担当:福本雅之(合同会社萬創社)
オンデマンド交通を導入したのですが、思うほど利用が増えません。利用増のために何に取り組めば良いでしょうか?
オンデマンド交通は、利用者が増えると経費が大幅に増大する性質があることに気をつけて利用増に取り組みましょう。
オンデマンド交通にすると利用が減少した?
コミュニティバスの利用が少ないことを理由に、オンデマンド交通への置き換えを検討する例が多く見られますが、実際にオンデマンド交通に置き換えた事例を見ると、元のコミュニティバスに比べて利用者が減少しているところがほとんどです。
オンデマンド交通の導入を行う際、その利用者として想定されるのは、自家用車が利用できない高齢者であることが多いです。加齢に伴い、自宅からバス停までの歩行が困難となる高齢者が増加していることも、小回りの利くオンデマンド交通導入の意義とされることもあります。
ところが、高齢者が使いやすいと思って導入したオンデマンド交通が、想定していたほど高齢者に利用してもらえない例が後を絶ちません。
その理由としては、①電話予約をして乗るという手間が嫌われてしまうこと、②自分のために他人の乗っているバスを呼び出すことに気が引けると思う人が少なからずいること、③「オンデマンド」という名称がよくわからないので敬遠してしまうこと、などの理由が挙げられます。
特に、コミュニティバスや路線バスといった、決まった時間にバス停に行けば乗れるものから、電話予約をして乗るというように行動を変化をさせることは、高齢者にとってハードルが高いようです。このため、バスをオンデマンド交通に置き換えるような場合には、利用者に対する利用方法の周知徹底が求められますし、名称も「予約式バス」など高齢者でもわかりやすいものすることが必要です。
利用方法の周知のためには、チラシやパンフレットを作成することが一般的ですが、地域に出向いて実際に電話予約から乗車までを体験してもらうような乗車体験会を開くなどの方法をとることが効果が高いといえます。
利用があまりに増えると経費が激増
路線バスは、運行に必要な経費は大きいですが、利用者が増えても減っても、運行する路線と便数が決まってしまえばそれ以上に運行に必要な経費がかかることはありません。
一方のオンデマンド交通は、すでに入っている予約と同じ時間帯・方向への利用でないかぎり、新たな予約が入るたびに車両を配車して走らせなければなりません。このため、予約が増えれば増えるほど運行便数が増え、それにともなって運行経費が急激に増加してしまうという特性があります。
また、利用が増加した場合には、経費の面以外でも、利用者にも配車待ち時間が増えたり、配車が追いつかずに利用を断られたりするなどの不利益が生じることも想定されます。
ある程度利用が増加したときには、経費面からも利用者の利便性の面からも路線バスへの切り替えを検討することも考えた方が良いでしょう。
意外と乗り合ってくれない
オンデマンド交通は複数の利用者が乗り合うことで効率的に運行を行うことを目指すものですが、実際に導入した地域を見ますと、1便あたりの平均利用者数が1人程度にとどまっているものが多く見られます。乗合タクシーと言いながら、ほとんど貸切状態で走っているのです。個々の利用者の目的地や移動したい時間はバラバラであるので、需要が少ない地域であれば、それらが合致することの方が珍しく、結果としてオンデマンド交通が安いタクシーと化してしまっていると言えます。これではわざわざオンデマンド交通を導入するまでもなく、タクシーを割り引いて利用できる制度を導入すれば済むことになります。
オンデマンド交通を効率的に運行するためには「乗合率」を高める仕組みが必要です。そのためには、利用者の利便性を多少犠牲にすることになりますが、①運行する時刻に定めて時間的に需要を集約しやすくする、②運行する地域や方向を限定して空間的に需要を集約する、③その両方を合わせて行う、といった工夫が必要であり、多くのオンデマンド交通の事例においても、時刻や運行地域を限定しているものが多く見られます。
また、別の考え方として、利用者同士が自発的に一緒に利用しようとするために、乗り合った場合には運賃が安くなる割引制度を設けている事例もあります。
いずれにしても、地方郊外部や中山間地域などの需要が少ない地域での運行の場合には、何らかの方法で需要を集約する仕組みを設けなければ、運行が非効率になることには注意が必要です。
予約オペレーターが臨機応変な対応をすることで乗合率を高めている例もあります。
輪之内町デマンドバスの例
輪之内町デマンドバスの特徴として、1便あたり利用者数が2人程度と多いことがあげられます。他の地域のオンデマンド交通を見ると、乗合タクシーでありながらも、実際には1便あたり利用者数が1人程度であり、非効率な運用となっている例がほとんどです。輪之内町デマンドバスの場合、配車システムが導入されていることに加えて、予約を受け付けるオペレーターが、利用者への利用時間の多少の変更を提案する(先に入っている予約時間に合わせてもらえるかどうかを予約時に聞く)などの臨機応変な対応をすることで、乗合が成立する割合を高めています。このようになるべく乗合率を高めて、運行効率を高める工夫も経費を抑えながら多くの人に使ってもらうために有効です。