地域公共交通計画を策定するにはどのような進め方をすれば良いですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

地域公共交通計画策定の担当になったけど、どのように進めれば良いだろう

策定スケジュールをしっかりと立てるところから始めましょう

 地域公共交通計画策定が地方自治体の努力義務とされたことと、地域公共交通確保維持改善事業の補助が計画に連動化されたことにより、地域公共交通計画の策定に取り組む自治体が増えています。また、すでに計画を策定済みの自治体においても、計画の改定時期を迎えているところも多く見られます。

 自治体にとって、地域公共交通計画の策定は5~10年に一度しかない業務であるため、前回の計画策定に関わった担当者が異動している場合も多く、たまたまこの時期に当たった(ハズレた?)担当者は進め方が分からずに苦労することも多いでしょう。

そこで今回は、地域公共交通計画の策定の進め方について、そのポイントをいくつか紹介したいと思います。

策定スケジュールを決める、守る

 計画策定に限らず、何らかの業務を行うにあたっては、スケジュールをしっかりと立てて計画的に行うことが必要です。そんなことは当たり前のように思えるかも知れませんが、計画策定で苦戦する自治体を見ていると、スケジュールがあってもそれをきちんと守れていなかったり、場合によっては守ることができないスケジュールになったりしていることもあります。その結果、行き当たりばったりで場当たり的な対応をしていることが多いように思えます。

 スケジュールは作って満足するものではなく、そのスケジュールを達成してこそ意味があるものです(計画もそうですね。作って満足するものではなく、計画通りに事業を進めてこそ意味があるものです)。

 策定スケジュールを決める際には、いくつかのポイントがあります。

年間スケジュール表を作る

 計画の策定のためには、協議会での議決、パブリックコメント(2週間~1ヶ月程度)、自治体によっては議会での説明など、踏まなければならない手続きがあります。策定業務の一部をコンサルタントに委託する場合には、プロポや入札の手続きも行わなければなりませんし、国の確保維持改善事業費補助金(調査事業等)を活用する場合には、補助金の交付時期(6月)や、第三者評価委員会(2月)の時期も関係してきます。

 さらには、自治体の内部での予算要求の時期、首長・議会の選挙や、町内会などの役員改選などの影響を受ける場合もあります。

 計画策定時期を終点に置いた上で、上記の考慮しなければならない手続きや日程のうち、担当者自身ではコントロールすることのできない時期や期間(パブリックコメントの長さ、プロポや入札の公示期間、補助金の交付時期、第三者評価委員会、予算要求時期、選挙など)を制約条件として、協議会開催候補日と行わなければならない作業を年間スケジュール表に配置することを、まずは行いましょう。

協議会の日程を決める

 協議会の開催回数は「必要に応じて」ということになりますが、通常は5回程度(計画策定のキックオフに1回、現況調査結果を踏まえた計画の方向性検討に1回、計画骨子の協議に1回、事業内容の検討と計画素案の協議に1回、<この間にパブコメ実施>、計画の議決に1回)の開催が必要となります。協議会を5回も開催するとなると、出席する自治体の幹部や、外部有識者の都合を合わせるだけでも苦労します。加えていうと、協議会を行う会場の空き状況も関係します。各協議会の1ヶ月程前に日程調整をしているようでは、それが不調に終わるだけで計画策定が行き詰まることになってしまいます。

 したがって、上記の年間スケジュール表ができたら、次は関係者と会場の日程調整を行い、協議会の開催日程を年度当初の段階で日付まで決めてしまうことが望ましいでしょう。

 もし、検討の進み具合の関係などによって、当初予定していた協議会が必要なくなった場合、そのスケジュールはリリースしてしまえば良いだけです。新たに予定を押さえるよりも、決まっていた予定をキャンセルする方がはるかに楽です。

締め切りを意識する

 以上の作業を行うと、アンケート調査や地域懇談会などを行える期間が意外に限られることがわかるでしょう。それどころか、交通事業者との事前調整やコンサルタントとの打ち合わせ、首長や有識者への事前レクなどを考えると、週単位くらいで担当者として行わなければならないことが決まってくることに気づくはずです。このことはすなわち、担当者自身にとってはそれぞれの仕事の「締め切り」が決まることを意味します。この「締め切り」を守れば、計画の策定は順調に進むでしょう。

 もちろん、不測の事態が起きることはありますし、締め切りを守ろうとすることがプレッシャーになりすぎても良くありませんから、ここで決まったスケジュールは必要に応じて見直しを行えば良いのですが、そのときにも、「動かせる締め切り」と「動かせない締め切り」があることは認識しておくべきです。

自分で手を動かせることは早めにやっておく

 国の確保維持改善事業費を活用している自治体の場合、「交付が遅いのでコンサルタントを選定できず、計画策定になかなか着手できない」という話を聞くことが良くあります。

 実際、国の補助金交付後に、コンサルタントを選定するためのプロポーザルや入札の公示を行うことになるため、1ヶ月くらい何もできないまま過ぎてしまうということなのですが、この間に担当者として自分たちで取り組むことができる作業はたくさんあるはずです。

