オンデマンド交通とはなんですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

オンデマンド交通ってよく聞くけど、どういうものなんだろう?

利用者の予約に応じて運行する乗合型の公共交通サービスのことです。

オンデマンド交通の概要

 オンデマンド交通は、バスと同様に複数の人を一度に運ぶことができる効率性と、タクシーと同様に利用者の要望にきめ細かく応えることができる柔軟性を併せ持った移動サービスの提供形態です。利用できる時間帯、乗降地点などを全く定めない形態から、路線や時刻は定めるが予約がなければ運行しないという形態まで、地域や利用者の実態に応じて様々なサービスの形態を取ることができます。

オンデマンド交通の定義

 運行経路(路線)・乗降地点(停留所)・運行時刻(時刻表)が定められている一般的な路線バスと異なり、経路・乗降地点・時刻のいずれか、あるいは、すべてに柔軟性を持たせることで、利用者の要求に応えて運行する乗合型の公共交通サービス形態を「オンデマンド交通」と言います。「デマンド交通」と呼ばれることも多く、「デマンド型乗合タクシー」「デマンドバス」と言われるものも含まれます。道路運送法上では、「路線不定期運行」「区域運行」と呼ばれるものです。

 使用する車両は、ワゴン車(ジャンボタクシー)であることが多いですが、セダン車(普通車タクシー)や大型バスを用いても構いません。

 欧米でDRT(Demand Responsive Transport:需要応答型交通)として発展してきたサービス形態であり、「複数の利用者が乗り合って利用する」という路線バスの性質と、「予約に応じて利用者の希望する地点間を運行する」というタクシーの性質を併せ持っています。

 複数の利用者を一度に運ぶことで運行費用を抑えつつ、それぞれの利用者の異なる移動ニーズに応えようとするサービスといえます。

 路線バスオンデマンド交通タクシー
経路固定自由自由
乗降地点固定自由自由
時刻固定自由自由
車両大型バスいずれも可普通車タクシー
利用形態複数で乗り合う複数で乗り合う個別に貸し切る
オンデマンド交通の特徴

オンデマンド交通の種類

 オンデマンド交通の特徴として、経路・乗降地点・時刻に柔軟性があるという点が挙げられますが、それぞれにどの程度の柔軟性を持たせるかは、地域の状況に応じて自由に設定できます。

経路と乗降地点の柔軟性

 車両が走行する経路の設定の代表的な例として、①路線を定めるが予約がなければ運行しないもの(Fixed)、②通常運行する路線は決まっているが、予約がなければ立ち寄らない迂回経路を設けるもの(Route Deviation)、③起点と終点は決まっているが、運行経路は利用状況に応じて変化するもの(Semi-Dynamic)、④起点と終点を決めず、利用者の希望の応じて都度運行するもの(Dynamic)、の4つがあります。

オンデマンド交通の運行パターン(出典:竹内龍介,吉田樹: DRTの運行特性と適用範囲の考え方について,土木計画学研究・講演集,Vol.34, CD-ROM, 2006.)

 また、乗降地点についても、①バス停のように、指定された地点以外での乗り降りを認めないもの、②特に地点を設けず、運行区域内であれば自由に乗り降りできるもの、の2つがあります。

時刻の柔軟性

 運行する時刻については、①時刻表を設定するが、予約がなければ運行しないもの、②起点もしくは終点の時刻を固定し、経路上の通過地点におおよその時刻を設定するもの、③特に時刻は設定せず、運行時間内は自由に利用できるようにするもの、の3つがあります。

経路・乗降地点・時刻の全てが自由という運行形態を取るものは少なく、多くの地域では、乗降地点を定めたり、目安の運行時刻を定めたりしています。

オンデマンド交通の導入例

 オンデマンド交通は全国各地で導入されています。導入事例が多いのは中山間地や郊外においてですが、近年は都市部においても導入される事例が出てきています。

中山間地・郊外における導入例

 利用が減少した路線バスやコミュニティバスの代替手段や、それまでバスが運行されてこなかった公共交通空白地区の解消を目的として導入されるものであり、オンデマンド交通の多くがこの類型に位置づけられます。

 この類型のオンデマンド交通の萌芽的な事例は、1972年に阪急バスが能勢地区において電話予約に応じて運行する「デマンドバス」を導入したものです(1997年に廃止)。

 全国的にオンデマンド交通の導入が広まるきっかけになったのは、福島県小高町(現・南相馬市)で2001年に運行が開始された「おだかe-まちタクシー」です(2011年から原発事故の影響を受けて運休中)。利用者の電話予約内容をオペレーターがパソコンに入力すると、自動的に最適な走行経路が生成され、それが携帯電話回線を通じて車両に送信されるという予約配車システムを導入したもので、その後のオンデマンド型交通の基本的な機能がここで出そろいました。

 その後、位置情報を用いたICTサービスが急速に発展する中で、同様の予約配車機能を持つオンデマンド交通のシステムが多数開発されています。主なオンデマンド交通配車システムとして、順風路株式会社の「コンビニクル」、NTTドコモの開発した「AI運行バス」、富士通株式会社の「オンデマンド交通サービス」、株式会社未来シェアの「SAVS」、モネ・テクノロジーズ株式会社の「オンデマンドモビリティ」などがあります。

 これらは、利用者がスマートフォンやタブレットPCから直接予約をすることもできる機能を持っています。しかしながら、こうしたオンデマンド交通の利用者は多くが高齢者であるため、スマートフォンやタブレットPCによる予約は今のところあまり利用されておらず、電話予約による利用が中心となっています。

都市部における導入例

 鉄道や路線バスが走っている都市部では、公共交通が充実しているように思われがちですが、これらの路線やダイヤは通勤・通学には便利でも、高齢者の通院や買い物には使いにくい場合が少なくありません。このため、都市部でもいわゆる「買い物難民」と言われる人が増えているとの指摘もあります。

 このため、都市部においては既存の鉄道や路線バスを補完する移動手段としてオンデマンド交通しているの導入が有効な場合があります。

 都市部におけるオンデマンド交通の代表的なものとして、愛知県豊明市で株式会社アイシンが運行している「チョイソコ」があります。豊明市には鉄道、民間路線バス、市の運営するコミュニティバス、民間のタクシーがあり、決して交通が不便ではありません。しかしながら、バス停まで歩くのが辛くなった高齢者が買い物や通院に使いやすいものではありませんでした。「チョイソコ」では、ゴミステーションなど高齢者が歩いて行ける範囲に停留所を設置し、行き先もドラッグストア、スーパー、クリニックなどに設定しています。