【コラム】台湾訪問記(後編)

担当:諸星賢治(合同会社MoDip)

 台湾訪問記(前編)に引き続き、ICカードを利用した取組や高雄で見てきたLRT延伸の状況などをお伝えします。

台湾における交通系ICカード

ICカードカードの種類

 台湾では公共交通での利用をメインとしたICカードは2種類あります。1つは台北で始まった「EasyCard / 悠遊カード」で、もう1つは高雄で始まったICカード「iPass / 一卡通」です。以前は地域によって利用できるICカードが異なっていましたが、今ではどちらでも台湾全土で使えるようになっています。日本に置き換えると「Suica」や「PiTaPa」が相互利用できる感覚に近いかもしれません。
 そして、日本の交通系ICカードと異なるのは形がカード型だけではなく、アニメのキャラクターなどとコラボしたものや、麻雀牌の形をしたキーホルダー型のものなどもあります。

ICカードを利用したバスの乗り方

 以前、台湾のバスに乗車する際は、バス車内にある案内を見て乗車時にタッチする場合と、乗車時と降車時にタッチする場合の2種類がありましたが、2019年7月1日から乗車時と下車時のどちらでも2タッチするルールに統一されました。
 このタッチルールは利用者にもメリットがあり、バス降車時にICカードをタッチした時間から規定時間以内に地下鉄(MRT)やLRT、シェアサイクル(YouBike)に乗り換えると割引が適用されます。この乗り換え時の割引はMRTやLRTからバスやYouBikeに乗り変えた場合にも適用されます。
 台湾では、複数の乗り物に乗り換えがしやすいよう割引制度が充実しているのが大きな特徴となります。

TPASS

 台湾には今まで台北を含む北部を中心とした「北宜MaaS」や「UMAJI」、高雄を含む南部を中心とした「MeNGo」の2種類のローカルなMaaSサービスがありました。また台北市と新北市では様々な公共交通が乗り放題になる定期券も存在していました。それが今年から政府主導で「TPASS」というブランド名で統一したサービスが開始され、今回の旅ではこのサービスを体験してきました。

TPASS記者発表の様子
台北で見かけたTPASSの告知
高雄で見かけたTPASSの告知

サービスの特徴と券種

 「TPASS」は30日間の定期券のようなサービスで観光客も利用できますが、メインは通勤や通学の住民です。利用できる移動手段は、MRT、LRT、BRT、路線バス、高速バス、鉄道(台湾鉄道)、YouBike(携帯番号の登録が必要)、フェリー(観光路線を除く)と多岐にわたり、エリア内の移動手段はタクシーを除きほぼすべて使えます。
 券種は地域ごとに分かれ、私が訪問した時は3か所で行われていました。

 そして、今年の10月より対象エリアが増え、TPASSの取組は台湾全土に広がりました。日本に置き換えると「Suica」や「PiTaPa」といった各地域のICカードに、全国統一した同じブランド名の定期券が付与できる感覚に近いと言えそうです。

利用方法

 元々台湾では日本の「交通系ICカードの全国相互利用」と同様に、1つのICカードでほぼ全ての乗り物が乗れるようになっているので、使い勝手としては今までのICカードの都度払いと大差はありません。しかし、何回乗っても料金が変わらない感覚と、間違ったバスに乗っても戻れる安心感もあり、短い区間でもバスを多用しました。また、気温が30度を超え日中の日差しが強い時間帯に目の前を高頻度で走っているバスは、とても魅力的な乗り物として目に映りました。台北市内ではバス専用レーンが多く所用時間が読める点も、バス利用が多くなった一因かと思います。
 日本だと、バスレーンは少ないですが都内等でシルバーパスでバスを多用するお年寄りの感覚に近いかもしれません。

