担当:福本雅之(合同会社萬創社)
うちの市の公共交通への財政支出って多いのかな?
他の市町村と比べてみましょう
「公共交通への財政負担額が2億円かかってます」とか「コミュニティバスの運行の予算額が5,000万円です」といった話を、地域公共交通会議の場で担当者の方から伺うことがあります。そのときは「すごい金額だな」と思うのですが、果たしてそれが妥当な金額なのか、と聞かれると答えに窮します。そもそも、市町村の公共交通への財政負担の相場はどのくらいなのでしょうか?
集計したデータ
市町村の公共交通に対する財政負担について、全国規模でまとまったデータは存在しませんが、愛知県に関しては、愛知県交通対策課が「市町村における自主運行バス等の運行状況に関する調査」と称して、愛知県内のすべての市町村を対象にデータを取りまとめています。
ただしこの調査では、コミュニティバス運行や民間バス路線への赤字補填を対象としているため、モビリティマネジメントや印刷物の作成といったソフト施策についての財政負担はわかりません。また、交通局を持つ名古屋市については、一般会計から交通局への負担額は調査対象とはなっていません。こうした制約はありますが、愛知県という限られた範囲であるとはいえ、市町村の公共交通に対する財政負担を大まかに把握するには活用できると考えられます。なお、今回の集計においては、新型コロナウイルスの影響を受けていない平成30年度の実績を用いました。また、名古屋市については交通局の決算情報から、一般財源によるバス事業への負担額を把握して集計に加えてあります。
【データ出典】
- 愛知県交通対策課:市町村における自主運行バス等の運行状況に関する調査,https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/337305.pdf
- 名古屋市交通局:経営比較分析表(自動車運送事業)>平成30年度経営比較分析表,https://www.kotsu.city.nagoya.jp/jp/pc/ABOUT/TRP0002307/【経営比較分析表】30.pdf
前書きが長くなりましたが、結果を以下に説明します。
市町村の財政負担額
市町村の財政負担額(国や県の補助を除く、市町村の実質負担額)をグラフにしたものが図-1です。
2,500~5,000万円であるという市町村が最も多く、5,000万円未満の市町村がおよそ半数となっています。一方で、1億円を超える市町村も3割弱存在しています。
人口1人あたり財政負担額
一口に財政負担額といっても、人口が市町村によって違うので総額での比較には無理があります。そこで、人口1人あたりの財政負担額を算出した結果を図-2に示します。人口データはR2年度の国勢調査の結果を用いました。
人口1人あたり500~750円という自治体が多く、1,000円未満の自治体が半数以上となっていますが、2,000円を超えるような自治体も多く存在しています。
人口1人あたり財政負担額と人口をクロス集計した結果を図-3に示します。一概には言えませんが、人口規模が大きくなると1人あたりの財政負担は少なくなる傾向があります。この理由としては、人口が多いと採算性が高まることと、人口規模が大きくなると財政規模も大きくなるため、公共交通への財政負担が相対的に小さくなるためだと考えられます。
一方で、人口の少ない市町村においては、利用者が少なくても通学や通院といった必要不可欠の移動を支えることが必要であるため、財政負担が大きくなると考えられます。
市町村財政に占める公共交通の割合
市町村の財政支出総額に占める公共交通への財政支出はどの程度の割合かを図-4に示します。市町村の財政支出総額は、愛知県が県内の市町村について公表している「市町村普通会計性質別歳出決算額」から歳出総額を用いました。
0.3%未満の市町村が過半数を占めていますが、1.0%を越えるという市町村も存在しています。愛知県は全国的に見ると財政が豊かである市町村が多いため、他の地方と比べると負担割合はやや小さくなっているかも知れませんが、公共交通への財政支出は概ね財政支出総額の0.3%以下というのが標準的な姿のようです。
まとめ
以上の集計から、愛知県内においては
- 財政負担額は2,500~5,000万円程度
- 人口1人あたりの財政負担額は1,000円未満
- 財政支出総額に対する公共交通の財政支出の割合は概ね0.3%未満
という市町村が多数を占めるということが分かりました。ただし、この結果が全国にも当てはまるかどうかはわかりません。
ここで分かった数字を多いと思うのか、少ないと思うのかは人によって判断が分かれるところでしょうが、例えば、人口1人あたりの財政負担額をあと1割上げたり、財政支出総額に対する公共交通支出の割合を0.1%上げるなどすれば、さらに公共交通サービスの改善に結びつけることがができるとも考えられます。
もし、ご自身の市町村における公共交通への財政支出が妥当かどうかを確認したい場合は、同じ県内の人口規模の似通った市町村や、近隣の市町村のデータを集めて比較してみてはどうでしょうか。