担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

地域公共交通会議で協議を調えることが困難な場合に、首長決裁で進めることができるというのは本当ですか?

できるようになったものもありますが、協議の全てを代替することはできませんし、必ず協議会の要綱に定める必要があります。
協議を調えることについて困難を感じる?
日本版ライドシェアの導入について議論が始まったころ、規制改革推進機会議の第3回地域産業活性化ワーキング・グループにおける資料の中で「地域公共交通会議等の設置又は協議を調えることについて、困難を感じることはありますか。」というアンケートの結果が公表されました。
これは、都道府県知事・市町村長を対象に行われたもので、回答者は必ずしも協議会の現場に出席しているわけではないところには注意が必要ですが、半数を超える自治体において、地域公共交通会議での協議に困難を感じていることが示されています。実際に私が関わっている協議会においても、自家用有償旅客運送についての協議を行った際に交通事業者からの指摘があり、簡単に協議が調わないという場面はよくあります。
地域公共交通会議等の設置又は協議を調えることについて
第3回地域産業活性化ワーキング・グループ資料(n=617)より
地域公共交通会議に関する考え方
この議論を踏まえて、国土交通省では「地域公共交通会議に関する国土交通省としての考え方について>5.地域公共交通会議における協議>(3)地域公共交通会議における検討プロセス 」において、協議で結論に至らなかった場合について、以下のように示されています。
2ヶ月の期間内に結論に至らなかった場合には、地域公共交通会議を主宰する市町村長又は都道府県知事が、設置要綱の規定に基づき、協議内容を尊重しつつ、自らの責任において、自家用有償旅客運送の導入の可否について最終的な判断を行えることとし、自家用有償 旅客運送を実施するとの判断がなされた場合には、自家用有償旅客運送を実施することについて協議が調ったものとみなし~以下略
つまり、首長決裁でできることもありますが、なんでもできるわけではありません。文言をよく見ると以下のような制限があります。
●2ヶ月の期間内に結論に至らなかった場合
→協議会を飛ばして最初から首長決裁はできません
●設置要綱の規定に基づき(詳しくは後述)
→首長決裁ができることを、あらかじめ協議会の要綱に定める必要があります
●協議内容を尊重
→事前の協議会での協議内容を無視して決めることはできません
●自家用有償旅客運送の導入の可否について
→全ての協議事項が対象ではありません
設置要綱に定められた議決方法
地域公共交通会議設置要綱(モデル要綱)では、「交通会議の議決の方法は、○○○○とする。」となっており、具体的な議決方法は協議会ごとに決めることができます。必ずしも全会一致が求められているわけではなく、過半数や2/3以上の賛成でという形を取ることができます。実態として委員の中で交通事業者は少数であることが多いので、交通事業者が反対しても多数決で強行突破!がルール上はできますが、議論が平行線になっている場合には、早急な多数決ではなく、意見を出し合い合意点を見出していくことで合意形成をすることが重要です。
「設置要綱の規定に基づき」とはこれに該当し、議決方法に首長決裁できることを定めておかなければいけません。つまり、自動的に首長決裁ができるわけではなく、多くの地域では地域公共交通会議が設置されていますので、あらかじめ要綱を改正することが必要になります。
本件に限らず、せっかく使いやすい制度があっても上手に使うことができないことがよくあります。自分に都合良く解釈するのでなく、正しい理解を心がけましょう。
参考文献
内閣府:地域産業活性化ワーキング・グループ
国土交通省:地域公共交通会議に関する国土交通省としての考え方について