担当:塩士圭介(日本海コンサルタント)
担当
今年から公共交通の担当になったんだけど、そもそもデータを扱ったこともないし、何がどこにあるのかも分からないなぁ・・・ 人の動きは知りたいけど、調査をするにも費用がかかる。どうすればいい?
統計データの中には、交通・まちづくり計画に使える資料もたくさんあります。最近は行政が調査した調査データは無料でインターネットで公開され、誰でも利用出来ます。まずは、何処にどんな資料があるかを学びましょう!
はじめに
交通に関する計画を立案するときや、改善のための具体的な施策を実施するときには、現在の住民の移動ニーズを知ることがは非常に重要です。その際、計画者・実務者が現地の交通状況を「肌で感じる」ことで、何が問題なのか、何を改善すべきなのかを知ることはのに大いに役立ちます。しかし全ての移動ニーズを自分の目で見続けることはそもそも不可能ですし、担当者によって主観的な要素・バイアスが入ってしまいます。
そこで、移動に関するデータを取得、集計、分析することで、住民の移動の実態に関する「客観的な事実」を知るというプロセスが重要になってきます。
データを見ることの重要性
データを適切に分析せずに計画や施策を立案するのは、「どういうニーズがあるか良く分からないけど、意見が出たので手探り・勘で路線・ダイヤを変える」ということになりかねず、住民の移動の足を確保する姿勢としては好ましくありません。
正しくデータを取得し、分析に使うことで、下記のようなメリットが得られます。
- 自分の目で見た範囲にとどまらず、移動の全体像を継続的に知ることが出来ます。
- 言葉だけでなく数字やグラフにより、主観的な要素を排して客観的な事実を示すことが出来ます。
- 行政内部、議会や住民、交通事業者など多様なステークホルダーに対して、施策の有効性や必要性を正しく伝えることが出来ます。
交通関係で、どんなデータがあるのかを知ろう
データと一口に言っても、その種類は千差万別ですし、近年はインターネット、オープンデータ(一定の利用ルールで広く公開されたデータ)の普及によって、様々なデータが溢れています。その中から、自分の知りたい内容に合ったデータを探すのは困難を極めます。そもそも、何のデータがあるのか?ということを知らないと、探しようもありません。
そこで、ここでは交通に関係するであろう、様々なデータについて、「①地域の細かさ」と「②手に入れやすさ」の2つの視点から整理しました。
どんな「データ」がある?~①地域の細かさ~
交通・移動移動分野におけるデータは、地域性に強く依存するものですが、地域の広がりとして、どの程度の粗さ・細かさで調査しているかを気にする必要があります。具体的には、全国単位の調査から、町・丁目単位、さらに個人1人・クルマ1台レベルの調査まで、多種多様なものがあります。
地域の細かさ | 交通に関係する具体的な調査名 | 調査結果の使い道 |
全国レベル | 一般的な世論調査、白書等。例えば公共交通に関する世論調査(平成28年内閣府) | 全国レベルで交通機関に関する市民意識を聞くもの等がありますが、交通分野で使えるデータは多くありません。 |
都道府県レベル | 都道府県が発行する統計書等、地域旅客流動調査、全国幹線旅客純流動調査、国勢調査等の国の基幹統計、パーソントリップ調査等 | 都道府県単位の主な交通機関別・駅別利用者数の推移は統計書に掲載されています。また、国が実施する旅客流動調査では航空、新幹線などの長距離交通の実態を調べることが出来ます。 |
市町村レベル | 市町村が発行する統計書等、国勢調査、パーソントリップ調査等、多数 | 市町村別の交通機関、駅別利用者数などは統計書等で把握可能(公開範囲は市町村ごとに異なります)。また、国勢調査では通勤・通学先を調査しているため、市町村単位での通勤通学の移動動向を知ることが出来ます。(下の図1参照) |
町字レベル、メッシュレベル(1km~500mレベル) | 国勢調査小地域集計(H22年)(H27年)(人口、交通手段等)、経済センサス町丁・大字別集計(H26年)(事業所数、従業者数)、携帯基地局移動データ | 国勢調査や経済センサスでは、町・丁目レベルでの人口や通勤・通学者数を知ることが出来ます(国勢調査では「小地域集計」といいます)。また、国勢調査では10年に一度、町字レベルで通勤通学時の交通手段を知ることができます。 |
1人・1台レベル | (交通系ICカードログ、携帯基地局移動データ、WiFiパケットセンサーデータ、ETC2.0データ等) | 人やクルマの移動履歴を蓄積した「ビッグデータ」などです。集計する場合は、個人を特定できないよう秘匿処理を行う必要があります。 |
どんな「データ」がある?~②手に入れやすさ~
昨今は行政機関が保有する調査結果や各種統計のオープン化が進められており、インターネットで簡単に手に入れられるデータが増えてきています。下の表は、上から「手に入れやすい順」に並べており、下に行くほど入手が難しい部類に入ります。
主な統計調査 データ | 入手方法等 |
各都道府県、市町村の統計書 | 都道府県及び市町村の「統計データ」のホームページから容易にたどり着くことが出来ます。 |
国(各省庁)の白書、統計調査、世論調査結果 | 各省庁のホームページで「統計情報(例:国土交通省交通関連統計情報)」が公開されています。 |
国勢調査等の政府統計(e-Stat)、地理院地図、国土数値情報などの地図情報 | 行政機関の保有するデータ(統計データ、地図データ)のオープン化が進められていて、誰でも無償でダウンロード、加工して使用できるようになっています。 |
パーソントリップ調査、大都市交通センサス等の交通関連調査 | パーソントリップ調査は地域によってはホームページで公開されています(東京都市圏、中京都市圏、近畿圏)が、一部詳細な分析データについては、調査機関への申請が必要なものもあります。 |
ビッグデータ(交通系ICカード、カーナビ、経路検索のログデータ等) | ビッグデータはデータ量及び個人情報・企業情報保護の観点から一般的には公開されにくいですが、下記のように、ビッグデータを交通計画に活用しようとする動きがすすめられています。参考:総合都市交通体系調査におけるビッグデータ活用の手引き(平成30年6月) |
データと「肌感覚」と合っているか?
本項の冒頭で、計画者・実務者が現地の交通状況を「肌で感じる」ことの重要性を述べました。データで客観的な事実を示すことは重要ですが、数字データ「だけ」に過度に判断を依存しすぎると、逆に「肌感覚」と合わずに違和感のある集計ができあがる、ということも稀に生じます。
何となくでも良いので、日頃の交通を見ながら「○○市方面からの流入が多いのかも・・・?」「A地区はB地区よりもバスの利用率が少ないかも・・・?」という気づきを現場から得るように心がけることが大事です。その「気づき」を客観的に裏付けるために「データ」を使った分析を行うと、有益な考察が導き出されます。時には意外なデータが得られる時もありますが、その結果が納得出来るものかどうかは、現場を知っている人でないと判断できないものです。
少なくとも、データを見さえすれば現場を見なくて良い、というものでは決してありませんので、「客観的なデータ」と「現場の肌感覚」を上手くバランスを取りながら、評価、分析を進める姿勢が求められます。