バスの運転士不足について考える

担当:土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構)

運転士不足の問題への対応策は無いのでしょうか?

運転士不足キャンペーンがさらに人材不足を助長している可能性があります。さらに、人材確保のための様々な取組がはじまっています。

バス運転士の仕事

 バス運転士と言っても、運転する対象が路線バス、観光バス、高速バス、貸切バスなどで働く環境が異なります。ここでは主に路線バスの運転士について述べていきたいと思います。路線バスの運転士の仕事は、当然ですが人々=お客さんをバスに乗せて決まったルートとダイヤに基づいて、時間通りに安全な移動を提供することです。さらに、利用者からの道案内などの相談、車内での安全確認、障害者の人たちへの対応など、かつては車掌さんが担っていた運転以外の業務も担当することになります。
 移動を支えることで、人々の勤労、通学、健康の維持、愉しみの活動などが円滑にできるようにすることが仕事の目的になります。こうした仕事を通じて、地域の賑わいや人口の定着、地域への愛着などを育むことにつながるように思います。

運転士不足の影響

 2023年9月に大阪府内を運行する金剛自動車が「乗務員の人手不足・売上の低下等様々な要因」で2023年12月20日にバス事業を廃止する決定をしました。
 いきなりの廃線宣言であり、多くの関係者が驚くことになりました。同時に、廃線の理由の最初に「乗務員の人手不足」が挙げられていることも、人材不足についてあらためて実感をすることになりました。
 また、京都府下に路線を持つ京阪京都交通が、やはり運転士不足により一部の路線で2023年12月15日まで平日ダイヤの一部便を運休していましたが、「運転士の確保が非常に厳しく」なっているため、1ヶ月余り運休期間を延長することになりました。
 これまで減便・廃線は利用者の減少、収支の悪化が原因で実施されることが多かったのですが、運転士の確保が困難という理由で、減便・廃線が実施されるようになってきました。
 「公共交通トリセツ」でも水野羊平さんが「バス会社と運転者はこんなことになっている」、塩士圭介さんが「路線バスの2024年問題ってなんですか?」などの記事を書かれており、運転士を巡る厳しい状況が報告されています。

 また、バス運転士不足についての背景については福本雅之さんが「どうしてバスの運転手が不足しているの」でわかりやすく紹介をされています。ご参考にして下さい。

運転士不足キャンペーン

 こうした運転士不足の状況の背景について、例えば厚生労働省の「統計からみるバス運転者の仕事」で様々なデータが公表されています。
 「運転者の年間労働時間」の図からはバス運転者は全産業平均と比べて、長時間労働を行っていることが示されています。コロナ禍の前、2018(平成30)年度の年間労働時間はバス運転者が2,544時間に対して全産業平均では2,136時間であり、バス運転者が2割程度長時間労働を行っていることが示されています。

出典:厚生労働省:統計からみるバス運転者の仕事

 次に「バス運転者の年間所得額」の図からはバス運転者の年間所得額はコロナ禍前の2018(平成30)年度が484万円と最も多くなっています。この時は全産業平均と年間所得では10万円の差になっています。しかし、コロナ禍で年間労働時間の減少の影響もあり、2021(令和3)年度には400万円程度に大きく落ち込んでいることがわかります。

出典:厚生労働省:統計からみるバス運転者の仕事

 ここで見たようなバス運転士の労働時間や所得が他の産業に比較して条件が悪いことなどが、運転士不足の背景にあるというデータ、資料は様々に公開されています。
 バス運転士の待遇改善を進めることで人材確保につなげたいという意図はわかりますが、バス運転士の仕事を選択すると大変な状況が待ち受けているという、ネガティブな説明になるようにも考えられます。

 例えばご子息がバス運転士の仕事をしたいと、親に相談した際には「長時間労働で給料が低く、不規則勤務。事故などを起こすと責任が重大。そして直ぐに自動運転に取って代わられるような、将来の展望が乏しい仕事」だと就職を危惧されるための材料を提供しているのかも知れません。ネガティブな情報だけだとバス運転士の不足を助長することになりそうです。また、これだけ不利なことが揃っている業界で働こうと思う人もないと思います。
 こうしたネガティブな状況説明と必ずセットとで、バス運転士の仕事が人々の移動を支えることで、様々な笑顔を支えるなどの運転士の仕事のポジティブな面を強調することが重要だと思います。

※自動運転については井原先生が「自動運転で公共交通は改善されますか?」を書かれていますので、こちらを参考にして下さい。

運転士不足への反転攻勢

三重交通と三重県桑名市が人材活用についての連携協定を締結

 桑名市で大型運転免許を持つ消防士が60歳で定年退職する際に、本人が希望をすれば三重交通のバス運転士として転籍を可能とする協定が2023年10月に締結されました。
 三重交通としては運転士不足を補うことが狙いです。同時に桑名市では、消防士が定年以降、再任用など勤務する場合は、運転などの現場から離れることになることに対して、現場で引き続き働きたいと考える人たちをバス運転士という形で働く場を提供できることになります。
 バスの運転に必要な大型2種免許は三重交通が取得をサポートし、1年毎の契約更新ですが、最長で72歳まで勤務ができるとのことです(出典:各種報道資料)。
 この仕組みは全国的に注目されています。今後様々な行政との連携が生まれていく可能性がありそうです。

神姫バスのイメージポスター

 神姫バスではバス運転士のネガティブな面を払拭するために、「現場で働く現役の乗務員」をモデルとして「映画の宣伝」をイメージした3種類のポスター制作と、3台のバスの車体へのラッピングでまちの中でも目を引く活動をされています。

図 神姫バスのポスターの一例

 こうしたポスターで実際に効果があったのか、社員の方に質問をすると「実は結構効果があります」との回答でした。この回答をして下さった方も、このポスターに登場されています。

様々な工夫

 大分県別府市ではバス・タクシー運転士で別府市に移住する人たちを対象として「別府市移住支援金交付制度(ドライバー不足解消対策分)」という制度を定めて、運転士不足に対応されています。
 他にも長期の雇用を保証することで人材確保を図っているバス事業者もおられます。
 さらに類似の業界ですが、タクシーでも運転士不足に対しても様々な工夫がされて、待遇の改善の実現などを通じて雇用を拡大されているケースが増えてきました。

意外にも?まだまだ応募が集まる運転士

 成定竜一さん(高速バスマーケティング研究所代表)が「乗りものニュース」に書かれている「バス運転手が集まらないのは「不人気だから」なのか? 人手不足の本当の理由 見えづらくしている業界のマイナス思考」(2023年12月4日)を読むと、バス運転士不足の背景とこれからの対応策などについて丁寧に書かれています。詳しい内容の紹介は省きますが、バス運転士問題が気になる皆様は是非読まれたら良いと思います。

今すぐ、誰にでもできるバス運転士不足問題への対応策

 バス運転士の仕事が「やり甲斐」があることも重要なことです。
 そうした意味では、今すぐにできるバス運転士不足問題への対応策は、バスに乗車する(あるいは下車する)際に運転士の方に「有り難う」としっかり声をかけることです。お互いに人間ですから、こうした挨拶で心の中に小さな温かさが宿ることがあると、次の仕事の大きなモチベーションにつながると思います。

 こうした小さな取組などをはじめ、バス運転士不足問題に多様な側面から取組んでいくことが望まれると思います。