バスを小型化して減便・廃線を避けることは可能でしょうか?

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

減便に関する地域からの声で、バスを小型化して減便をしないで欲しいという意見が多く出てきます。それは可能なのでしょうか?

バスを小型化すると運行コストを下げることができそうだと思われることは多いのですが、データを見るとそれは難しいことがわかります。

「バスの小型化」に対する様々な人々の声

 2019年度からのコロナ禍による利用者減少が発端となり、路線バスの減便・廃線問題が身近になってきました。これまでも利用者減少による減便・廃線問題はあったのですが、一気に目の前の問題となってきたのです。

 行政や交通事業者からの減便・廃線についての説明会などで、沿線地域の皆様の声として「バスを小型にして減便を避けてほしい」、あるいは「小型にすることで、増便ができるのではないか」、さらに「朝夕の混雑時には通常の大型バスを運行し、閑散時間帯の昼間には小型バスの運行を続けることを期待する」等の意見が出てくることは少なくありません。

 実際にバスを小型化するとコストが大きく減少し、路線維持や増便は可能なのでしょうか?

路線バスの運行経費を調べてみると

 路線バスの運行費用については、「公共交通のトリセツ」2020年9月15日に塩士圭介さんが書かれた記事「バスを走らせるときには、どのような費用が必要ですか?」に詳しく紹介されています。

 ここでは、この塩士さんの記事をもとに簡単に路線バスの運行費用を確認したいと思います。

 バスの運行費用をまとめたものが次の図-1です。

図-1 実車走行1キロあたりの運送原価(全国平均・2020年)

出典:公益社団法人日本バス協会:「2021年度版 日本のバス事業

 図-1からわかるように、全国平均でバスの実車走行1kmごとに約502円かかっています。経費の内訳では人件費が最も多く約58%、次いで一般管理費が23%となっています。車両に関係する燃料油脂費、車両修繕費、車両償却費は7%~6%で合計しても19%程度です。仮に小型バスにすることで、これらが半額になったとしても10%程度の費用削減にしかならないようです。

 こうした路線バスの費用構造を見ると、大型バスを小型バスにすることで経費が小さくなり路線を維持をすることや、バスを小型化することで増便をすることは難しいことだということがわかります。

 また、利用者が多い時間帯は大型バスで、利用者が少ない時間帯は小型バスを導入するという案も、大型と小型のバスを2種類準備しないといけないので、むしろ費用が高くなりそうです。

では、バスでなくタクシーを借り切ったら

 バスの小型化は、なかなか大変だとするなら、究極の小型化としてバスからタクシーへの転換があるかも知れません。

 ここで、タクシーと路線バスの費用をざっと計算してみましょう。

計算を行うためには、運行する路線を定める必要があります。ここでも、先のトリセツで塩士さんが書かれている一日8時間で80kmを運行するものと仮定して、費用の比較をしたいと思います。

 バスのキロ当りの輸送原価(2020年)は502円/kmでした。

 次にタクシーです。通常の乗用車タイプだと4名程度が最大乗車人数になりますが、これでは運ぶことができる人数が限定されてしまいます。そこでコミュニティバスなどでも使われているジャンボタクシー(ハイエースなど)を使うことを想定します。これだとドライバーを除いて最大9名まで乗車が可能となります。タクシーの運賃は距離制と時間制運賃がありますが、ここでは時間制運賃で考えたいと思います。タクシーの運賃は地域によって異なりますので、例として奈良県の時間制運賃で計算をしたいと思います。

 表-1 奈良県のタクシー運賃/時間制運賃

特定大型車時間制運賃(30分)1時間あたりの運賃
上限運賃3,350円6,700円
下限運賃3,150円6,300円

出典:一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会

 表-1をもとに8時間/日、80km/日の運行を行う場合の路線バスとタクシーの費用を比較すると表-2のようになります。タクシーについては地区によって上限と下限の運賃が設定されていますので、それも含めて計算をしています。

