乗合バスの運賃はどうやって決まっているの?

担当:大石信太郎(近畿運輸局・乗合バス運賃WG)

地域住民
地域住民

乗合バスの値上げが進んでいるようですが、100円のコミュニティバスもあります。バスの運賃はどうやって決まっているのでしょうか。

天の声
天の声

バスの運賃は、バスを走らせるのにどれくらい費用がかかるか、を計算したうえで、乗った人が払いたいと思う金額を考慮して、決まることになります。

乗合バスの値上げが進む理由

 乗合バスの運賃は、法令では、事業全体の経営に必要な費用である「総括原価」をまかなえる範囲で決めることになっています。
 しかし、コロナ禍を経て、利用者数の減少が固定化し収入が減少して収支が悪化してしまいます。これに加えて、深刻化するバス運転者不足に対応するため、運転者の待遇改善のためにかかる費用も必要になります。また、燃料費高騰など、さまざまな費用の増加にも対応しなければなりません。このように「収入が減少していること」と「費用が増加していること」が背景となって、乗合バスの値上げが進んでいます。

地域の協議で決める方法も

 乗合バスの運賃は、法令では、審査を経て国の認可を受けることとなっていますが、地域の協議によって運賃が決めることも可能です。、その場合は運賃を国に届け出ることととされています。地方自治体が主体的に企画し運行するコミュニティバスでは、地方自治体の負担を前提に、地域の協議(実際には地域公共交通会議などでの協議を経ることが想定されます)を経て100円など運賃を安く設定している例があります(参考:「コミュニティバスって100円でいいの?」)。
 この場合には、法令上、費用に関する審査は必要ありませんが、乗合バスを走らせるためのかかるお金はいくらで、これを誰がどのように負担するのか、という点は、地域の公共交通を持続的に提供するためにも地域公共交通会議などの協議のなかできちんと押さえておくべきといえるでしょう。

運賃施策の工夫

 運賃の設定にあたっては、値上げや値下げだけでなく、運賃設定の工夫も行われています。
 例えば、奈良交通の定期券「CI-CA(シーカ) plus」では、自動継続型、WEB販売、金額式(利用区間ではなく、運賃区間で設定した定期券なので、定期券の金額以下の区間は乗降が自由になります)、学生定期券の長期利用割引といった工夫を加えた定期券を設定し、新たな利便性向上策を進めています。
 また、愛知県東浦町「う・ら・ら」では、回数券をバス・タクシーで共通利用ができるようにし、公共交通に不慣れな人でも利用しやすくなるような働きかけを行っています。
 こうした取り組みにより提供される付加価値は、いずれも単純な値上げや値下げといった従来の施策によるものではなく、移動の目的やおでかけで行う活動を意識した利用者目線の施策により実施されたものであり、コロナ禍を経て移動の価値が再考される今こそ検討すべき施策ではないでしょうか。

地方自治体も関わる運賃施策

 地方自治体が利用者の運賃負担を軽減する施策は、事業者が提供する路線やダイヤなどサービス水準(参考:公共交通が提供する6つのサービス)の向上や運行の効率化等を積極的に行うインセンティブとなりづらい赤字補填ではなく、利用者増加を図るための政策的割引運賃として位置づけられます。赤字補填は路線や便数の維持には必要となりますが、利用者の増加は期待しづらいと考えられます。一方で、行政補助による運賃の割引化などの施策は、利用者の増加が期待できます。
 例えば、マイカーとの競合を意識した低廉かつ利用者に分かりやすい運賃設定として、インパクトのある価格設定(例えば、利用者負担額の上限を200円とする地方自治体の施策や、自治体と連携したサブスク定期券の発行など)により、利用者の増加が期待できます。。ただし、この場合、合わせてサービス水準の向上にも取り組むことが重要です(近畿バス団体協議会「乗合バス運賃施策事例集」 №24 栃木県小山市(コミュニティバス「おーバス」)、№26 全但バス(兵庫県豊岡市)、№27淡路交通、などをご参照ください)。
 また、地方自治体が運賃施策に関わることで、地域の利用者に対して、より効果的にPRを行うことができます。加えて、自治体内部で交通部局が他部局の協力を得て施策を進めることで、より円滑に、効果的な利用促進の実施につながることが期待されます。施策によっては、商業、福祉、医療、教育などの交通以外の課題に合わせて取り組むことにより、行政分野全体のクロスセクター効果の把握につながる可能性もあります。
 特に、通学定期券の割引は現状、バス会社の負担により行われている(ということは、バスの利用者が支払った運賃が割引の原資となっている)ことが一般的ですが、今後、子育て支援施策や地域定住促進施策として公的な補助により割引制度を支える取り組みが進展することが期待されます。
 ただし、地方自治体が利用者負担額の一部を補填する施策では、利用者の増加とともに自治体の負担も増加し、財政を圧迫する懸念が生じることや、運賃への補填を止める場合には利用者に値上げと同様の心理的なイメージで捉えられる点には、留意が必要です。

サービス水準と費用負担 

 乗合バスの運賃は、地域として求めるサービス水準を定め、その水準を保つために必要な費用を、誰がどのように負担するか、という手順で検討を進めることができます。
 「安い金額」「わかりやすい運賃」も大事ですが、「地域に必要な輸送サービスを提供している公共交通をみんなで支えるために必要な運賃はいくらか?」という観点で検討を行うことも、地域がより主体性を持って 、持続的な移動手段を確保するために、非常に重要なことです。

参考文献

乗合バス運賃施策事例集(近畿バス団体協議会)
https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000293047.pdf

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