通学の苦労は将来に受け継がれる

担当:西堀泰英(大阪工業大学)

通学に困っている人がいても,何とか卒業できたようだから,深刻に考えなくてもよいのでは?

卒業できた人は良くても,これから通学する人にとっては深刻な問題となる可能性があるため注意が必要です.

前回の記事「通学でのかしこい送迎の使い方を考えよう」では,通学の問題の中でも送迎を取り上げて,送迎の問題や対策のことを書きました.2回目の今回は送迎の問題に限らず,通学の問題をどう考えるべきかについて取り上げます.

苦労は当事者には一時的でも,地域社会に受け継がれる

通学の問題のために,今大変な苦労をしている生徒や保護者は,今を乗り切ればいずれその苦労から開放されるでしょう.でもこの先も地域から高校生がいなくなることはありません(居なくなれば大変です).つまりこれからも存在し続ける高校生とその保護者は,世代を継承していつまでも大変な思いをし続けることになるのです.極端な言い方をすると,私たちは無意識のうちに「後世に苦労を順送りしている」とも言えます.通学の問題を考える上で,このことを認識することが求められます.

様々な苦労(がまん)を強いられている

夏休みなど長期休業を除き,ほぼ毎日行う通学の問題を,若さ,体力,親など家庭の支援,妥協などで何とか乗り切っている状況と言えます.それらの例をあげると,下のような苦労(がまん)を強いられています.

  • 第一希望の高校は毎日送迎が必要になるので家から通学できる高校でがまん.
  • 家から通学したいが下宿でがまん.
  • 進学のために住み慣れたまちから転居することをがまん.
  • 通学時間が長いために勉強時間が短くなるけどがまん.
  • 登校・帰宅・通塾・その他の送迎の負担「送迎人生」をがまん.
  • 次の列車まで1時間以上の待ち時間をがまん.
  • 本数が限られるため「すし詰め状態」の車内混雑をがまん.
  • 上がり続ける運賃負担をがまん.
  • 長距離自転車通学などは交通事故が怖いけどがまん.

未経験の苦労に対する不安は大きい?

上に書いたような様々な苦労やがまんは,経験した人と未経験の人では,どうやら受け止め方が異なるようです.筆者の研究室で,通学の実態や問題を把握するために,高校生や進学を控えた中学生(3年生)の保護者を対象とする調査を行いました.保護者を対象にした理由は,調査の大きな目的が,家庭が負っている通学の負担を把握することにあるためです.
愛媛県の高校生と中学3年生を対象に行った調査から,生徒が抱える学校や日常生活での悩みと,同じく通学での悩みを図1に示します.なお,これらは生徒の保護者が回答したものです.中学3年生の保護者には,高校進学時を想定して回答していただいています.
ご覧いただくとわかるように,中学生の方が悩みを持つと想定する割合が多い結果となりました.高校生は経験に基づいて実態を回答していると考えられますが,中学生は未経験のためより不安を感じる傾向があるのかもしれません.しかし仮に中学生の保護者が必要以上に不安に感じがちであるとしても,不安を感じる人が,不安が待つ将来から逃れるために,不安の少ない地域(都市部など)に子を下宿させたり,家族で転居したりすることはあり得そうです.

図1 保護者が回答した学校や日常生活で生徒が抱える悩み
(中学生は想定する悩み,大阪工業大学調査)

図2は,通学の問題で志望校を変更したか(高校生向けの質問),および,変更する予定か(中学3年生向けの質問)を聞いた結果を示したものです.こちらも保護者が回答した結果です.中学生は半数以上が変更する予定と回答しています.調査の時期が,進路が固まる前の9月頃だったことも影響していそうです.それを差し引いても,中学生が進学先を決める際に通学の問題は大きな関心事になっていることがうかがえます.
なお,高校生の14%が通学の問題で志望校を変更したと回答しています.この割合は,都市部から離れるほど高くなる傾向があり,最も高い地域では20%を超えること確認しています.

図2 保護者が回答した通学の問題で志望校を変更したか・変更する予定か
(大阪工業大学調査)

通学の苦労を受け継がないための努力が求められる

通学の苦労は,本稿前半でも示したように様々なものがあります.それらは,地域によっても異なります.通学に利用できる公共交通サービスの有無,地域に公共交通サービスがあっても自宅や学校が駅やバス停に近いか遠いかで苦労も変わりますし,自転車で通学する生徒特有の苦労もあります.
それらの苦労は,個人にとってはいつか終わるのをがまんすればよいのかもしれません.ですが,それは地域に残り将来に受け継がれます.それを放置することは,将来の地域の担い手となる人たちが地域を去る原因になる可能性もあります.
高校進学への不安をやわらげ安心して子育てができる地域にするためにも,通学の苦労を将来世代に受け継がないための努力が求められます.次の記事では,通学や送迎の問題に対して地域でどのようなことができるかについて考えたいと思います.