はじめに
宇都宮で2023年9月22日(金)~23日(土)に開催された日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)の翌週に台湾を訪れ、新たに始まったMaasの取組を視察する目的で、台湾の首都「台北」と、そこから新幹線(高鐵)で1時間半ほどの距離にある台湾第二の都市「高雄」の2都市を訪問してきました。MaaSの取組以外にも町中でいくつか気になる取組などがありましたので紹介いたします。
台湾の概要
日本の石垣島や与那国島の西側に位置していて、日本国内からは飛行機の直行便も多く飛んでいます。人口は日本の約1/6程度ですが、交通事故の件数は日本より多く、死亡者数に大きな差はありません。交通事故の中でも若年層のバイク事故が特に多いのが特徴です。出生率は日本より低く、若者一人が交通事故に遭うと社会に与えるダメージは日本より大きくなります。そのような背景もあり台湾の公共交通施策は、バイクから公共交通への移動手段の転換が目的の一つになっています。また、大気汚染対策という観点からも公共交通の利用促進に力を入れています。
デジタル機器を利用した公共交通の情報提供
空港で行われる情報提供
台北松山空港に到着すると、手荷物受取所のターンテーブルの中央で空港から出発する公共交通(バス)の案内が行われていました。この案内を見ている人は正直そこまで多くはありませんでしたが、日本の空港だとこの位置には企業や観光施設の広告が掲示されていることが多く、台湾の公共交通への力の入れ具合が空港内部からも伝わってきました。
町中で行われている情報提供
デジタル機器を利用した情報提供は、駅やバス停で色々な機器を利用して行われていました。バスの情報の表示方法は日本で主流となっている時刻表示ではなく、諸外国と同じく到着時刻のカウントダウン(あと●●分)方式が台湾でも主流で、到着時刻が現在時刻から離れている便のみ出発時刻が表示されていました。地下鉄は駅構内に広告入りのデジタルサイネージが多数設置されていて、出発時刻まで5秒単位のカウントダウンが表示されています。 高雄の地下鉄駅では、エスカレータを上がった先にある出入口の最寄りバス停に到着するバスの案内がされていて、利用者はバスの出発時刻を駅構内で知る事ができます。日本でも寒冷地で地下通路がある都市などでこのような情報提供が行われると、利用者にとっては寒い屋外でバスを待たずに済み効果的な情報提供となりそうです。
自転車
YouBike
台湾では以前、台北市は「YouBike」、台南市は「T-bike」、高雄市は「Cbike」と、異なるサービスが導入されていましたが、今回の訪問時には全て「YouBike」のサービスに統一されていました。そして、YouBikeのシステムもバージョンアップしていて、クレジットカードを使わずに、スマホアプリとICカードを連携すれば、鉄道やバスと同じICカードで自転車も利用できるようになっていました。そして、ポートの数や、ポートに設置されたサイクルラックの数も日本と比べてとても多く、シェアサイクルに力を入れているヨーロッパ諸国の都市と比べても遜色ないレベルになっていると言える状況でした。
また、YouBikeのポートはMRTやLRTの駅、路線バスのバス停すぐ近くに設置され、交通モード間の乗り継ぎが割引制度だけではなく物理的にも行いやすい状況になっています。駅構内に設置してある出口案内図でも、どの出口から出るとYouBikeのポートがあるかアイコンの表示がされていました。
各交通モードが有機的に繋がり、特定の交通モードを優遇していない点は台湾の交通施策における大きな特徴と言えます。
サイクルトレイン
MRTでは一部の駅を除いてほぼ全ての駅から、平日ラッシュ時以外の時間帯と土日祝日の6時~終電まで、先頭車両と最後尾車両の各ドア付近に2台、各列車で16台の自転車が停められようになっています。また、台鉄(日本で言うJR)の普通列車でも、自転車が乗車可能な車両が設定されていました。滞在期間中にも鉄道に乗車を積み込む方を何人も見かけました。駅構内のエレベータは、車いすと自転車利用を促すステッカーが貼られていたり、駅での乗車位置の目安や、車両のドアにも自転車利用がOKな事を示すステッカーなど、適切な情報提供も行われていました。
サイクルトレインは日本でも全国各地で行われていますが、台湾では都市部の地下鉄でも行われていることが大きな特徴です。日本に置き換えると土日に東京メトロや大阪メトロの地下鉄車内に自転車を持ち込むイメージでしょうか。平日のラッシュ時は対象外となっておりこの施策が行われている目的を調べてみたところ、台北市政府の「市民の適切なレジャー活動を提唱する取組」の一環として行われていることが分かりました。 他の乗客に迷惑がかかり危ないから禁止するのではなくて、細かいルールを設けて自転車を車内に持ち込むニーズに対応していることがとても良い取り組みだと思います。
※台北捷運(MRT)公司HP「自転車の持ち込みに関するルール」
公車捷運系統(BRT:Bus Rapid Transit)
台北市内には多くの中央走行式バス専用レーンが設置され、幹線系統や高速バスなどの一部のバスがそのレーンを利用しています。以前の台北市内の状況を知っている方に伺うと、ここ数年で市内のバス専用レーンの数は増えているそうです。
台北市内では連接バスは見かけませんでしたが、この幹線バスはバス専用レーンや専用バス停の設置等により速達性が確保され、運行本数も多く、正にBRTと呼ぶに相応しいバスサービスが実現できていると思います。
台北市や高雄市では、BRTとLRTのシステムが共存していますが、それぞれの特性を理解し地域の状況にあったシステムが導入されています。高雄市政府のHPではLRTとBRTのシステム比較検討が行われていて「どちらも大量高速輸送システムの一部であり、相互に排他的ではなく補完的な関係であり、必要な輸送量に応じてシステム形態を決定します」と書かれていて、システム選定について柔軟な考え方が示されています。また、輸送力を維持する目的でLRTとBRTが並走する区間を残している事も特徴です。