担当:福本雅之(合同会社萬創社)
県の地域公共交通計画なんて補助もらうために地域間幹線を載せとけば良いんでしょ?
県の骨格をなす公共交通ネットワークをきちんと示すようにしましょう
都道府県が地域公共交通計画を策定する理由
複数の市町村をまたがって運行する路線バスのうち、運賃収入では採算が確保できない(つまり赤字)「地域間幹線系統(この解説は別の機会に譲る)」は、都道府県が主催する「地域協議会」において協議し、都道府県が欠損の半額を補助するものに対して国が残りの半額を協調補助するしくみとなっています。
今回の地域交通法の改正に伴って、国の補助制度が地域公共交通計画と連動することとなったため、地域間幹線系統への補助についても、都道府県もしくは沿線市町村が地域公共交通計画に当該系統を位置づけなければ、令和7事業年度(令和6年10月1日以降)から補助対象とならないこととなりました。
このため、各都道府県においては地域公共交通計画の策定を急いでいる状況です。つまり、都道府県が地域公共交通計画の策定に取り組んでいる直接の理由は、地域間幹線系統の補助に対応するため、というのが実情です。
であるならば、いっそのこと地域交通法に規定されている法定事項7つと地域間幹線系統のリストを記載し、事業の項目に「リストに示した地域間幹線系統を維持するために都道府県として補助を行います」とだけ書いておけば良いと思うのですが、都道府県としてのプライドが許さないのか、はたまた正直に書くと誰かに怒られるのか、いろいろとそれらしいことを作文するのでしょうが、そのそれらしいことが本当の理由であるとするならば、令和5年現在まで地域公共交通計画を策定している都道府県が少数に過ぎなかったことの説明がつきませんので、やはり真実は補助に対応するためなのだと思います(※意見には個人差があります)。一方で、計画を策定するのに補助金だけが理由ではもったいないとも思います。
長々と書いているけれども、結局何を言いたいかというと、せっかく都道府県計画を作るのであれば、都道府県として「公共交通ネットワークのあるべき姿」を示すものにして欲しいということです。
都道府県として示すべき公共交通ネットワークの姿
都道府県と一口に言っても、人口も面積も様々ですので一概に言えませんが、多くの場合、都道府県庁所在地といくつかの主要都市(人口10~50万程度)が存在しており、これらの都市に総合病院や高等教育機関、国の出先機関、主要な商業施設が立地し、周辺の市町村から人々が集まってくる、というのが一般的な姿でしょう。
公共交通ネットワークを見ると、これら主要都市間をJR在来線(場合によっては新幹線)や大手私鉄の幹線鉄道が結び、主要都市には優等列車の停車駅が設定されていることが多いでしょう。そしてこの主要駅から周辺の市町村に向かって放射状にJRや大手私鉄の支線、地方私鉄の路線、主要な路線バスが運行されており、さらにこれらの支線の駅や路線バスのバスターミナルからその市町村の中で完結するようなローカルバスが末端の集落まで運行されている、といった階層的な構造を取っているでしょう。
と、ここまで書くと勘の鋭い読者の方はお気づきでしょうが、これらのネットワークを構成する公共交通サービスのうち、単一の市町村で完結しない広域的なものを対象として、都道府県として維持すべきものを示していくのが都道府県の地域公共交通計画に求められているものに他なりません。つまり、都道府県として維持すべき公共交通サービスには、JRや大手私鉄の幹線系路線も含まれれば、鉄道の支線、民間バス事業者が運行する主要路線バス、離島を抱える都道府県であれば船舶や航空機の路線も含まれる可能性があります。そして、これらの路線が赤字か黒字かを気にする前に、都道府県の住民の生活にとって必要不可欠なものであれば、交通モードや収支状況にかかわらず、あるいは、国の補助基準を満たすかどうかにかかわらず、都道府県としてその機能の維持に責任を持つべきです。
国が補助するから都道府県も補助するという考えから脱却しましょう
都道府県で策定中の地域公共交通計画の状況を漏れ聞くところによると、どうも、それらしいことはいろいろ書いてあるものの、結局、国の基準に沿って地域間幹線系統の補助をするだけで、JRや大手私鉄の鉄道路線や、民間バス事業者の採算で成り立っている主要な市町村またぎの路線についてはあまり触れられないことが多いようです。まして、これらの路線に「投資」をすることで、より便利な公共交通ネットワークを作り上げようという計画は見られないようです。
都道府県の作る地域公共交通計画においては、本来は、都道府県の公共交通ネットワークのあるべき姿を示し、そのネットワークが備えるべきサービスレベルを示した上で、それが民間事業者の独立採算では実現不可能なのであれば、都道府県として積極的に財政出動(=投資)をするということがあってしかるべきではないでしょうか。当然、路線バスだけでなく、ローカル鉄道の活性化や離島航路などもその文脈で触れられるべきです。
都道府県の役割が、不採算の広域的バス路線に対して国と協調補助をするものであるという考え方は、一朝一夕に変わるものではないとは思いますが、新たな地域交通法の下で都道府県に求められる役割も変化していることを理解し、よりよい公共交通ネットワークの形成に向けた動きが少しでも出てくることを願っています。
参考文献
- 加藤博和:日本における地域公共交通確保維持改善制度 の変遷と今後の活用策に関する考察、土木計画学研究・講演集、No.44、http://orient.genv.nagoya-u.ac.jp/kato/plan-kato44f.pdf
- 国土交通省:地域公共交通計画と乗合バス等の補助制度の連動化に関する解説パンフレット、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001480550.pdf