表-2 8時間/日、80km/日の運行として路線バスとタクシー(奈良県の運賃)の費用比較

 距離・時間単価運行費用
路線バス80km502円/km※140,160円
タクシー8時間6,700円※253,600円
  6,300円※350,400円

※1:バスの輸送原価・全国平均・2020年
※2:タクシーの時間制運賃(1時間単位に変更)・奈良県・2022年12月/上限値
※3:同上/下限値

 これより、路線バスよりもタクシーの方が割高になっていることがわかります。実際に運行の契約をする際には、もっと様々な要素も考慮されて輸送費用は決まっていくと考えられますので、この数字は一つの目安だと考えて下さい。

 また、ジャンボタクシーでも定員が9名ですから、朝夕のラッシュ時には積み残しになる人が出る可能性があります。その際には、臨時でタクシー車両を準備することになります。

 小型化を行うことも、地域の状況を考えながら検討することが必要です。

バスの小型化に代わる対応策って?

 ここまでの記事でおわかりのように、路線バスを小型化することだけでは、大きく費用を削減して減便・廃線の回避や、場合によっては増便などを行うことは簡単ではありません。

 この結果だけは無力感に陥りそうです。そこで、バスの小型化以外に減便・廃線を避ける方法を考えることが必要です。地域の人たちにとっては、バスを残すことが目的ではなく、バスに限定せず、様々な方法で移動を行う環境を維持し発展させていくことが重要なことだからです。

 そこで、バスの小型化に代わる対応策について考えてみましょう。

①単純明快に利用者を増やすことです

 利用者が少なくなったので、運行費用を運賃収入で賄うことができないことが減便・廃線の原因です。そこで運行費用を下げるために減便・廃線が行われることになります。

 だから、これを避けるためには運賃収入を増やすことが対応策になります。先ずはバスを必要としている人たちの利用を増やして運賃収入を増やすことが考えられます。

 利用者を増やすことについては、「トリセツ」でも、多くの記事があります。私も「公共交通の利用促進に取り組むために」というシリーズを5本書いていますので、そちらを参考にして下さい。

②運賃の適正化

運賃収入を増やす、もう一つの方法は利用者数が変わらないとするなら、運賃の改定を行う方法も考えられます。

 これについても、「トリセツ」の「公共交通の減便・廃線問題が起こった場合の対応策は?」で長岡京市で行われた協議運賃によるバスの運賃の適正化についての事例を紹介しています。

③地域でバスを支える

 運行に対して地域の団体や自治会などが協力金や協賛金で支えることや、利用促進を目的にサービスを改善するための費用や通学定期券の補助を行政が実施している場合などもあります。
また、休廃止になった路線バスを地域の人たちが主体となって運行するものも多くあります(例えば、京都府宇治市明星町の「のりあい交通事業」)。

 他にも様々な対応策があるかと思います。「トリセツ」の中にもヒントになる記事が多くありますので、愉しみながら確認をしていただければと思います。 また、バス以外の方法で人々の移動を支える方法もあります。病院の送迎バスの活用やスクールバスの混乗化など「輸送資源の総動員」と言われるものです。
 さらに、バスで運行が困難になった場合に、エリアや利用者を限定したタクシーチケットの配布などの方法もあります。
 また、地域の人たちが自主的に移動を支える方法(自家用有償旅客運送やボランティア輸送など)もあります。
 人々の移動を支える方法で持続性の高い方法を地域で見出していくための議論を進めることが望ましいことだと考えられます。

さいごに

 最後に路線バスの存続を考える場合に、どうしても小型化など経費削減の発想が前に出ることが多いのですが、バスの運送原価のところでみたように約6割が人件費になります。経費節減を行うと人件費にも影響が出てきます。そうするとバス会社で働く人々、特に運転士の人たちの待遇に大きな影響を及ぼすことになります。昨今話題になっている運転士不足の原因はここにもあるのです。

 だから、経費節減だけでなく、人々を運ぶことに関して必要な経費を負担することについても議論をすることで、地域公共交通の持続可能性を見出していくことが期待されていると思います。

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