巷で話題の「ライドシェア」、実は2つの種類がある!?

担当:塩士圭介(日本海コンサルタント)

巷の声
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盛んに「ライドシェア」って色んな人が叫んでいるけど、結局なんなの?

トリセツ博士
トリセツ博士

我が国における「ライドシェア」と呼ばれる輸送システムは大きく2つあり、法的位置付けも性質も異なります。用語の意味を正しく理解し、言葉だけに踊らされないように!

そもそも「ライドシェア」とは?

 海外で一般的に言われている「ライドシェア」とは、個人が自家用車を利用して他人を運ぶサービスで、スマートフォンアプリを通じて乗客とドライバーをマッチングします。タクシーより安価で柔軟な運行が特徴です。

 ドライバーが保有する自家用車を用いてタクシーのように乗客を目的地まで運ぶサービスについては、海外では「ライドヘイリング」と呼ばれる形態です。海外で「ライドシェア」と呼ばれるものは、ドライバーが移動のついでに同じ方向へ向かう利用者を便乗させるものを指します。

 有名なライドシェアのプラットフォーム(乗客とドライバーをマッチングするアプリの運営者)としては、UberやLyft、Grabなどがあります。日本人でも海外旅行に行かれた際は、スマートフォンにライドシェアのアプリを入れて、タクシーの代わりに使った方もいらっしゃると思います。運賃は国によっても違う可能性がありますが、タクシーより若干安価な場合が多く、また、予約時に運賃が確定している(タクシーの場合は到着時に運賃が確定する場合がほとんど)ため、金銭面では安心して乗車できることがメリットとされます。

 なお、ライドシェアがどの国でも普遍的に許可されているものでは必ずしもなく、認められていない国も一定数あることには留意が必要です。

日本におけるライドシェア導入の背景

 これまで、日本においてはライドシェアのように自家用車で運賃を収受して旅客を運送する行為はいわゆる「白タク」行為と呼ばれ違法とされてきました(登録された自家用有償旅客運送は除く)。自家用車のナンバープレートが白色なので、「白タク」と言われるのです。これに対し、昨今、ライドシェアの導入が巷で叫ばれるようになった背景としては、以下の点が挙げられます。

1.二種免許ドライバーの不足:我が国において、二種(普通・大型)免許の取得には技術面と取得費用面で高いハードルがあります。このことによって安全・安心な運転技術を保証してきたというメリットがありますが、昨今は二種免許ドライバーの平均年齢が高齢化しています。一方で、若年層にとっては免許取得への負担が大きいことが二種免許取得者数の減少につながっていると考えられます。

2.都市部のオーバーツーリズムなどの需要への対応:特に東京や京都など外国人観光客が多く訪れる都市においては、タクシー供給量の不足が顕在化されるようになり、予約が取れない、流しのタクシーもいない、という場面が目立つようになってきました。

3.地方・過疎部における交通空白地の存在:地方部において、バス事業者が利用者の減少及びドライバー不足により撤退を余儀なくされ、輸送力のダウンサイジング(より小さい車両での運行)が進められるようになってきましたが、一方でタクシー事業者(事業所及び従業者数の双方)も不足気味であり、自家用車を活用した運送への期待が高まるようになりました。

 こうしたことから、政府・与党内において、ライドシェア(自家用車による有償運送、いわゆる「白タク」)を解禁し、都市部及び地方部の需要への対応及び、これによる地域経済の活性化を目指す動きがでてきました。

 一方で、こうした動きに対しては、主にタクシー業界から、安全性への懸念や既存のタクシービジネスモデルの崩壊につながるとして反対の声が出ています。

日本における「ライドシェア」の制度

 上記のように、海外の一部の国で見られるライドシェアについて、日本では全面導入には慎重な対応としていましたが、2024年以降、日本におけるライドシェアが、下記のように位置付けられました。

2号ライドシェア(公共ライドシェア、自家用有償旅客運送)

 公共ライドシェアは、地方自治体や公共交通機関が関わるライドシェアで、従来より運行されている「自家用有償旅客運送」に該当します。特に公共交通空白地や高齢化地域での移動手段の確保を目的とします。利用者の移動ニーズに応じて運行され、料金は公共交通と同様に比較的安価に設定されることが多いのです。現在は、省令により「交通空白地有償運送」及び「福祉有償運送」のみが認められています。

3号ライドシェア(日本版ライドシェア、自家用車活用事業)

 日本版ライドシェアは、2024年4月からスタートし、タクシー業者の許可のもとで運営されることとなっています。海外のように民間ドライバーが自由に参加するのではなく、法人タクシー会社(及び国土交通省が認可した企業)のみが運営に参加できるのが特徴です。これにより、安全管理が徹底されることとなっています。

参考までに、2号、3号とは、道路運送法78条に示される下記の条文によるものです。78条2号に記載のある「自家用有償旅客運送」が2号ライドシェア、同条3号に記載のある「地域又は期間を限定して運送の用に供する」ものが3号ライドシェアとなります。

(有償運送)

第七十八条自家用自動車(事業用自動車以外の自動車をいう。以下同じ。)は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。

一 災害のため緊急を要するとき。

二 市町村、特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が、次条の規定により地域住民又は観光旅客その他の当該地域を来訪する者の運送その他の国土交通省令で定める旅客の運送(以下「自家用有償旅客運送」という。)を行うとき。

三 公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。

 これを見ても、正直何の違いがあるのか、よく分からないかも知れません。そこで、いくつかのポイントに絞って解説していきます。

導入エリア(導入の目的)

 2号ライドシェア(自家用有償旅客運送)は、 一般的には既存公共交通(バス・タクシー)の供給が充分になされていない地域で運用されています。例えば、タクシー事業者もほとんどいないような過疎地において、交通空白を埋める手段として公共団体、NPO等が運行することが想定されています。

