公共交通マップは、どうやって作れば良いですか?
地域の選定や出力方法の検討などが必要です。バスマップ沖縄を例に解説いたします。
公共交通マップを作るときに心がけたいこと
テキトーに作った公共交通マップでは、実用性がありません。そればかりか、公共交通が―本当は「案外」便利なのにも関わらず(後述)―公共交通マップのわかりづらさゆえにそれが伝わらず「不便」と捉えられ、公共交通の利用者を減らす要因にすらなってしまいかねません。「わかりづらい公共交通の利用情報を、わかりやすく翻訳して表現しよう」という意気込みで制作しましょう。
「バスマップ沖縄」では、バス情報を以下のような考え方で取り扱っています。
・沖縄県内の全バス事業者の全路線、全バス停を掲載する。 ・バス路線図を地形に正確に表現する。 ・バス停の位置、特に「交差点のどちら側にあるか」を正確に表現する。 ・読み方が難しいバス停にはルビを振る。 ・主要交差点名、公共施設・観光施設を併記する。 ・バス事業者の違いは、本質的には些末なこと。あまり目立たせない。 |
情報量に比例して紙面が充実するわけでもなく、あえて掲載していない情報もあります。(もちろん、掲載してはいけないということではなく、地域の実情によりケースバイケースです)
・リムジンバスは、マップ中には記載しない。(バス停数が距離に比べて少なく、地図上に表す必要性が乏しいと考えられるため) ・無料の送迎バスなどは記載しない。(情報の精度を担保できないため) ・バスの「路線名」は記載しない。(※沖縄では系統番号がよく整備されているため) ・制作者の「思い」は記載しない。(バスを利用するのに必要な情報ではない) |
公共交通マップの作り方
紙で発行する公共交通マップの作り方について、筆者が制作する沖縄県内の公共交通情報の案内ツール「バスマップ沖縄」をもとに説明します。
1.対象地域の選定
まず、公共交通マップに掲載する範囲を決めます。
実際には、ある1つの自治体の行政区域全体を対象にするケースがほとんどだとは思いますが、人々は行政区域の範囲内だけで生活したり観光したりしているわけではありません。その地域の人々や観光客などの移動を吟味して、対象地域を適切に設定しましょう。複数の自治体にまたがった公共交通マップの例もあります。(バスマップ沖縄も、県全域を対象に作っています)
県をまたいだ2市の情報をまとめた公共交通マップの例(福山&笠岡公共交通マップ)
広範な地域を対象とする場合、縮尺が小さくなり、まちの中心部などでは情報がひしめき合って見づらくなってしまいます。基本となる地図に加え、必要に応じて中心部の拡大図も作成しましょう。
2.掲載するコンテンツの検討
公共交通マップで扱うエリアが決まったら、地図情報以外の掲載コンテンツを検討します。
対象エリア内の公共交通の路線一覧表や乗り方、運賃、乗り場案内などのほか、主要施設へのアクセス情報など、地域の実情に応じたコンテンツを掲載しましょう。
費用回収などのため、公共交通マップに広告を掲載するケースも見られますが、本来の情報が見づらくなってしまいます。どうしても広告を入れる場合は、数や大きさ、配置を慎重に検討しましょう。表に、バスマップ沖縄の、マップ以外の掲載コンテンツをまとめました。(モノレール以外に鉄道のない沖縄なので、扱う情報はバスに偏っています)
バス路線一覧表 | 掲載している全てのバスの発着地、系統番号、バリアフリー対応の有無等を記載。 |
主要バスのりばマップ | バスターミナル周辺や、中心市街地のバス停、同じ名前なのにのりばが分散しているバス停の、のりば付近拡大地図。 |
観光・公共施設アクセス情報 | 主な観光施設、公共施設の最寄りバス停と、そこを通るバスの系統番号。 |
高速バス・リムジンバス情報 | マップ中に記載していない(後述)長距離バスの簡易バス路線図、予約の要不要など |
ゆいレール情報 | ゆいレール(沖縄都市モノレール)の運賃表、主要駅の発車時刻表 |
運賃情報 | ゆいレール、バスの運賃制度やおトクな運賃の紹介 |
トランジットモール時迂回路案内 | 毎週日曜日午後に実施される「国際通りトランジットモール」中の、バスの迂回ルートの案内 |
公共交通の利用啓発 | 「バスは使ってみると案外便利」であること(後述)の紹介 |
奥付 | 制作団体連絡先、協力団体一覧等 |
3.サイズ・レイアウトの検討
掲載したい情報が決まったら、紙の大きさとコンテンツ配置のレイアウトを検討します。
扱いやすさを考えるとコンパクトな方が、情報量を充実させたければ大きい方が良いでしょう。A列(A3~A1)が一般的ですが、変形サイズのデザイン性も捨てがたいです。
紙面の大きさと掲載可能なコンテンツの量は反比例します。「これだけは必要不可欠」という情報のほかは、紙面に応じて検討しましょう。
コンテンツとレイアウトを決めて制作をはじめたら、「思ったより情報量が多くて、全部を載せきれなくなった」というケースもあります。各コンテンツの優先順位を決め、やむを得ない場合は取捨しましょう。
4.折り・用紙の検討
マップの折り方や用紙の選定も重要です。
折り方は、コンテンツのレイアウトも勘案しながら決めます。A3サイズぐらいのコンパクトなマップであれば、2つ折りまたは4つ折りで済むかもしれません。より大きいサイズであれば、仕上がりサイズをどのくらいにしたいかも考慮しつつ、折り方を決めます。大きいサイズであれば、折りたたんで読まれることもあります。コンテンツが折り位置(特に山折りになる位置)をまたいで配置されないように留意しましょう。
どのような紙に印刷するかも、制作の思想が現れる部分です。
一般的には、「コート紙」を用いることが多いでしょう。パンフレットなどでよく見る紙です。安価ですが、表面がテカテカしていて、明るい屋外では太陽の光を反射してやや見にくいです。コート紙のほか、落ち着いた風合いの「マット紙」、コピー用紙のように鉛筆で書き込める「上質紙」、合成樹脂が原料でぬれても破れない「合成紙」など、さまざまな種類があります。
特殊な折り方に、展開/折り畳みがワンタッチでできる、「ミウラ折り(リンク)」があります。コストが高く、対応できる印刷会社も少ないですが、予算や目的によっては検討しても良いでしょう。
「参考文献」
筆者が制作している公共交通マップです。「バスマップ沖縄」を念頭に置きながら本文を執筆しましたので、拙文をお読みいただくだけよりも、深くご理解いただけると思います。
全国で公共交通マップ(バスマップ)を作る市民団体や学識者がまとめた入門書です。絶版ですが、古本での流通があります。
東京圏のバスマップを作成する「愉会三丁目」さんがまとめています。「バス」マップの作成に特化していますが、参考になります。