担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

自動運転バスの実験をしていますが、実装なかりせば返金せよ!といわれました。どうしたらよいですか?

なかなか、強烈な言葉ですね。その実証試験は本当に実装をするつもりでやっていますか?
財務省 予算執行調査
トリセツではあまり出てこない財務省の動向ですが、財務省では各省庁の予算が適切に執行されているか調査を行っています。全ての事業が対象になるわけではなく、例年4月に対象事業を公表し、6-10月に調査が行われ、調査が行われた事業は翌年度の予算要求において対応を図ることになっています。
冒頭の「実装なかりせば」というのが話題になったのは、令和7年度の予算執行調査において「自動運転社会実装推進事業」が対象となったことによります。さらに、この調査結果をもとに翌年度の予算編成等に建議を行う財政制度等審議会において「実装なかりせば一部返金を求めるといった対応を行うべき」と建議されました。

財政制度等審議会:令和8年度予算の編成等に関する建議(該当部分)
調査の概要として、高価な車両を国の補助金頼りで自動運転バスの導入をしているが、実証試験の実態として既存路線の置き換えとなっているものは少なく、走行距離も短い。また、そもそも実証試験後に実装予定がなかったり、未定としている自治体が多いと指摘され、その結果が「実装を本気で考える自治体・事業者を支援すべく、補助要件の中で実装なかりせば一部返金を求めるといった対応を行うべきではないか」という建議に繋がりました。
国土交通省の対応
これに対して、国土交通省では令和8年度の予算において以下の対応をすることとしています。
- 既存の有人路線の自動運転への置き 換えを基本的な要件とする
- 自治体等において自動運転レベル4実装計画を公表し、令和8年度以降自動運転レベル4実装計画が未達成の場合に、補助金の一部返還を求める仕組みを導入する
当初、都道府県や運輸局からの要請を受けて、実証試験を行った自治体からすると、梯子を外されるだけならまだしも、上から岩を落とされるような話かもしれません。しかし、実証試験の数を目標としたアリバイの実証試験を行い、多くの予算が溶けてなくなってしまっているのであれば、適切な考えであるともいえるでしょう。
アリバイの実証試験にしないために
このような実証試験だけで終わってしまい実装に繋がらない事業は他にも多く見受けられ、そうならないために補助要件が工夫されているものもあります。近年注目されている「交通空白」解消等リ・デザイン全面展開プロジェクトでも、実証試験後に本格運行を続けることを求めています。
これは一見当たり前のことのように思えますが、実証試験を悪意もって活用すると、不十分な実証試験を行い、利用が少ないor収支が悪いというような結果を得て、それをもってそのサービスは不要であるという意思決定するためのアリバイに使われるようなこともあり得ます。
実証試験は、本来は本格運行を行うための課題の抽出を行う場であるはずです。しかし、実証試験で何を明らかにするのかが定まっていなければ、不十分な実証試験となってしまいます。実証試験で何を明らかにするべきなのかについては「やりっぱなしの実証実験にしないためにはどうしたら良いですか?」の記事も参考ください。
「国の補助金があるから」や「隣の自治体でやっているから」「首長がやりたがっているから」という理由で実証試験をするのではなく、自らの地域に必要なものを考え、それを実装するための課題を明らかにするために実証試験を活用し、その後は覚悟をもって実施するようにしましょう。そうすれば「実装なかりせば」などという言葉は怖くありません。
参考文献
財務省:財政制度等審議会財政制度分科会
財務省:予算執行調査の概要