 2号ライドシェア(公共ライドシェア)は、2023年度より、公的機関・NPO等と、タクシー事業者との共同運営を認めるなど、新たな制度改正がなされていますが、実質的にはこれまでも制度として存在した「自家用有償旅客運送」を新たな名称として呼称しだしたものであり、全く新しい輸送手段ではない、ということには留意してください。

出典:交通空白解消本部(国土交通省)

 3号ライドシェア(自家用車活用事業)は、都市部でオーバーツーリズムなどの影響により、既存タクシー台数では供給が不足する場合に、タクシー事業者等の管理により自家用車による運行を認めるものです。タクシー配車アプリデータ等を活用して、タクシーが不足する地域・時期・時間帯を特定し、地域の自家用車・一般ドライバーを活用して不足分を供給します。

出典:交通空白解消本部(国土交通省)

乗合の可否

 2号ライドシェア(自家用有償旅客運送)は、バスや乗合タクシーの代替としての位置づけを持ち、乗合(複数の旅客が乗り合うこと)は認められます。この制度は、交通空白地や公共交通が不十分な地域での移動手段を補完することを目的としており、地域の住民や利用者を効率的に運ぶために乗合が許可されています。自治体やNPO法人が運営主体となり、交通の利便性向上を図るための公共的なサービスとして、乗合運送サービスとして提供されます。

 3号ライドシェア(自家用車活用事業)は、乗合は原則として認められていません。我が国における制度は、基本的にタクシー会社が自家用車を使用して有償で旅客を運送する形態であり、通常のタクシー業務と同様に、1つの予約に対して1組の旅客を運ぶことが想定されています。

運賃

 2号ライドシェア(自家用有償旅客運送)の運賃については「自家用有償旅客運送者が利用者から収受する対価の取扱いについて」(国自旅第72号 令和6年 4月26日)に記載があり、「当該地域に適用されるタクシー運賃の約8割」が上限とされています(地域公共交通会議において議決がなされた場合はこの限りではありません)。ただし、自家用有償旅客運送の導入経緯として、乗合事業(バス、乗合タクシー)の代替となる地域公共交通であるという認識から、一般的に運賃はバス・乗合タクシーと同程度の、一般タクシーより相当低廉な運賃設定がされる場合が多く、運賃に関しては地域の実情に合わせた柔軟な設定がなされています。

 3号ライドシェア(自家用車活用事業)は、タクシー会社などが運営し、タクシー業務の補完として行われるため、タクシー運賃と同じ基準が適用されます。運賃の上限もタクシー業界の基準に従っており、特別な割引が設定されない限り、タクシーと同額となる場合が多いと考えられます。

まとめ:結局、2つのライドシェアは何が違うの?

 以上、やや冗長に書いてしまいましたが、下記の表に違いをまとめてみました。

項目(参考)
海外の一般的な
ライドシェア
2号ライドシェア3号ライドシェア
別名公共ライドシェア、
自家用有償旅客運送(交通空白地有償運送または福祉有償運送)
日本版ライドシェア、
自家用車活用事業
法的枠組み各国の法規制に従うが、柔軟性が高い道路運送法第78条第2号道路運送法第78条第3号
主な導入エリア(導入の目的)ユーザーの利便性向上、コスト削減など様々交通空白地や高齢化地域での移動手段の確保都市部におけるタクシー供給不足解消
サービス対象地域都市部が中心過疎地など、公共交通の提供が不十分な地域に限定都市部や観光地など、タクシーが不足する地域・時期・時間帯を特定
運行事業者個人及び民間企業等地方自治体、NPO等(タクシー事業者との共同経営も可)法人タクシー会社
乗合運送の可否基本的に不可だが、乗合の例もあり不可
運賃タクシーより低廉な場合が多い乗合バス・乗合タクシー等と同程度が多い(上限はタクシー運賃の8割)基本的にタクシーと同等
利用方法スマホアプリ(オンデマンド)定時定路線、または予約制(スマホ・電話)スマホアプリまたは電話予約(オンデマンド

 つまり、2号ライドシェア(自家用有償旅客運送)は乗合バス・乗合タクシーの代替として、3号ライドシェア(自家用車活用事業)は一般タクシーの代替としての機能を有することが分かります。

 このように、同じ「ライドシェア」という言葉を使って行われるサービスであっても、我が国では2つの仕組みがあり、目的も内容も運用上の制約も全く異なることが分かります。さらには、海外で良く言われる「ライドシェア」とはかなり性質が異なることもお気づきになるはずです。

 報道や業務上の会話で「ライドシェア」という単語が出てきた場合は、どちらのことを指すのか、明確に整理しておく必要がありそうです。

 なお、ライドシェアについては執筆時(2024年10月)現在でも様々な議論があり、上記に述べた制度や運用についても、今後更新される場合があることはご留意ください。

補遺:運転者・運行車両とライドシェアの関係

 蛇足のような形ですが、運転者(一種または二種ドライバー)と使用する車両(緑または白ナンバー)の関係を、下記の表にまとめました。(この表自体も将来変わりうる可能性がありますが、2024年10月現在の関係法令または各種事例をもとにまとめたものです。)

 最後の脚注(※)が非常にややこしいですが、タクシー事業者が持っている遊休車両を使って、一種免許ドライバーが運行する場合も「ライドシェア」と称しているようです。このあたりになると、一見ではタクシーなのかライドシェアなのか見分けがつかないですし、自家用車活用事業=ライドシェアじゃないの?という疑問もわいてきます。これからも、ライドシェア界隈では、色々な運行ケースが考えられますが、これの解説は、次の機会に譲りたいと思います。。。

参考文献