移動に関わるカーボンニュートラル

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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カーボンニュートラルの取り組みが進められているけど、公共交通の利用とはどのように関係しますか?

天の声
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公共交通の利用促進や電動車両の導入などもCO2削減の方法の一つですが、これらを上手に組み合わせることがカーボンニュートラルの達成には必要です。

そもそもカーボンニュートラルってなんだろう

 脱炭素、カーボンニュートラル(CN)、温室効果ガス(GHG)の削減など、どれも地球温暖化対策に関連した話の中で使われる用語で、CO2(二酸化炭素)を削減するという意味では共通ですが、正確にはそれぞれ意味するところは少しずつ違います。

 脱炭素はシンプルで、二酸化「炭素」の排出をゼロにしようという取り組みです。電気自動車の売り文句として「走行時のCO2排出ゼロ」が使われています。これ自体は嘘ではないのですが、製造過程なの走行する前段階でCO2が排出されているという話は「電気自動車って本当に環境に良いの?」で説明しています。同様に、公共交通はマイカーの利用に比べて環境に良いという話もあります。こちらも詳しくは「公共交通が環境に良いってどういうこと?」で説明していますが、公共交通の利用促進だけでは「低」炭素にはなるけれど、どこまで頑張っても「脱」炭素にはなりません。

 これに対してカーボンニュートラルは、必ずしもCO2排出ゼロを目指しているものではありません。ニュートラルという言葉が示すように、排出量と森林管理などによるCO2の吸収量を均衡(=ニュートラル)させ、実質的にゼロにしようという取り組みです。

 一つの取り組みだけで、脱炭素を実現するのは極めて困難ですが、低炭素な取り組みの良い所を組み合わせることができれば、カーボンニュートラルが達成できるかもしれません。

カーボンニュートラルへの選択肢

 今の生活の中で何を変えることが選択肢になるでしょうか?これまでにも書いた公共交通を利用することやクルマを電動化するというのも選択肢の一つですが、それ以外にも私たちが取り組めることはたくさんあります。

移動を減らす

 実は移動に伴うCO2排出を減らすことはとても簡単で、そもそも移動をしなければCO2は排出されません。しかし、実際にはまったく移動せずに生活することはできませんし、カーボンニュートラルの達成のために楽しいおでかけを減らしてしまうようなことは本末転倒です。

 そこで私たちにできることは、移動しないことではなくて、移動を減らす工夫をすることです。最近定着してきたテレワークもその一つで、これまで行われていた通勤の移動を減らすことができます。その代わりに、自宅で使う電力などでCO2排出が増えるのこともあるのには注意が必要です。
 お買い物をするのも遠くのショッピングセンターに行くより、近所の商店街で買い物をすれば移動を減らすことになります。

 移動を減らすと言われると、我慢を強いられるようなネガティブなイメージを持つかもしれませんが、これまでと同じ生活をした上で、少しの工夫で移動を減らせることがあれば取り組んでみましょう。

走り方を変える

 移動にマイカーを使わなければいけない時には、クルマの走り方を変えるという方法が有効です。急加速や急減速を避けて走る、いわゆるエコドライブがその代表的な方法です。また、皆で移動を減らしたり、公共交通を利用することで渋滞を減らすことができれば、効率の良い速度で走ることもできるようになります。渋滞の解消は、移動時間を減らすのと同時に、CO2を減らすことにも効果があるのです。

移動手段の使い方を変える

 走り方を変えても、マイカーでの移動ではどうしてもCO2の排出は多くなってしまいます。これに対して、公共交通への転換はとても重要な方法です。公共交通政策の中では、マイカーで移動できない交通弱者をどのように助けていくかという視点で考えがちですが、同時に過度にマイカーに依存せずに、可能な時は公共交通を利用するという視点も重要です。

 また、同じクルマに一緒に乗り合うという意味では、マイカーで移動する時でもバラバラに移動するのではなく、目的地が同じ人がいれば一緒に乗るということだけでも有効です。

クルマ選びを変える

 移動する時の工夫から一つ遡れば、クルマの選び方を変えるという方法もあります。国内ではなかなか普及の進まなかった電気自動車も、ようやく各社が様々な車種を発表し、ようやく普及に向けての選択肢が増えてきました。走行時のCO2排出がゼロである電動化は、カーボンニュートラルの達成に向けて非常に重要な役割を持ちます。
 それ以外にもクルマを選び方として重要になってくるのが、使い方に合わせて必要十分なものを選ぶことです。地方都市では一世帯で複数台のクルマを持つことも珍しくありません。こういった場合に、すべてのクルマが大きくある必要はありません。1台目のクルマは家族で利用することを想定したワンボックス、主に近所のお買い物に使うクルマは軽自動車というように、使い方に合わせて、小さくて軽い燃費の良いクルマに変えるのも有効です。

クルマの性能を上げる

 これは、メーカーや私たちのような研究者が頑張るところですが、クルマの性能を向上させることも必要です。電気自動車であれば、バッテリやモータの効率を上げることや、クルマを軽量化したり、充電の効率を上げることも求められます。

 皆さんの期待に答えられるように、これからも研究開発を進めて行きますので、最新の技術で少し割高かもしれませんが、環境に良いという視点でも選んでもらえるように頑張ります。

充電方法を変える

 さらに電動化が進むとクルマだけではできないこともあります。電気自動車は走行時にはCO2を排出しませんが、走るための電気を作る時にCO2を排出しています。
電気を作る時のCO2を減らすためには、これまで以上に再生可能エネルギーによる発電を増やさなければなりません。しかし、太陽光発電などの再生可能エネルギーはこれまでの発電手段と違い、発電できる時間が限られるというような問題があります。これに対して、電気自動車の充電を太陽光発電の割合の多い昼間に行うといったことができれば大きな効果が得られます。


カーボンニュートラルの達成に向けて

 ひと昔前の「低」炭素であれば、これらの取り組みのどれかを行えば達成できたかもしれません。しかし「脱」炭素やカーボンニュートラルを目指すにはそれだけでは足りません。

 また、ここでは移動に関わるところを抜き出して説明しましたが、私たちが生活する中で様々な場面でCO2は排出されています。移動に関わることだけでなく、普段の生活の中で皆さんが環境に対して関心を持ち、ライフスタイルを変えていくことが、カーボンニュートラルの達成には必要不可欠となります。