担当:塩士 圭介(日本海コンサルタント)
いろんな乗り物が最近増えてきて、よく分からなくなってきた・・・誰か教えて!?
移動手段と一口にいっても、改めて見渡すと最近多くの種類が提供されています。地域の実情にあわせて、最適な乗り物を提供することが必要です。
世の中には様々な移動手段がありますが、その種類の全容をすべて説明できる人は多くないでしょう。なぜなら、一口に移動手段の種類といっても、使用車両(バス、ワゴン車、セダン車など・・・)からみた分類、ナンバープレート(自家用、営業用)、我が国の法制度上の位置づけや運賃収受の要否など、見方によって様々な切り口があるからです。
ここでは、我が国で現在使われている陸上交通手段について、その概要を説明します。
【2022年3月15日追記】多様な移動手段について、大量輸送機関と少量輸送機関に節を分けました。(従前の記事では少量輸送機関や新たなモビリティにやや重きを置いた解説としていましたが、今回、大量輸送機関としての鉄道、バス、LRT、BRT及びその役割分担などについても言及しています。)
公共交通vs個別交通
広く使われている用語である「公共交通」とは、どこまでの範囲を指すのでしょう?教科書的な定義でいうと、「不特定多数の人々が利用する交通機関」を指します。具体的には、鉄道、新幹線、地下鉄、路面電車(軌道)、モノレール、路線バス、フェリー、旅客船・渡船、航空機などはイメージしやすいでしょう。
公共交通の対義語としてあるのが個別交通で、こちらは自家用車(マイカー)、自転車、バイクのほか、企業等が保有するマイクロバスなどが該当します。一般のタクシーは、個別の需要に基づいて運行されるものですので、個別交通に近いイメージもありますが、「地域公共交通の活性化ならびに再生に関する法律」(活性化・再生法)や「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー新法)において、タクシー事業者も「公共交通事業者」として明記されています(ちなみに、以下の文章では、主に陸上交通に絞って進めていきます)。
なお、「公共交通」という言葉には、当然ながら利用者の日頃の移動を支える公共性を持った事業としてサービスが提供されているものですが、それを運行する事業者は必ずしも公営とは限らず、特に我が国においては、民間事業者が公共交通を担う場合が多くなっています。
大量輸送vs少量輸送、長距離vs短距離
もう一つの切り口として、一度にどの程度の旅客を輸送できるか?また長距離を移動するのか、短距離を移動するのか、という観点があります。これを端的に表したのが下の図で、横軸がトリップ距離(1回の移動距離)、縦軸が利用者密度(一度に多くの旅客を輸送できるか)を表します。右上に位置する鉄道・地下鉄は、大量輸送の代表格で、長距離移動を担う新幹線から、都市・地域内移動を担う都市鉄道・地方鉄道が該当します。また、都市内の移動を担う中量輸送機関として新交通システム、モノレール(この図は古いので記載がありませんが、路面電車・LRT(Light Rail Transit)も含まれます)があり、さらに鉄道より小さい輸送力で、近距離をカバーするバスが挙げられます。これより小さい輸送力となると、個別輸送としての自動車や二輪車となります。
「トランスポーテーションギャップ」とは?
さて、上の交通手段の適用範囲の図を見ると、それぞれの輸送機関の輪っかの間に「すき間」があることに気づきます。これは、既存の交通手段が全ての移動需要をカバーしきれている訳ではないことを示します。このすき間のことを「トランスポーテーションギャップ」と言います。
特に、上図中のCで表した破線部分は、個別輸送の自動車よりも多い輸送力が必要だが、バスほどの輸送力は必要ない、というゾーンを表しています。すなわち、マイカーが広く利用されている領域で、バスでカバーすることが困難であり、予約に応じて運行するデマンド交通(バス、ジャンボタクシーなど)などでこの「すき間」=トランスポーテーションギャップを埋めることが必要な場面があり、全国各地で地域の実情に合わせた運行が模索されています。
多様な移動手段・旅客輸送サービス
さて、最初に記した「公共交通」の定義である「不特定多数」というキーワードに立ち返り、縦軸に「利用者が不特定か特定されているか」、横軸に「輸送密度が大量(=多数)か個別(=少量)か」、という観点で、トランスポーテーションギャップの存在も意識しながら移動手段・旅客輸送サービスをプロットしました。
大量輸送機関
(本節は2022年3月15日追記しました)
多様な移動手段・旅客輸送サービス
出典:国土交通省「地域公共交通網形成計画及び地域公共交通再編実施計画作成のための手引き入門編」に、トリセツ編集会議加筆
一度に多くの旅客を輸送できる公共交通機関としては、鉄道及び路線バスが挙げられますが、都市によっては、モノレール・新交通システムや、路面電車が運行されている場合もあります。最近では、LRT(Light Rail Transit)やBRT(Bus Rapid Transit)といった交通機関の概念も登場しています。(LRT、BRTについては別途記事をご覧下さい。)
これら大量輸送機関の役割分担については、輸送力、輸送距離、速達性、定時性及び経済性(運営コスト)などの観点から語られる場合が多いですが、都市圏内の交通ネットワークを論じる時には、単一の交通機関にだけ頼るのではなく、多様な交通需要に合わせた組み合わせ及び役割分担が必要です。
なお、我が国の場合、運輸事業は民間事業者による独立採算制が採られ(→注1参照)、一定よりも輸送人員が少ない場合には、民間事業のみではその維持が難しくなることが課題です。(本図では「既存公共交通の壁」と記しています)。その場合、行政または地域の交通運営への一定の関与を前提に、次節に示すような少量輸送機関へのダウンサイジングを含めた運行形態の変更が検討されます。
(注1:もっとも、海外諸国においては、公共交通は重要な交通インフラとして、行政による運営関与または手厚い財政支援があり、我が国のような「独立採算」に強く重きを置く例は少ないです。このことについては改めて機会があれば解説したいと思います)。
少量輸送機関・多様なモビリティ
少量輸送機関については新たな概念が続々と生まれており、上記の図では書き切れないため、下記のように少量輸送の部分を拡大してみました。
多様な移動手段・旅客輸送サービス
出典:国土交通省「地域公共交通網形成計画及び地域公共交通再編実施計画作成のための手引き入門編」に、トリセツ編集会議加筆
まず、我が国においては原則として独立採算により運行されている(行政補助により運行されている例も多くあります)既存公共交通の維持が困難な場合に、行政が主体となって運行するコミュニティバスや乗合タクシー、さらに低い需要で乗合交通と個別交通の間を埋める交通手段としてデマンド交通(予約に応じて運行する形態)があります。
また、通常のバスやタクシーは営業用車(緑ナンバー)による運行ですが、過疎地域での輸送や福祉輸送といった、住民生活に必要な輸送がバス・タクシー事業による提供が困難な場合(上図「旅客事業の壁」より下側)の代替手段として、白ナンバー(自家用車両)で運賃を収受して運行する自家用有償旅客運送事業、また道路運送法上の「許可及び登録を要しない運送」に該当する無償/ボランティア輸送があります。
一方、個別輸送である自家用車や自転車については、個々人が所有するのではなく、一台の車両を共有(シェア)する「シェアリングサービス」が登場しており、全国の都市でカーシェア事業、シェアサイクル事業が展開されています。 さらに、「グリーンスローモビリティ」(時速20km未満で公道を走ることができる4人乗り以上の電動車両)、「超小型モビリティ」(原付二輪車と軽自動車の間に位置づけされる1~2人乗りの自動車)なるものも登場しておりますが、これらについてはそれぞれ該当する記事をご覧になってください。