渋滞対策と総合交通政策

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

 

交通問題と言えば、渋滞問題が一番に気になるんだけど…

確かにそう考える人たちが多いので道路整備も進んできました。ただ、渋滞問題への対応策は他にもあります。そして公共交通の利用促進とも関係があるのです。

自動車は働きもの

 自動車は便利で快適な交通手段です。また、物流、緊急事態への対応などについても自動車は欠かすことができない交通手段です。だから、1世帯当たり1.025台(自家用乗用車と軽自動車の合計、2023年8月、(一財)自動車検査登録情報協会)もの普及になったわけです。そして人々の日常生活を支え、生活や産業に必要な物資の輸送を支えています。自動車は働きものなのです。
 2024年1月に起こった能登半島地震でも、道路の啓開などを通して被災者の人々をサポートすることに注力されているのも、こうした自動車の機能があるからです。

ザ・渋滞

 しかし、多くの人々が一斉に自動車を使うと、自動車の走行空間である道路の容量を超えることになります。また、駐車場も不足します。これが渋滞ですね(図-1)。自動車の普及とも関連して、渋滞問題が交通問題の中心になってきました。

図-1 モンゴル・ウランバートル市の渋滞の様子(2018年夏、写真:土井)

 渋滞がない場合には10分で行くことができる移動も、渋滞のために30分以上必要になる場合があります。渋滞のために余分に必要となる20分の間に、私達は自分にとってより有意義な時間を過ごす機会やビジネスチャンスを失うことになってしまいます。これを機会費用と言います。
 自動車は時間と場所を選ばずに、自由に移動することができるのが長所ですが、その長所が渋滞によって阻害されてしまいます。だから、渋滞問題は交通問題の中でも大きなものとして考えられるようになりました。

渋滞対策は大きく分けると2つ

 渋滞問題は、容量問題だと考えることができます。これは、大雑把に言うと壺(道路)に水(自動車)をどんどん入れていくと、どこかで溢れ出すことになります。この水が溢れる状況が渋滞になります。
 したがって、渋滞を解消する方法は次の2つになります。

  ①流入量に対して容器を大きくする
  ②そもそもの流入量を減らす

容器を大きくする方策

 これまで私たちの目の前の渋滞を解消するために、①の方策、すなわち道路を拡げること、つまり道路の整備に力を注いできました。道路の整備には様々な方法があり、道路の拡幅、バイパスの整備、渋滞交差点の改良などが主なものです。これらは渋滞対策に大きな効果があり、関西でいうと第二京阪道路の整備により、慢性的な渋滞が起こっていた国道1号に効果がありました。
 自動車の渋滞問題だけを考えると、その効果は大きなものがありましたが、その結果として、例えば図-2のような地域が全国に広がっていきました。

図-2 バイバスとその沿道の様子(写真:土井)

 図-2のような道路では自動車は快適に走行ができます。しかし、ここでは歩行者の姿を見ることは稀です。また、沿道の施設などが掲示している看板なども、目線が歩行者から見ると随分高い位置にあり、高速で走行する自動車を対象に設置されていることがわかります。
 渋滞対策として、バイパスなどの整備が進んでいくと、その沿道に自動車対応型の広い駐車場を備えた商業施設などの立地が進んでいくことになります。さらに住宅地開発、病院、行政施設なども立地していくことがあります。その結果、これまで人々が集まって生活をしていた中心市街地が空洞化することも起こってきました。
 自動車の渋滞を減らし、自動車が走りやすくて便利で快適な生活を意図した政策でしたが、結果的には自動車がないと不便な生活になる都市構造となってしまいました。そうすると、人々のライフスタイルも自動車利用が前提となり、自動車を自由に使うことができない人々にとっては住みにくいまちになっていきます。これがモータリゼーションの失敗と言われるものです。

流入量を減らす方策=交通まちづくり

 渋滞対策のもう一つの方策としての②ですね。これは、そもそも自動車交通量を減らすというものです。もちろん移動に対するニーズはあるわけですから、自動車から他の手段への転換や、自動車以外の交通手段で行くことができる目的地への転換を行うことで自動車交通量を削減することになります。
 モータリゼーションの失敗が大きな問題になってくることにより、過度な自動車利用から他の交通手段に転換を促す政策が注目されるようになってきました。
 1998年に太田勝敏先生たちがまとめた「新しい交通まちづくりの思想」(鹿島出版会)が出版されました。これまでの渋滞対策を中心とする交通政策から、市民参加を前提としたTDM(Transportation Demand Management)政策など、自動車交通からの転換策が体系的に紹介されています。この書籍の出版によって、道路整備だけでなくパークアンドライド、公共交通利用促進など、自動車から公共交通への利用転換の方策に取り組むきっかけを得ることができたように思います。まさに「交通まちづくり」が政策的に行われるようになってきたのです。
 さらに、MM(Mobility Management)など人々の交通行動の変容を促すことを意図する政策も広がってきたのです。

渋滞対策から総合交通政策へ

 これまで、主に渋滞問題の対応策として①の方策が重視されてきましたが、近年ではここで述べた②の方策についても重視されるようになってきました。
 ②の方策に取り組む際には、自動車以外の多様な交通手段を地域の特性に対応して、適切に組み合わせて、人々の移動を支えることが望まれます。これを総合交通政策と言います。
 一部の自治体を除いて、今後は人口減少が進行する時代になり、総交通量も減少することになります。その際においても、各交通手段の適切や役割分担を政策的に実施することで、自動車から公共交通へ利用する交通手段の転換を促すことで、公共交通の利用者を増やすことが可能となります(図-3)。

図-3 兵庫県加西市におけるコミュニティバスの利用者数の推移

 図-3では、2010年が利用者数の底辺であり、これ以降は様々な施策の実施を行うことで、個々の路線についても、コミュニティバス全体においても利用者を増やすことができています。ただ、2020年~2021年度はコロナ禍の影響で利用者数が減少していますが、これも2022年度は少し盛り返すことになりました。
 モータリゼーションの失敗を繰り返さないためには、交通問題に対して様々な対応策の準備と、その地域にふさわしい政策の推進が期待されます。

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