担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

地域公共交通計画を策定するにあたって「現状よりまし計画」といわれることがありますがどういうものですか?

地域とって必要な目標設定をするのではなく「現状を維持する・現状より良くする」ということを目標をしている計画のことです。
地域公共交通計画における目標設定のあり方
地域公共交通の評価手法や評価に基づいた計画の考え方については、トリセツではこれまで数多く取り上げていますが、目標と評価、評価するための指標の関係について改めて整理してみましょう。
目標とは問題を解決し、地域がどのようになりたいかという状態のことで、例えば「公共交通が便利になり、自由におでかけできる」状態というのが目標となります。これに対して評価とは、この目標を達成するために実施する事業が有効であるかを測り、事業を行った結果として公共交通が便利な状態となったか、またはその状態に近づいたかを明らかとするものです。さらに、指標とは公共交通が便利な状態といわれても分かりづらいため、例えばバスが15分に1本あるというような状態を数値に置き換えたものをいいます。
現状よりまし計画の問題点
これに対して、現状よりまし計画といわれるものの中では「公共交通が便利になり、自由におでかけができる」という目標であるのに対して
- 路線バス利用者数を12万人に増加させる
- 利用者数を維持しながら収支率を10%改善する
利用者数や収支率は地域公共交通計画の策定において例示されている指標ではありますが、このような設定では、現状より公共交通が改善している(または維持されている)ことは分かっても「公共交通が便利になり、自由におでかけできる」という目標が達成されたかどうかは分かりません。現状よりましにはなったものの、公共交通は不便なままだし、自由におでかけできない状態のままかもしれません。
もう一つ、国が例示している指標として公的負担がありますが、多くの自治体では公的負担額を維持するというような指標が示されています。しかし、公的負担額の増減を見ても運行の効率性はわかりますが、政策の目標に近づいているかは分かりません。利用者数のように現状より改善したことにより目標に近づいているのであれば、このような指標が必ずしも不適切であるとはいえません。
目標が高すぎると息切れすることも
バスが15分に1本あるというのは、公共交通が便利な状態であることを示すのに分かりやすいですが、これを指標として掲げることが最適でない場合もあります。
15分に1本というのは確かに分かりやすいですが、それを達成することが非常に困難であるという場合です。バスを増便するためには多額の費用がかかります。また、増便だけなく速達性の向上や待合環境の改善など、公共交通を便利にするために他にも行うことがありそうです。。これを全て達成するには時間がかかり、原則5年間といわれる地域公共交通計画の中に収めることは現実的ではありません。
そのため評価の段階では、いつまでたっても目標は未達成のままで息切れをしてしまうというようなことになりかねません。そうすると現状よりましで示した、目標は達成していなくても改善により近づいているということが分かる指標の方がよいかもしれません。
また、昨今では運転士不足という問題もあります。財源がなんとかなったとしても、限られた運転士の人数でギリギリのダイヤが組まれたとしましょう。そのダイヤは理論的には運行できることになっていたとしても、突発的な渋滞や車両の不調などに対応できなくなっているかもしれません。そんな地域では運転士からは「心がないダイヤだ」という声も出ており、これが積み重なることで遅延だけでなく、大きな事故に繋がってしまう可能性もあります。
目標と指標の関係性とモニタリング
このように、どちらの方法にも一長一短があります。
ここで大切なのは、設定した目標と指標の関係性について共通認識を持つことです。地域公共交通計画の中では様々な事業が実施され、それに対して評価をするための指標が設定されます。また、1つの目標に対して複数の事業が設定されていることが多くあります。逆に1つの事業が複数の目標に影響を与えるということもあります。どの事業のどの指標が、どの目標に対して関係しているかということを把握し、関わる人すべてで共通認識を持ちましょう
また、もう一つ大事なのは目標を見失わないことです。なかなか達成できない目標でも、一歩ずつ近づいていることが分かれば、取り組みを続けるモチベーションとなります。そのためには事業ごとに設定されている指標を毎年モニタリングしていくことが有効です。順調に進んでいればモチベーションを保つことができますし、順調に進んでいない状況であれば見直しのきっかけとなります。
関連イベントのご紹介
現状よりまし計画や目標達成型計画という用語は、何ロク氏の第72回土木計画学研究発表会・秋大会における何玏氏の招待講演「地域公共交通研究の工学的発展をめざして―「現状よりまし計画法」から「目標達成型計画法」へ―」においても問題提起されています。これを踏まえ、地域公共交通の研究における理論と実践の到達点について改めて振り返った上で、今後のあるべき姿について考えるイベントを2026年6月12日に名古屋市+オンラインで開催しますので、より学びを深めたい方はぜひご参加ください。
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