公共交通マップは、どうやって作れば良いですか?
地域の選定や出力方法の検討などが必要です。バスマップ沖縄を例に解説いたします。
公共交通マップの作り方
紙で発行する公共交通マップの作り方について、前編に引き続き、筆者が制作する沖縄県内の公共交通情報の案内ツール「バスマップ沖縄」をもとに説明します。
5.対象地域の選定
公共交通の情報を載せる地図を選びます。国土地理院が発行する地図であれば、購入後「測量成果の使用承認申請」を行い、承認を得ることで、無料で利用できます。たくさんの種類がありますので、目的により選びましょう。
自治体が独自に作成した、精度の高い地図が利用可能であれば、それを使うことも考えられます。グーグルマップやYahoo!地図、ゼンリン地図などを無断で使うことは違法です。所定の使用料を払って利用しましょう。
マップを作成する描画ソフトは、Adobe社の「Adobe Illustrator」(イラストレーター)を使うことが一般的でしょう。印刷会社への入稿との親和性も高いです。1年間26,160円(税別)のサブスクリプションでの販売です。
少し専門的になりますが、国土地理院の「数値地図(国土基本情報)」を購入し、(株)地理情報開発が販売するイラストレーター用のプラグインソフト「PlugX-国土基本情報Reader」(29,800円(税別))をインストールしたイラストレーターで読み込むと、数値地図のデータがイラストレーター上で編集できる形式に変換され、とても便利です。
6.マップの作成
描画ツールに、下図として選定した地図を取り込み、その上に必要な情報を書き込んでいきます。情報が多くなる場合は、情報の種類ごとに「レイヤー」を分けると作業がしやすくなります(イラストレーターでの作業の場合)。
自治体担当者やコンサルタント等が自ら製作する場合でも、表紙や、イラストによる説明が必要な部分は、デザイナーに依頼した方が良いでしょう。
公共交通マップの作成においては、独特の勘所も多く、印刷会社では対応しきれない可能性も高いです。「データ作成も含めて印刷会社に丸投げ」は避け、デザイン作成業務と印刷業務は別々に発注する方が良いでしょう。
7.印刷会社への入稿
データが完成したら、印刷会社へ入稿しますが、その前に印刷会社の選定も必要です。
自治体が発注する業務の場合、その自治体内の印刷会社に発注しないといけない等の制約がある場合もありますが、そうでなければ、発注・入稿から納品までやり取りがすべてオンラインで完結する、ネットプリント会社の活用も検討の余地があります。非常にコストが安く、品質も悪くありません。ただ、「地域にお金が落ちない」ことを考えると、悩ましいところではあります。
折りの種類によっては印刷会社が対応できない場合もあるので注意しましょう。折り工程だけ、福祉作業所などに発注することも考えられます。バスマップ沖縄では、折り~袋詰め~納品の作業を、精神科デイケアに委託しています。
8.マップの制作費用
公共交通マップの制作費用には、大きく分けてデータ作成費と印刷費の2種類があります。いずれも、受託者が適正な利潤を得られるような予算を見込みましょう。
データ作成費は、初版では大きくかかってしまうかもしれませんが、一度データができてしまえば、2版目以降ではすでにあるデータの修正のみで済むので、長い目で見れば制作費用に占める割合も小さくなります。
ネットプリント会社は、オンラインで完結する性質上、印刷費がすべてWebサイト上に具体的に表示されています。
「公共交通マップを作った後は」
公共交通マップは、「作ったら終わり」ではありません。一度作成したマップの賞味期限は、厳密に言えば、次回のダイヤ改正までです。とはいえ、各交通事業者が独自に実施する変更ごとに、公共交通マップを刷りなおすのも現実的ではありません。改訂版の発行は、3月などの大きな変更があったときに行うとして、小規模な変更が生じた場合は、訂正紙片を添付するなどでフォローするようにしましょう。そのためにも、発行する公共交通マップには、必ず発行日と、「いつ時点の情報を扱っているか」を明記します。なお、紙の公共交通マップを制作した場合も、データはWebでも公開し、随時、最新情報に更新しましょう。
1枚の公共交通マップで、すべてのニーズに対応できるわけではありません。小学生向け、外国人向け、免許返納者向けなど、多様な目的に応じたスピンオフ的なツールを作ることができれば望ましいです。
マップを「読みこなす」力も十人十色で、同じ情報でも「わかりやすい」と思う人から「わかりにくい」と思う人まで千差万別です。せっかく作った公共交通マップが「猫に小判」とならないように、公共交通マップを活用した「乗り方教室」などを開催して、公共交通利用のためのリテラシー教育も行いたいですね。
どんなに素晴らしい公共交通マップができても、普段、クルマしか利用しない人々には全く気付いてもらえません。作ったマップは交通拠点や施設の窓口などで受け身的に配布するだけではなく、MM(モビリティ・マネジメント)のツールとして活用したり、転入者に配布するなどといった「攻め」の手法も検討しましょう。
本稿をお読みくださった皆さまが、皆さまの地域で、便利で使いやすい、素敵な公共交通マップを制作されることを願っております。
「参考文献」
筆者が制作している公共交通マップです。「バスマップ沖縄」を念頭に置きながら本文を執筆しましたので、拙文をお読みいただくだけよりも、深くご理解いただけると思います。
全国で公共交通マップ(バスマップ)を作る市民団体や学識者がまとめた入門書です。絶版ですが、古本での流通があります。
東京圏のバスマップを作成する「愉会三丁目」さんがまとめています。「バス」マップの作成に特化していますが、参考になります。