オンデマンド交通の歴史

福本雅之(合同会社萬創社)

オンデマンド交通って最近開発されたんでしょう?

1970年代から欧州と日本でそれぞれ開発されてきました

 近年、オンデマンド交通の導入事例が増加しています。あたかも最新の交通システムであるかのように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その歴史は意外と古いものです。今回はオンデマンド交通の歴史を振り返ってみましょう。

ヨーロッパでのオンデマンド交通の歴史

 ヨーロッパではオンデマンド交通のことを、Demand Responsive Transport:DRTと呼んでいます。主に北欧や英国で1980年代以降に発展をしてきました。北欧や英国では、高福祉高負担の福祉国家施策が行われており、その一環としてSpecial Transport Service:STSというドアトゥドアの介助付きの個別福祉輸送手段が充実していました。

 しかしながら、1人1人に介助をしながら輸送するSTSは非常に高コストの乗り物であり、利用者が増大する中で財政負担が問題となりました。一方で、利用者を見ると、必ずしも介助がなくても移動できる人も散見されたことから、介助付きの個別輸送は必要な人に絞って行い、その必要がない人については、なるべく乗り合って利用してもらうことで輸送の効率化を図ろうという動きが出てきました。

 こうした問題意識のもと、スウェーデンのフレックスルート(住宅街の中のミーティングポイントを呼び出しに応じて運行するサービス)や、英国のDial-a-Ride(電話予約に基づいて乗合で利用者を送迎するサービス)と言われるサービスが実施されるようになりました。

日本でのオンデマンド交通の歴史

 日本では、1970年代に阪急バスが大阪府能勢地域でデマンドバスを導入したのがオンデマンド交通の起源です。これは過疎地域で普通にバスを走らせても利用がない場合があるため、利用者から電話でコールセンターに連絡があった場合だけ運行するというものでした。

 同じ時期に東京で東急バスが東急コーチというものを始めました。こちらは、通常の路線バスとして運行するのですが、迂回経路を設けてコールポストという呼び出しボタンを設置し、呼ばれた時だけ立ち寄る、呼び出しがない時はコールポストに寄らずにショートカットして運行するというものでした。

 その後、2000年に高知県の中村市(現・四万十市)において、中村まちバスが運行を開始しました。これは市街地の中に迂回経路を設定し、呼び出しに応じてルートを変えて運行するものです。

 これら初期のデマンドバスは、無線と専用機械を開発して車両に載せることで予約への対応をしていました。

 2000年代に入ると、普及した携帯電話回線やパソコンなど、汎用の通信環境や機器を活用することで予約配車を処理する動きが出てきました。

 その嚆矢と言えるのが福島県小高町(現・南相馬市)で2001年に運行を開始した、おだかe-まちタクシーです。NTT東日本が開発し、携帯電話の機能を使って、デマンドバスの予約配車をする仕組みを構築しました。それまで専用機器を開発することで非常に高価だった予約配車にかかる費用を低減することに成功しました。

 2010年頃になると、スマートフォンやクラウドサービス、タブレットPCなどが普及し、こうした汎用的な通信インフラと機器を用いることで、予約配車システムを構築することが容易となりました。その結果、多くのシステムベンダーがオンデマンド交通の配車システムを開発しています。

ヨーロッパと日本の違いと共通点

 ヨーロッパでのオンデマンド交通の開発の起源は、STSの相乗り化というところに求められます。一方、日本のオンデマンド交通の開発の歴史を振り返ると、路線バスを基本としつつ、乗らないところをあまり走らせずに効率化したいというアプローチで開発がなされてきたという点が特徴と言えます。

 このことは、そもそもオンデマンド交通を導入しようとするシチュエーションは、本質的に輸送サービスが非効率にならざるを得ない、すなわち高コストでの運行を強いられる局面であることを示しています。オンデマンド交通は、そうした、高コストにならざるを得ない輸送サービスを実施するにあたって、多少なりとも効率を高めようとして用いる交通手段であると考えられます。

 しばしば、オンデマンド交通は、呼び出しがあったときだけ稼働するので、利用者がいてもいなくても運行する路線バスよりも安価な仕組みだと言われます。しかし、移動のリクエストがない場合であっても、ドライバーと車両とコールセンターの人たちは待機をしています。「効率化を図る」と言っても相対的なものであって、費用がなくなるわけではありません。オンデマンド交通は呼び出しがあったときだけ動くからと言って、動いていないときには費用がかからない「わけではない」ことは覚えておきましょう。