反転攻勢!公共交通の役割と利用者数はまちづくりと連携(共創)することで大きく変わる

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

熱心な担当者
熱心な担当者

人口が減少すると公共交通の利用者も減少して、将来は公共交通の利用者は無くなるのでしょうか?

一緒に考えよう
一緒に考えよう

人口が減少しても人々の外出や移動が無くなることはありません。これからの魅力ある地域をつくるための重要な交通手段として公共交通を位置付けると、その役割はますます重要なものになり、当然利用者数も確保することができることになります。

まちづくりとの連携の重要性

 各市町村の「地域公共交通計画」の冊子を開くと、はじめの方に人口の推移の図があります。地域社会の今後の動向を見定める上では重要なデータであることは間違いがありません。

 ところが、人口の推移の図と前後して、「…モータリゼーションの進行と人口の高齢化、人口減少によって本市の公共交通の利用者も減少傾向で…」という一文があったりします。そうすると、このまま数十年が経過して、さらに人口が減少していくと、バスや鉄道などの公共交通の利用者は一層減少して、利用者がいなくなるのではないかと危惧されます。この発想には、自分たちのまちをどのような姿にしたい、という考えが乏しいように思います。

一方で、こうした状況に追従する姿勢だけでなく、公共交通を過度な自動車依存から転換を推進するための受け皿としての役目を考える自治体も増えてきました。

 例えば国土交通省でも「居心地が良く、あるきたくなるまち」(ウォーカブル推進都市)などが提唱されていますが、ここではまちの中での移動は自動車利用を控えて、公共交通での利用が重視されています。

 こうしたまちづくり方向と連携して、過度な自動車依存の生活から転換して、歩いてまちを回遊することでまちの魅力を高めていくために、鉄道やバスなど公共交通の役割が期待されています。

 賑わいのあるまちづくりを推進するために公共交通は過度な自動車利用からの転換の受け皿を担うという発想は、人口が減少するから公共交通の利用者数も減少するという負のスパイラル的な状況を転換するものになります。

 まちづくりと公共交通との連携の取り組み方としては、①都市全体で自動車利用から歩行や公共交通への転換を意図している取り組み、②医療施設等の多様な都市施設の整備と公共交通とが連携した取り組み、③コミュニティ活動として公共交通の利用促進に取り組む活動、などがあると思います。

 ここでは、このうちの①都市全体で自動車から歩行や公共交通への転換を意図している取り組みについて、京都市の活動を紹介したいと思います。こうした活動は京都市だけでなく、富山市などでも実施されています。

 このトリセツを読まれている皆様には、京都市だからできるんだ、富山市では市長のリーダーシップがすごいから実現できたのだということではなく(確かに、そうした面はありますが)、自分たちのまちの問題を解決するために公共交通が果たす役割について考える契機にしていただければ幸いです。そして、魅力あるまちづくりを実現するために、過度の自動車利用から公共交通への転換方策などについても「地域公共交通計画」の策定時や見直しの時に検討していただければと思います。

まち全体で公共交通への転換を推進する京都市

 自動車から公共交通への利用転換を都市政策として推進している都市に富山市や京都市などがあります。

 ここで、京都市は2010年に「歩くまち・京都」憲章を制定して、まちづくり=都市政策として過度な自動車利用から公共交通・徒歩などへの転換を進める政策を実施しています。表-1は「歩くまち・京都」憲章が制定された頃に出された各交通手段別の分担率です。分担率とは、人々が移動する際にどの様な交通手段を使ったのかについて割合で見たものです。

表-1 歩くまち・京都の目標とする交通手段別分担率

(京都市資料、「現在」の値は2000年近畿圏パーソントリップ調査の京都市集計結果)

 この目標によると、2000年の現況値では自動車利用の割合=分担率は28%ですが、目標ではこのうちの8%を自動車以外の交通手段に転換を図るという意図が記載されています。自動車交通量を削減するということです。同時に鉄道とバスがそれぞれ4%の増加が目標とされています。自動車利用から公共交通利用に転換するということが示されているわけです。

 2000年の京都市の平日の総トリップ数(トリップとは外出の回数をかぞえる単位です)は約380万トリップ/日ですから、その4%だと約15万トリップ/日がそれぞれ鉄道とバスで増加することを目標としていることになります。

 図-1は京都市交通局の市バスと地下鉄の一日当たりの利用者数の推移を見たものです。2000(平成12)年頃の市バス、地下鉄ともに約30万人/日ほどの利用者数ですから、鉄道とバスに15万人の利用が上積みされることの規模感が理解できるかと思います。

図-1 京都市交通局(市バス・地下鉄)の一日当たりの利用者数の推移
(京都市交通局資料に土井、追記)

 なお、「歩くまち・京都」の取り組みで対象とする鉄道・バスは京都市交通局以外の多くの事業者の鉄道・バスが含まれるので、交通局の利用者数が単純に15万人ずつ増加することではないことに注意が必要です。

 

 こうした「歩くまち・京都」の取り組みでは、過度な自動車利用から公共交通への転換量8%と明確に数字で示すことで、これを実現するために様々な施策が実施されました。最も有名なものが、4車線あった四条通の車道を削減し、歩道を拡幅する施策だと思います。この時に同時に四条通のバス停留所を集約してテラス式(バス停留所を車道側に張り出すことでバスの停車・発信を円滑にし、利用者の乗降の安全を確保する)にするなどバスを利用しやすいものにする努力もしています。

 ただ、四条通の歩道拡幅(車道狭小化)も、すんなりと実施できたわけではありません。自動車利用者からは不便になったという意見が出ていました。また歩道拡幅工事の際に、ちょうど春の観光シーズンと重なり、工事の影響に加えて自動車とバスの混在などから大きな渋滞が発生しました。この状況については複数のマスコミからも批判的な言説が出されました。

 こうした状況を踏まえて、さらに様々な努力を積み重ねた結果、2015年10月に四条通の歩道拡幅事業は完了しました。図-1でもわかるように2015年度の地下鉄・市バスの利用者数は合計で72.5万人/日と2010年度に比べて一気に8万人/日程度増加していることがわかります。

 2015年度以降も市バスと他社の料金の均一化や共通定期券の発行、地下鉄と市バスとのダイヤ調整による乗換の利便性向上など、様々な取り組みが進められてきました。さらに訪日外国人旅行者の急増などの効果もあり、地下鉄・市バスの利用者数は増加を続けていました。ただ、残念ながらコロナ禍で一気に利用者が減少することになりました。

 コロナ禍の影響はこれまで積み上げてきた様々な成果を一気に壊してしまいました。しかし、ここで示すような明確な目標を持ってまちづくりを推進することで、大きな効果を得ることができることもわかりました。人口減少時代であるからこそ、地域の魅力を高めることと、過度に自動車に依存しない生活をするための方針を持ち、それを実践することで公共交通の利用者数も増加することが可能になったわけです。

 なお、パーソントリップ調査で使う用語である、トリップ、分担率、特に代表交通手段と端末手段などについては、近畿圏パーソントリップ調査をご覧いただければと思います。

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