バス会社と運転者はこんなことになっている

担当:水野羊平(永井運輸株式会社

バス会社の運転手不足の原因ってなんだろう。

原因を1つには決めきれないですが、拘束時間と賃金の問題もありそうですね。

はじめに

 運転手不足ということがようやく認識されてきましたが、その実態は、拘束時間が長くて賃金が上がらないなど、バス会社に勤務する方々からも叫ばれています。そのような中で、バスに絡む痛ましい事故が複数発生し、暗中模索から脱却できないバス会社の視点からお伝えします。

人材確保の困難な実情

路線バス乗務員(運転士)の仕事の実情

 以前に「あるバス営業所の1日」 として寄稿させていただきました。合わせてご覧になるとわかりやすいと思いますが、バス運転士の仕事を簡単に説明しますと、「あらかじめ定められた運行時刻と運行順序(ダイヤ)にしたがって、業務手順に伴った運行及び旅客からの運賃収受並びに簡単な案内を行う」ことです。言葉にすると簡単ですが、実際は運転中、常に注意を欠かさず安全運行に十分取り計らいながら旅客扱いを同時に行います。図にすると運行中はこのような確認作業を常に行います。

(資料:水野作成)

長い拘束時間

 運転手の待遇については、同じく「トリセツ」にて福本さんの記事「どうしてバスの運転手が不足しているの?」  にてご紹介されているので参照していただきたいと思います。また、弊社は自治体より運行を委託された路線がほとんどですが、同様の事態が起きています。

 弊社の例ですが、「新町玉村線」は運行開始の平成5年(1993年)当初、車輌1台、1仕業、5回の運行でしたが、2022年現在は車輌4台、4仕業、34回の運行にまで増加しました。これは自治体からの要望と、お引き受けした弊社の考えが合致したものになりますが、運行事業者として「運行回数を増やすことで、使いやすいバスを目指す」ことに尽力したことがきっかけになります。

※仕業(しぎょう)とは、乗務員が受け持つ仕事のこと

  • 運行会社「運行回数を増やすことで、使いやすいバスを目指した」
  • 自治体等「この時間にバスを出してほしい」

 この2つの考えが合致し、どのように実現するか、その方法で思いつくものは…

  1. 運転者・車輌を増やす
  2. 運転者・車輌を増やさず、残業時間を増やして実行する

 費用を抑えて業務を実現するには、2.の方法が選択されることでしょう。仕事が増えると運転者を確保する必要もありますが、労働時間の基準ができたことも長時間労働の原因になっています。これが「バス運転者の労働時間の改善基準のポイント」です。従来は基準が曖昧または基準がなかったので労働時間に際限が無く取り扱いが行われたため、基準が策定されました。いわゆる「16時間問題」と呼ばれるものになります。
 本来であればこの基準は、道路渋滞などで大幅に運行が遅延する場合に遵守する内容で策定され、「よほどのことがない限り、ここまで拘束するはずがない」ものでした。しかし基準が明確になったことで、経営側は「この基準時間内であれば運転者を確保できる」という解釈に取り変わっていったと推測されます。
 過酷な労働時間であっても「若くて体力があり、異常事態という中での数年のうちのほんの1回」であれば、我慢してこなせます。それが月に数回や、週に1回という交番で巡ってきた場合での継続には支障が出ます。そもそも長きにわたって長時間拘束を継続し続けることに配慮がなかったという結果が積み重なったものと思われます。

運転者賃金の伸び悩み

 こちらも福本さんの記事「どうしてバスの運転手が不足しているの?」 を実証するものになりますが、業務に従事するには大型二種免許が必要などの条件があるなか、業務運行中に交通事故を起こした場合、刑事責任が「運転者個人」に発生します。そのような大きな責任が個人にのしかかっている一方で、賃金が押さえられていることも運転者不足に大きく影響しています。
 そのなかで雇用者の人生設計に給与体系が合致しないのか、会社側がそもそも雇用者の人生設計を考慮していないのかについて、多く申し上げることはできませんが、職業運転者として最低限「夫婦+子ども」を満足に養うことができ、次世代を担う子どもたちに教育のための投資が適正にできるほどのくらしをさせることができるかどうかが、これから「職業乗務員になろう」という産業の育成や個人の希望を汲み取ることになると思います。事業者側が賃金を言い訳に乗務員という職業選択を阻害していないかということを、産業として見据え検討する必要があると思われます。
 長時間拘束にかかる賃金改定は、実は大変難題です。会社が営利事業として運行を行う場合であれば会社と従業員双方での議論が主体になると思われますが、自治体からの委託運行になりますと、人件費にかかる基準と会社の給与規定等に合致しているかどうか、また長期継続して運行委託する場合は、乗務員の昇給等にかかる申し合わせがあるかどうか、ここにそもそも触れているかどうかになります。
 しかし、バスを運転する乗務員が確保できなければ、私たちの産業は成り立たないうえ、バスを利用して「お出かけ」ができなくなります。そこで携わる事務員として、運転業務以外の業務負担をできるだけ軽減させるように努力をしておりますが、本来の「賃金改善」を解決するものではありませんし、負担軽減にも当然限度があります。

バス事務員の確保問題

 弊社バス事務職員は運行を絶やさぬよう、ほとんどが運転者の資格を兼ね備えて持っています。急な体調不良などに即対応するためのものでしたが、乗務員不足の昨今、そもそも「乗務員の人数」に充てられ、事務職員の人数が実質減少する事態になっています。この事態が「運賃改定等を進める作業に充てる人材を捻出できない、申請作業等を引き継ぐ人材すらいない」事態となっています。
 こうしたことから、次世代の要職に就く人材の確保ができていない状況です。20年前から同じ人が同じポストについたままなのです。特に事務職では、就職氷河期と言われた2000年初頭から人材不足が続いています。昨今、急に始まったことではなく、20年前からすでに運営側からも人材不足が起き始めていたのです。運行だけがバス事業者の現場ではありません。産業として運営を司る事務部門も現場なのです。

企業としての決定、自治体としての決定

 以上のとおり、コロナ禍が、緩やかに疲弊しているバス事業者を一気に襲ってきたという状況下となりました。それでも本数が少ないながら、バス停に書いてある時刻表を頼りに、バス停でお待ちのお客様を、お約束どおりお迎えして、目的地まで安全にお運びするという使命を裏切ることが無いように、運行をストップさせてはいけないという使命をもって事務職員も一丸となって現場は動いています。
 弊社路線は廃止代替の委託運行がほとんどを占めるため、路線の運行維持に関する権限は各自治体にあります。自治体の考えとしての合意や地域公共交通会議での協議において合意など、自治体として覚悟を決める協議が必要です。そのなかで運行をお引き受けした会社として、5年後にはどのような社会になっているか想像がつかない昨今ですが、その中でも目標を設定し、コントロールしながら経営することが必要になると思いますので、必要な決断を自治体とともに協議し実行に移し、産業を持続可能にする必要があると思います。

タイトルとURLをコピーしました