担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)
AIオンデマンドを導入して便利にしたはずなのに利用が増えません。
スマートフォンでの予約や配車の効率化など便利になるところもありますが、それにより利用者が増えるとは限りません。
AIは何をしてくれるの?
AIオンデマンドのシステムを提供している会社はいくつかありますが、共通してAIを導入するメリットとして、以下のようなことが掲げられています。
「AIにより運行ルートの最適化を行います」
これは複数の予約が入った際に、AIにより最短経路を導き出すことで効率化し、時間当たりの輸送人数を増加させたり、少ない車両台数での配車を可能とします。運行効率が上がることは収支率の改善にも繋がりますので、特に利用者が多く道も複雑な都市部では有効といえます。
しかし、利用者が少ない過疎地では、複数の予約が入ることが少なく、最短経路といってもそもそも道が一本しかないという状況であれば、AIのメリットを生かすことができません。
また、システム導入時の説明として、今まで**時間前までの電話予約が必要であったのに対して、スマートフォンからリアルタイムに予約ができるようになりますというのもあります。これを裏返して事業者側の視点からみれば、電話予約を受けてオペレーターが運転手に配車指示をするという部分を効率化できるというメリットがあります。
しかし、これは近年のAIオンデマンドシステムが導入される以前のタクシーの配車システムにも採用されている技術であり、AIが導入されて初めてできるようになったものではないというところには注意が必要です。
高齢者スマホ持ってない問題
逆に、AIオンデマンドに限らずスマートフォンを利用するサービスを導入しようとした際によく出てくるのが「高齢者はスマホを持ってない!」という指摘です。
導入しようとしている移動サービスが高齢者の利用が多いのであればもちろん考慮する必要はありますが、本当に高齢者はスマートフォンを持っていないのでしょうか?
iPhoneが日本で最初に発売された2008年からすでに15年以上が経ちました。2012年のスマートフォンの所有率は20%程度であったのに対し、2023年には80%まで増加しています。また、高齢者だけに限ってみても60歳以上で65%、70歳以上でも35%が所有しています。
年代別スマートフォンの所有率(総務省 通信利用動向調査より)
この値を見て「ほら、やっぱり」と思うか「思ってるより多い」と思うかは人によりますが、10年前の70代はスマートフォンを所有している人がほぼいなかったのに対して、現在では100倍以上の人が所有していることになります。10年前は「高齢者はスマホを持っていない」は事実でしたが、今は「意外に持っている人もいる」に変わってきたのではないかと思います。
そう考えると、高齢者はスマートフォンを持っていないので他の方法を考えるという対策ではなく、スマートフォンを持っている人には便利なサービスを提供しつつ、持っていない人や使いこなせない人への対応方法を別に考えた方がよいかもしれません。例えば電話での予約代行(入力代行)を行えば、高齢者は従来通りに電話予約ができ、事業者は効率的な予約・配車を実現できます。
また、スマートフォンを持っていても使えないということもあります。子供向けのバスの乗り方教室のように、高齢者向けのデマンド予約のやり方教室を開くというのも有効です。これは、既存の携帯キャリアが提供してるスマホ教室に相乗りするという方法もあります。
AIが利用者を生み出すわけではない
AIオンデマンドを導入して便利になったはずなのに利用が増えないという地域も見られます。これは、スマホでの予約や最適ルートによる時間短縮は「今利用している人」にとっては便利になったかもしれませんが、「今まで利用していなかった人」が使ってくれるほど便利にはなっていないからかもしれません。
AIが何をしてくれるかを正しく理解をしておかないと、AIが移動に困っている人を自動で探してくれたり、新たな移動目的を作ってくれて利用者が増えるはずと過度な期待をしてしまいます。AIができることと自分たちがやりたいことをしっかり見比べて、必要なシステムを選択するようにしましょう。
参考文献
総務省:通信利用動向調査(世帯編)