ライドシェアによって何が起きると思いますか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

ライドシェアが導入されると何が起きるのだろう?

何が起きるか考えてみました!

 ライドシェアが解禁された場合に生じると考えられることを予想してみました。当たるも八卦、当たらぬも八卦、どこまで信じるかはあなた次第。なお、ここで対象とするのは、営利目的の営業が成り立つ都市部とその周辺のことを想定しており、従来から自家用有償旅客運送が認められているような地方部は対象としません。

観光需要のある地域のタクシー会社にとっては福音

 政府の検討結果を踏まえると、都市部におけるライドシェアは、配車アプリデータなどによって、「不足地域(供給が需要に追い付かないことが多い地域、時期、時間帯)」を特定し、タクシー会社が不足分について、地域の自家用車・ドライバーを活用してタクシー事業の一環として運送サービスを提供する、という形で認められることになります。

 つまり、個人や新たな事業者によるライドシェアは認められず、タクシー会社が自家用車を用いてタクシー同等の営業をすることを認める形となるというわけです。

 タクシーは、タクシー特措法によって新規参入や増車が厳しく制限されていることから、観光などで一時的に需要が伸びても、供給力を柔軟に増やすことができないという状況にあります。ライドシェアはこの規制の範囲外ですから、観光需要のある地域のタクシー会社にとっては、タクシー特措法とは関係なく、車両とドライバーを増やすことが可能となるわけなので営業施策上、有利になると考えられます。

 単に車両を増やすことができるだけでなく、タクシー会社にとって有利なことはほかにもあります。それは営業コストを下げることができることです。

 タクシーのような旅客運送事業用車両を運転するためには、2種免許の取得が必要ですが、ライドシェアは自家用車ですので、普通の免許(1種免許)で可能です。自家用有償旅客運送の講習を受けることは必要ですが、2種免許の取得に比べれば、時間的にも費用的にも有利です。

 タクシーのような旅客事業に供される車両の車検は1年に1回ですが、自家用車の場合、初回は2年、2回目以降は3年に1回の車検です。

 また、タクシーは運賃を時間と距離に応じて算出する性質上、タクシーメーターを装備することが必要ですが、このタクシーメーターは計量法という法律に基づいて1年に1回の検査を受ける必要が義務づけられています。ライドシェアの場合、メーターによる運賃算出ではなく、アプリによる事前確定運賃制(予約時に経路と運賃が自動的に算出される)となることが決まっていますから、メーターの装備やそのメンテナンスにかかる費用は不要です。

 ライドシェアは自家用車を利用するため、運転免許の面でもドライバーにかかる負担が少ない上、車検の頻度も少なく、タクシーメーターを設置する必要がありませんから、タクシーに比べて経営のコストを下げることができると言えます。

 このことから考えると、都市部のタクシー事業者の中には、タクシー事業よりもライドシェアに軸足を移す事業者が出てくることが想定されます。すなわち、高コストのタクシー事業はほどほどにしておいて、低コストのライドシェアに力を入れることで同じサービスを低コストで実現するということです。極端には、2種免許ドライバーの確保が難しいタクシー車両はとりあえず車庫で眠らせておいて、1種免許ドライバーでのライドシェア営業にいそしむという事業者も出てくるかもしれません。

自治体にとっては福音なのか?

 ライドシェアの話題がマスコミで頻繁に取り上げられるようになって以来、各地の自治体の幹部クラスの方から「ライドシェアについてうちでも検討したい」とか「ライドシェアについてどう思われますか」というお話を受けることが増えました。皆さん、ライドシェアが地域の交通課題を解決してくれるものだと期待をしているようです。

 しかしながら、ライドシェアの恩恵を受けられるかどうかは地域によって差が出てくるのではないかと思われます。

 具体的には、恩恵を受けられる地域としては、タクシーが足りないほどの需要が集中しているような観光地や繁華街を擁する都市部が考えられます。一方で、一般タクシーも需要減で台数を減らしているような中小都市やベッドタウンでは恩恵は受けられないでしょう。

 懸念されるのは、需要が逼迫する都市部に隣接する中小都市やベッドタウンなどです。これらの地域ではタクシー不足をライドシェアによってカバーすることが望めないどころか、需要集中地域のライドシェアにタクシーのドライバーが奪われることで、タクシードライバー不足に拍車がかかり、最悪の事態としてはタクシー事業者が労務倒産する懸念すら想定されます。

駅前広場は混乱するかも

 最後に交通渋滞や交通安全上の観点からの影響に少し触れておきましょう。駅前広場には、バスプール、タクシープール、自家用車の送迎プールが設けられることが一般的で、バス・タクシープールには自家用車の進入が規制されていることが多いでしょう。

 ライドシェアは自家用車ですから、タクシープールへの進入はできず、その乗降は自家用車の送迎プールもしくは、路上の駐停車禁止区間以外で行う必要があります。このため、自家用車用の送迎プールがライドシェア車両で埋まってしまうことや、駅周辺の道路が乗降のために渋滞を起こしてしまうことが懸念されます。

 以上、ライドシェアの影響についていろいろと考えてみましたが、実際に導入されたらどうなるのか、悪い予感についてはあたらないことを祈るばかりです。