ことば」で「こちら側」と「あちら側」を分断し、相手の実態などは無関係に「こちら側」を仲間、「あちら側」を敵対する人たちとして分類する性癖がある。SNSの普及がその傾向を推進している。
同じ語彙を使う人たちに囲まれていると安心感が得られるが、それ以外の人たちは見えなくなってしまう。そうならないためには、常に自信満々でいるよりも、いつも考え続けること、「語り続けること」が望ましいのではないか。
異なる価値観を持つ人々が対話を続けながら共に生きる社会をつくりたい。そのためには「みんな仲良く」という道徳的な思考ではなく、意見や価値観が異なる人々が、共に社会をつくるためには、「同じになること」ではなく、「違ったまま共に生きるための条件」を考える。
そのためには、社会から「違い」をなくすことはできない128ので:
①真理よりも対話
②正しさよりも連帯
③多様性を前提とした民主主義
が大事になる。
本書の重要な概念は、様々な価値観など異なる人々とも、違いを強調するよりも、目指すべき社会(連帯)の輪を見つけて、議論を続けることにある。
「考え方は違う。しかし、この社会を一緒につくっていく必要があるから、共通の問題について協力する」
社会的共通資本を整備し維持管理していくことで望ましい社会を形成・維持する思想と
共通する思想だと思う。
いかにして問題をとくか
(ジョージ・ポリア著 柿内賢信訳、丸善出版)
本書は数学者であるジョージ・ポリアによる数学の解法を得るための方法論をまとめたものである。しかし、「未知なるものに出会った時にどのように解き明かしていくのか」という手法は数学に限ったものではなく、地域公共交通を含めた我々が暮らす社会の問い全てに共通する。
最初に必要なのは「問題を理解する」ことである。そのために、問題が使われている言葉全てを理解し、自分の言葉で置き換えることが、未知なるものが何なのかを理解するための助けとなる。
次に、過去に類似の問題を解いたことがないか、一部分だけでも解けるものはないかを考え、「問題の類型化・簡易化」する。これらが行えない場合は、問題の解けない部分が何かを明らかにすることが、解を得るための助けとなる。
ここまでできたら、問題を解くことは簡単であり、他に必要なのは注意と忍耐だけである。専門家でさえこのプロセスを繰り返し解を得ていることを理解し、専門家が解をあらかじめ持っていると誤解しないことが重要である。
最後に、得られた解について議論(検証)、試す(実証)ことで振り返ることが、次なる問いに対する備えとなる。
数学書といわれるとややハードルが高い印象があるかもしれないが、ぜひ一度手に取って1ページだけ開いて欲しい。最初の1ページに本書の9割が詰まっている。
発展する地域 衰退する地域 -地域が自立するための経済学
(ジェイン・ジェイコブズ著、中村達也訳、ちくま学芸文庫)
著者は、研究者ではなくジャーナリスト。膨大な量の事例を集め、それらを元に地域が発展・衰退する要因を経済の視点から説いた内容。原著は1984年に出版されたものだが、事例の中には経済発展を遂げた日本の状況についても触れられている。
冒頭で、過去の経済学の著名な学者(例えばスミス、ミル、ケインズ他多数)とその学説を取り上げ、それらの学説ではスタグフレーション(不景気とインフレの同時発生)に対処できないと批判し、マクロ経済学は国単位(国民経済)で捉えるが、都市経済で捉える必要があると主張する。
都市経済の発展と衰退を説明するためには、都市の統計だけではわからないため、①遠方の都市市場、②仕事、③誘致された工場、④都市の技術(水道システムや道路)、⑤都市の資本の5つを見ることが必要である。
都市が発展するには、都市が自ら生産できずかつては輸入していた財を、都市が自力でつくる財で置換することによって、都市が成長し経済的に多様化する輸入置換(import-replacing)が必要で、輸入置換はイノベーションを起こし都市経済を発展させる(東京の自転車産業の例:輸入自転車の修理→部品製造→全体製造→国内移出→国内他地域でも同様の循環)。輸入置換がうまくいくには、臨機応変の改良を意味するインプロビゼーション(improvisation)が必要であると主張する。
一方、企業誘致や補助金依存や軍需依存は、発展ではなく衰退を招く「衰退の取引」であると指摘している。ニューディール政策(あるいはTVA(テネシー渓谷開発公社)計画、私たち(私だけ?)は成功事例として学んだが)を例に、活気ある都市を持たない地域に補助金がつぎ込まれても、自立的な経済(輸入置換都市)の創造には役に立たず、企業誘致や軍需依存も同様であると指摘する。そして、日本の地方部では雇用のための工場の誘致に懸命であるが、それらの地域ではなぜ自前の活発な経済とその後背地のための工場が発展しないかが問われなければならないと指摘する。この指摘は今の日本の地方都市にもあてはまるものではないだろうか。
成功につながる経済発展とは、梅棹忠夫の言葉を引き合いに「インプロビゼーションを伴う前例のない仕事への『漂流』」であると表現する。つまり始めから定められた完成形を目指す「目的指向型」であるよりは、身の回りの物を使って足りないものを補いながら新しいものを自然発生的に生み出していく「修正自在型」にならざるを得ないことを主張している。
なお、本書の解説を執筆している片山善博氏は、鳥取県知事だった当時のことを振り返り、輸入置換などのことを「県経済の自立」や「地産地消」と表現している。この言葉の方が私たちにとっては理解しやすいかもしれない。
誰が読んだか?
スマート・イナフ・シティ ~テクノロジーは都市の未来を取り戻すために~:塩士圭介
スモールイズビューティフル 人間中心の経済学:福本雅之
バラバラな世界で共に生きるーリチャード・ローティの哲学:土井勉
いかにして問題をとくか:井原雄人
発展する地域 衰退する地域 -地域が自立するための経済学:西堀泰英

