担当:塩士圭介((株)日本海コンサルタント)
はじめに
2024年5月15日に公開した記事「能登半島地震・その後の公共交通の復旧・復興の動き」では、令和6年能登半島地震発生直後の混乱から、応急的な代替交通の確保までの動きを紹介しました。本稿執筆(2026年1月)において、令和6年能登半島地震から2年が経過し、能登地域のまちづくりは応急対応から本格的な復興・再構築のフェーズへと移行しています。
本記事では、能登半島における公共交通の復興・再構築に向けた行政の取組について、その最新動向を紹介します。もとより人口減少傾向と急速な少子高齢化が続いていた能登半島地域において、能登半島地震による被害は、こうした人口動態の変化をさらに加速させるとも言われる中、関係者の広域連携で、能登地域における復興の基盤となる公共交通の持続的確保策について紹介したいと思います。
石川県能登地域公共交通計画の概要
2024年7月、能登地域11市町を対象とした広域的な公共交通協議会が設立されました。これは、石川県・関係市町及び関係機関等で構成される、(通称)地域交通法に基づく法定協議会であり、震災からの復興を見据えた交通体系の再構築を目指すものです。

能登半島地震により大きな被害をもたらした公共交通網を早期に再建するとともに、人口減少傾向が続く中でも住民の定住や交流を支えるために必要な移動手段の確保に向けて、能登地域公共交通計画の策定を進めているところです。他の自治体などの地域公共交通計画と比較した本計画の主な特徴として、2段階に分けて計画を策定しており、その内容は以下のとおりです。
- 第一次計画(2025年3月策定済み):幹線交通(鉄道・基幹バス路線)の運行確保・継続と機能強化
- のと鉄道の鉄道事業再構築及び能登方面特急バスの再編利便増進事業が主な柱
- 第二次計画:生活交通(一般路線バス、コミュニティバス等)の維持・確保
- 通学交通の確保による地域の持続可能性の維持
- 広域連携による効率的・効果的な交通サービスの提供


まず「幹線交通をしっかり守る!」
能登地域の公共交通再生において、まず重要なのが幹線交通の復旧です。県庁所在地の金沢市から能登半島先端部の珠洲市までは、マイカーでも2時間半を要する、南北に長く大きな半島であるが故に、県庁所在地と各市町をむすぶ幹線交通の持続的復興は復興の前提となるものです。まず幹線交通が屋台骨・大動脈として南北間の移動を支えることで、その先に繋がる地域内交通へのネットワークが機能します。
具体的には、のと鉄道(第三セクター)の経営持続性を高めるための鉄道事業再構築の取組(インフラの修繕、新型車両の導入など)、及び金沢と能登地域を結ぶ特急バスの再編(震災後減便を余儀なくされていた運行本数を一部増便し、途中経路にある「のと里山空港」をハブとしたネットワークに再編)を位置付けました。


市町をまたぐ移動を鉄道+路線バスで確保し、定住を下支え!
能登地域の公共交通再構築において、特に重視されているのが高校生の通学交通の確保です。
能登地域では、震災前から多くの高校生が市町の境界を越えて通学しています。これらの通学には、市町をまたぐ鉄道や路線バスが不可欠です。あわせて、移動手段のない、または運転免許証を返納した高齢者にとって、病院や買い物に必要な公共交通を確保することも重要です。
能登地域公共交通計画では、こうした市町をまたぐ路線など定時定路線の公共交通については広域的に支援する方針を示しています。これは地域の持続可能性を交通政策の観点から支えようとする取組といえます。

