移動に困ってる人って誰のこと?対象の解像度を上げよう

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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とにかく移動に困ってる人を助けなければいけないのです!

天の声
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その意気や良し!しかし、人とお金は限られているため、困ってる人がどういう人なのかを絞り込むことも必要です。

 

解像度を上げるってどういうこと?

 様々なビジネスの場面で「解像度」という言葉が使われるようになってきました。解像度の本来の意味は、画像がどれくらいの細かさで表示されているかを示すものですが、ビジネスの中では、対象となる事象をより細かく・深く・構造化して考えることを「解像度」を上げると表現しています。

 移動に困っている人の例として、高齢者という枠組で示されることがよくあります。しかし、移動に困っている高齢者が多いのは事実ですが、高齢者の全てが移動に困っているわけではありません。高齢者を一括りにした解像度が低い状態から、細かく・深く・構造化することで解像度を上げて考えてみましょう。

移動に困っている高齢者を例に解像度を上げてみる

細かく

 国際的な高齢者の定義は65歳以上の人とされており、これが最も解像度の低い状態といえます。これを1段階「細かく」すると高齢者の医療の確保に関する法律では、65 – 74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と分類しています。

 高齢化率と高齢者数で示したように、今後日本では高齢化率は上昇しますが、65歳以上という解像度が低い状態で考えた場合は、高齢者は横ばいからやや減少することになります。しかし、これを前期/後期高齢者に区分して解像度をあげてみると、前期高齢者は早期に減少に転じますが、後期高齢者はまだまだ増加するという違いがあることが分かります。

 また、道路交通法では75歳以上には免許証更新時に運転技能検査が義務化されていますが、その前段階で70歳以上のドライバーに対して高齢運転者標識を付けて運転することを求めています。このように解像度の上げ方(年齢での区分の仕方)は一様ではなく、比較検討しながら、問題の分岐点になるところを探ることも必要となります。

深く

 年齢の区分を「細かく」した後に行うのは、同じ区分の中を「深く」考えることです。例えば75歳以上と細かくした上で、その中で運転免許を所持しているか、所持していないないかに分類すれば、困り具合に差があるのは明白です。

 また、免許を所持していたとしても、他に移動手段がないため仕方なく運転している人と、まだまだ元気で問題なく運転できる人と分類することもできますし、免許を所持していなくても、家族と同居して送迎してもらえる人とそうでない人では状況が異なります。細かく区分した上で、それぞれの区分を「深く」掘り下げていくことで、正確に把握することができるようになります。

 さらに、近くにバス停があれば自分で歩けるという人もいるし、自宅前から乗降を介助して初めて移動できる人もいます。利用者に「どちらが良いか?」という聞かれると、自身の状態によらず便利なサービスを選んでしまいがちですが、便利にすればするほどコストがかかります。想定している対象に必要なサービスという視点で、あえてサービスを絞るということも必要です。

構造化

 「細かく」「深く」考えた上でもう一つ気を付けなければならないのが「構造化」です。「深く」の例では75歳以上と細かくした上で、免許の有無で 深くしていきましたが、免許の有無については75歳以上というのは関係なく、65歳以上にもいますし、そもそも18歳以下は免許を所持していません。同様に送迎について家族との同居だけで正確に判断することはできず、その家族の免許の有無に加えて、就労状況などの時間の自由度といったことも考慮する必要があります。

 このように解像度を上げるために「細かく」「深く」するのは一方向ではなく、様々な条件が複雑に重なっていくことになります。これを整理をしていく過程が「構造化」です。これが不十分であるとせっかく解像度上げたにもかかわらず、重要な対象者を取りこぼしてしまう場合が出てきます。

解像度を上げればいいわけでない

 解像度を上げるほど対象者は絞り込まれて行くことになります。上記の表に加えて、さらに目的(通院や買物)や曜日や時間帯等の要素で深掘りしていくと、一番極端な状態としては1人の対象者のためのサービスが必要になります。

 それが実現できる公共交通サービスはタクシーでの輸送しかなく、これを具体的に交通政策に落とし込むとすると、タクシーチケットの配布などの方法が考えられます。しかし、コストの観点から持続性を確保することが困難であったり、そもそも多様な需要に同時に対応できるほどタクシーの台数がなく、サービスが提供できないということもありえます。 

 そういった場合は、解像度をある程度のところで留め置き、乗り合うことを前提とした最大公約数的なサービスを選択することも必要となります。意図的に対象者を絞り込まずグループ化することは、持続性を確保するという点においては有効な場合もあります。