 特に、自分たちの地域で策定する地域公共交通計画で最も重視したい課題を明確にすることや、計画を通じてどのような地域公共交通の姿を目指すのかというビジョンを描く作業は、コンサルタントへの委託の有無にかかわらず、自分たちで考えるべきものです。

 課題やビジョンがなければ、コンサルタントとしてもデータ分析の方針を立てることができません。逆に言えば、これらが明確であれば、様々な現況調査方法もおのずから決まり、作業時間の節約にも寄与することになります。

協議会の円滑な進め方

 さて、「完璧なスケジュールはできた。この通り進めれば万々歳だ」と思っても、協議会で議論が紛糾し、すべてが狂ってしまっては意味がありません。

 上程した議題の中身に問題があって紛糾するのであればまだしも、会議の進め方がまずくて時間を空費するのは避けたいところです。といって、結論が決まっていて参加者が何も発言しない、いわゆる「シャンシャン会議」も、時間が短いだけで不毛であることに変わりはありません。

 参加者がそれぞれに持っている知見や想いを引き出し、実りある議論とすることで計画の中身をさらに充実させるためには、協議会の進め方についても工夫が必要です。

円滑に進める=シナリオ通りではない

 自治体の協議会で座長(議長)席に座らされると、担当者から「今日のシナリオです」と、その日の議題に沿った「台本」を渡されます。この台本を読み上げれば、会議が円滑に進むという寸法なのですが、「シナリオ」を事前に作り込んで、それ以外の発言を極力抑えることが会議を円滑に進めるということではありません。

 座長(議長)の立場として、シナリオに記載しておいて欲しいこととしては、

  • 各議題が議決を行う必要のあるものかどうか
  • 卓上配付の資料以外に口頭での補足説明があるかどうか
  • 各議題に関係して特に発言を促すべき参加者がいるかどうか
  • 議題は異なるが、関連している内容なので一括して説明・意見交換をするものがあるのかどうか

といったことです。

 シナリオそのものは、会議の全体の流れを整理することや、議題を飛ばすなどのミスを防ぐためにも必要なものです。しかし、必要以上に作り込むと「結論ありき」のように聞こえ、参加者がシラけてしまいかねません。その労力を別の作業に充てる方が良い計画・協議会になるのではないでしょうか。

議題と論点を明確にする

 円滑で実のある会議にするためには、その日の会議で何を決めなければならないかをはっきりと示す必要があります(逆に言えば、それがなければその会議は必要ではないということです)。

 会議次第に協議すべき項目を明示した上で、各議題の資料には、1枚程度の「かがみ」を用意し、「この議題が上程された理由」「何を議決するのかという内容」「利害関係者との調整の結果」を簡潔に記載しておくと、議題の論点よく分かり、参加者も意見が言いやすくなります。議題に関する詳細なデータや図面、補足説明資料などがあれば、2枚目以降に説明資料として添付しましょう。

議事録を活用する

 計画策定のように、一度の会議で終わらない議題の場合、参加者によっては同じ議題に対して以前と言っていることが変わってしまったり、以前に決まったことに対して後出しで反対意見を言い出したりする場合があります。参加者に悪気があるわけではなく、その場その場で考えた結果、そうなってしまうのですが、作業を進める担当者としては困ってしまいます。

 そうしたことを避けるためには、協議会の冒頭に「おさらい」として、前回の議事録を振り返る時間を設けることが有効です。一言一句の議事録である必要はなく、「前回の議題」「決定事項」「主な発言」をまとめた1枚程度の議事概要があると、参加者もこれまでの経過を振り返ることができ、議論が堂々巡りになるようなことを防ぐことができます。

 ただし、後出しの反対意見であったとしても、斟酌すべき理由がある場合には「前回までに決まったことなので」と機械的に意見を遮ってしまうのでなく、改めて議論をするような進め方も時には必要です。斟酌すべき理由があるのかどうかはケースバイケースではありますが、座長(議長)あるいは事務局が判断する必要があります。判断に迷った場合には、会議中に休憩を入れたり、次回に継続審議としたりするなどして、座長(議長)と事務局で協議して対応を決めると良いでしょう。

最後に

 地域公共交通計画の策定を多くお手伝いする中で、検討を円滑に進めるためにポイントとなることを今回は書いてみました。一つだけ勘違いしていただきたくないことは、「計画策定が円滑に進むこと自体を目的にはしないで欲しい」と言うことです。円滑に美しい計画ができても、薬にも毒にもならないような計画であれば意味がありません。

 充実した議論を経た中身のある計画にするために、円滑な議論が行える環境を整える。これが計画策定の時に担当者が心がけるべきことだということを忘れないようにしてください。