TPASS専用エレベータ
悠遊カード

利用出来なかった乗り物

 TPASSは通勤・通学客をターゲットとした取り組みであるため、期間は30日より短い設定は無く、観光客がメインで利用するフェリー等の乗り物はサービスの対象外となっていました。(交通系ICカードで乗船料を支払える船は幾つかありました)

フェリー乗船券(紙チケット)
交通系ICカードで料金を支払えることの案内
淡水~漁人碼頭を運行するフェリー

高雄への訪問

高雄輕軌(LRT)の延伸

 高雄市には、元貨物線の区間も引き継ぎLRTで22.1kmの環状線を作る計画があります。

高雄捷運「路線図」 ※全長22.1km
https://www.krtc.com.tw/jp/Guide/guide_map

 2015年に一部区間(C1~C4)で開業し、私が高雄に初めて訪問した2016年にはC1~C8の区間が開業している状態でした。そして次に開業するC9~C11の区間は港の周辺地域にあたり、大型施設の建築が行われていて再開発真っただ中の工事現場という印象でした。また、C12~13のあたりも当時は古い倉庫街が立ち並び一部リノベーションが行われていて、観光客は多く見かけない状況でした。それが今回この地域を訪れると再開発は終わり、倉庫街のリノベーションは進み、休日にはマルシェが開催され、多くの人が町に溢れていて驚かされました。

高雄 第二芸術特区の様子

 2022年10月に開業した区間に含まれる「C23:台鐵美術館」駅周辺は木々の中をLRTが通りぬける区間があり【トトロのトンネル(龍貓隧道)】と呼ばれ、老若男女に愛される観光スポットになっていました。 

高雄市 「C23:台鐵美術館」駅周辺の様子

 そして、今年中には残りの区間(C25~C31)が一気に開業するようで急ピッチで工事が行われていました。工事のスピードは政治の影響も多分に受けるとの噂は聞いたことがありますが、作ると決めてからの行動が行政主体で早いのも、台湾の一つの特徴と言えるかもしれません。

 高雄輕軌(LRT)は2001年に計画が立ち上がってから23年をかけ今年末に全路線で開業となります。地元住民の反対を受けて計画時からルートが変更された区間もありましたが、線路の周りには木や花が植えられている区間も多く、景観に配慮した架線レス技術を採用している区間もあり、今では町の風景に溶けこみ市民や観光客の重要な足となっています。また、高雄でのLRT開業で蓄積されたノウハウは台北と隣接する新北市淡水区の淡水区市街地と淡海ニュータウンを結ぶ、淡海軽軌(LRT)の開業にも活かされています。

新北市 高雄輕軌 沙崙駅周辺の様子

さいごに

 今回台湾を訪れてみて、都市では「人を中心としたまちづくり」が一番に考えられ、その考えと調和するように移動手段が存在している事を強く感じました。また、鉄道やバス、自転車といった移動手段についても人が乗りやすいよう(乗り継ぎしやすくなるよう)な工夫が至るところでされていて、アプリや案内表示などのソフトウェア施策だけでなく、道路や駅、専用バスのりば等ハードウェア施策も行政主導で費用をかけて実施されています。
 公共交通やまちづくりにおける行政のかかわり方は、台湾は欧州に近い思想を感じます。特に都市部では民間主導で公共交通を整備してきた日本とは大きな違いを感じます。ただし、日本でも話題になるバス運転手の確保については、台湾でも桃園や台南といった都市では運転手が不足している報道もされており、日本と共通の課題もあるようです。

 今回の旅程では、高雄は台北から日帰りで訪れた事もあり滞在時間が少なかった事と、あまりの町の変貌ぶりに呆気に取られ写真を多く撮れませんでした。LRTが全線開業したらまたゆっくりと現地へ見に行きたいと思います。台北についても、まだまだ気付いていない事が多くありそうなので、現地を訪れて色々と発見してみたいと思います。
 皆さまも是非、ヨーロッパに公共交通の視察に訪れる前に週末を利用して近くの台湾を訪れてみてはいかがでしょうか?

参考資料