AIオンデマンド交通システムの導入検討
能登地域の公共交通再構築における注目すべき取組が、複数市町の連携によるAIオンデマンド交通システムの導入検討です。
能登地域では震災前から、路線バスの利用者減少と運転手不足が深刻化していましたが、震災により、この課題がさらに顕在化しました。固定ルート・固定時刻の路線バスだけでは、散在する集落の住民の多様な移動ニーズに対応しきれません。
一方で、各市町が個別に対応していては、システムの導入コストが高く、運営効率も悪くなります。そこで浮上したのが、複数市町が共同でAIオンデマンド交通システムを導入し、広域で一体的に運営する構想です。
令和7年度より、国土交通省が進めている「交通空白」解消パイロット・プロジェクトとして、能登地域2市2町で共通のAIデマンドシステムを導入することが検討されています。利用者がスマートフォンアプリや電話で乗車を予約すると、AIが最適なルートと配車を決定し、複数の利用者を効率的に輸送するものです。市町の境界を越えた利用も将来的に可能とし、医療機関や商業施設、公共施設などへのアクセスを向上させることを目指しています。

公共交通の広域運営に向けて
本計画の特徴は、県及び市町が連携して、市町の枠を超えた広域連携の枠組みを構築している点です。従来、公共交通は各市町が個別に対応することが多かったのですが、人口減少下では単独市町での対応には限界があります。そこで能登地域公共交通協議会が設置され、県・市町及び関係機関が協議する場を設けました。この協議会では、幹線交通の復旧方針、市町をまたぐ路線の調整、新たな交通システムの導入検討などが行われています。
この広域連携の仕組みをさらに進め、市町それぞれで行っている公共交通に関する事務を、広域的な組織で一体的に議論・検討・運営を行う案が検討されています。例えば公共交通の利用促進や情報提供など、複数市町で一体になって取り組むことで、個々の行政職員の負担軽減と一体的な公共交通事業の推進が期待されます。これについても、今後実務的な検討が進むと期待されます。

(令和7年3月25日、北陸信越運輸局「能登地域の公共交通を考えるシンポジウム」)
提言:能登の取組が示す地域公共交通の未来
能登半島地震からの公共交通復興の取組は、全国の過疎地域が抱える交通課題への示唆に富んでいます。筆者としての私見ですが、以下の点を全国の地方における公共交通政策に提言したいと思います。
第一に、「幹線交通」の持続性が最優先です。 鉄道や基幹的なバス路線という幹線がしっかりしていなければ、そこから枝分かれする生活交通の確保もおぼつきません。能登地域公共交通計画が幹線交通の早期復旧を第一次計画において先行して掲げていることからも示唆されるように、地域全体の交通ネットワークは、幹線という「背骨」があって初めて成り立ちます。
第二に、高校生の通学交通の確保は地域の未来を左右します。 市町をまたぐ路線バスをしっかり守ることが、若者・子育て世代の定住を支えます。高校生が通学できない地域はすなわち地域の衰退を意味します。通学交通の確保は、短期的なコストではなく、長期的な地域への投資として捉えるべきです。
第三に、人口減少下では広域連携が不可欠です。 単独市町での対応には財政的にも人材的にも限界があります。能登地域のように関係自治体による広域連携の枠組みを構築し、協力して取り組むべきことは手を繋いで進める姿勢が重要です。
第四に、能登地域の交通空白解消プロジェクトは全国のモデルとなりえます。 複数市町が連携して共通のデマンド交通システムを導入し、広域運営体制を構築する取組は、全国の過疎自治体が注目すべき先進事例です。震災という困難を契機として、従来の枠組みを超えた新たな交通システムを構築しようとする能登地域の挑戦は、今後の地域公共交通政策のあり方に重要な示唆を与えるでしょう。
能登半島の公共交通復興は、まだ道半ばです。しかし、ここで試みられている広域連携やAIオンデマンド交通の導入は、人口減少社会における地域公共交通の一つの解答となる可能性を秘めています。これからはじまる能登地域の公共交通構築の取組から、他地域で同様の人口減少下における地域公共交通政策検討のヒントの一つになれば幸いです。
参考資料
- 石川県「石川県能登地域公共交通計画(第一次計画)」2025年3月
- 石川県「令和6年度第3回地域公共交通協議会資料」
- 石川県「令和7年度第1回地域公共交通協議会資料」
- 国土交通省北陸信越運輸局「能登地域における地域公共交通の復興対応手法・移動モデルの構築に関する調査報告」

