時間帯別の交通空白地域を把握していますか?

担当:諸星賢治(合同会社MoDip)

時間帯別の交通空白地域を把握したいのですが良い方法はありますか?

GTFSデータとQGISがあれば時間帯別の運行頻度図を簡単に作成できますよ。

はじめに

 各地で広がる鉄道やバス路線の減便や廃止問題や、2024年7月に国土交通省に設置された交通空白解消本部などのニュースも有り、公共交通空白地域に関する関心が高まっています。しかしコチラの記事でも解説されているように、公共交通空白地域は本来、駅やバス停が一定の距離の範囲内にない地域のことを指しますが、この「一定の距離」については国として統一した基準は無く、各地域で提供したい公共交通のサービスレベルを考慮して検討する必要があり、各自治体の計画策定時には様々な値が用いられているのが現状です。
 また、交通空白地域を算出する際、公共交通のダイヤや運行本数といった要素は考慮されません。鉄道やバスが1日1便でも運行されている地域は「公共交通が運行されている地域」と判別され、朝の時間帯にバスが1本だけ運行され、日中の時間帯に住民や来訪者が公共交通を利用して移動できない地域であっても、交通空白地域とはなりません。
 本来、公共交通のサービスレベルを把握するためには、住民や来訪者が移動する機会に直結する公共交通の運行本数や、移動ニーズに合った時間帯の交通空白地域を把握する事が必要ではないでしょうか。
 今回の記事では、以前の記事でGTFSデータを用いて公共交通の運行本数を可視化する方法を解説しましたので、その応用編としてGTFSデータを用いて時間帯別の公共交通空白地域を可視化する方法について解説をしたいと思います。 

利用するデータとツールについて

 まずは、交通空白地域を可視化したい地域で運行する鉄道やバスのGTFSデータを用意してください。今回の記事では例として、サービスレベルを改善し利用者が増えた事で話題の鶴岡市内循環バスを運行する庄内交通のオープンデータを用いて解説いたします。実際に自分たちの地域で交通空白地域を可視化する場合には、地域を運行する全てのバスと鉄道のデータも併せて準備する必要がある点にご注意ください。
 利用するツールは以前の記事で操作方法を解説したQGISおよび、GTFS-GOとなります。GTFS-GOは必ず最新のバージョン(この記事が公開された時点のGTFS-GOの最新バージョン 4.0)をお使いください。なお、GTFS-GOの最新バージョンを動作させるためには、QGISも対応したバージョンにアップデートが必要なため、QGISのバージョンについてもご確認ください(この記事が公開された時点では、GTFS-GOバージョン 4.0を動作させためるには、QGISのバージョンが3.28~3.99である必要がなります)。
 確認方法は、手元のPCにてQGISを起動し、上部メニューの[プラグイン]を選択後、「GTFS-GO」を選択するとGTFS-GOのバージョンを確認できます。また、黄色い警告文が表示される場合にはQGISの対応バージョンのインストールが必要となります。

QGISの[プラグイン]メニューを表示

手順1:GTFS-GOを使い特定の時間帯に運行する路線を可視化する

  1. QGISの[Web]メニューより「GTFS-GO」を選択し起動させてください。
GTFS-GOの起動方法
  1. コチラの記事で紹介した運行頻度図を作成する時とほぼ同じ手順となりますが、以下の点に気を付けて利用を行ってください。
    ①「運行頻度を集計」にチェックを入れる。
    ②可視化したい運行日付および時間帯を指定する。
     →今回は、19時〜深夜1時まで運行されるバス路線を可視化してみます。
    ③「stopの大きさで頻度を表す」 にチェックを入れる。
    ④出力先フォルダは、出力する度に異なるフォルダ名を指定する方法をお勧めします。
     →今回は、”鶴岡駅周辺_19時以降”というフォルダを作成しました。
    ※同じGTFSファイルをGTFS-GOで複数回読み込む時に出力フォルダ名が同じ場合には、前回の出力結果が上書きされてしまうため。
GTFS-GOの設定画面

  ⑤指定した条件の運行頻度図が表示されます。

鶴岡市内中心部:平日19時以降のバス路線運行頻度図

時間帯指定をせずにGTFS-GOを使い作成した以下の運行頻度図と見比べると、昼夜間でのバスのサービスレベルの差はこの時点で明確です。

鶴岡市内中心部:平日全時間帯のバス路線運行頻度図

手順2:QGISの機能を使い、特定の時間帯に公共交通が運行している駅やバス停を抽出する

 上記の手順では時間帯別の運行頻度図の作成を行いました。この状態でも時間帯別のバスの運行状況は十分把握できるかと思いますが、「交通空白地域」という概念にこだわると、駅勢圏やバス停勢圏と呼ばれる、駅や停留所の周りに任意の距離で円を書く事が一般的なため、その手順についても解説をいたします。

  1. QGIS画面左下に表示されるレイヤパネルの「● aggregated_stops」を右クリックして、「属性テーブルを開く」を選択し属性テーブルを表示します。
属性テーブルを開く
  1. 画面上部のアイコンから「式による地物選択」を選択します。
式による地物選択
  1. 表示されるウィンドウの左側空白部分に『”count” >0』と式を入力し、右下にある「地物を選択」を選択します。
    (運行本数が1本以上ある停留所が選択された状態になります)
地物を選択する条件の指定
  1. QGISのメイン画面に戻り、手順1と同様に「● aggregated_stops」を右クリックし、今回の手順では「エクスポート」→「新規ファイルに地物を保存」の順に選択をします。
「新規ファイルに地物を保存」の選択手順
  1. 保存条件を指定する画面が表示されたら、以下の手順で作業を進めます。
    ①形式は「ESRI Shapefile」を選択します。
    ②ファイル名は任意の文字列で構いませんが、
     今後同様の作業を行った時と重複しない分かりやすい名称を付けましょう。
    ③CRSは以下のものを選択します。
     ・EPSG:6680-JGD2011 / Japan Plane Rectangular CS XⅡ」
    ※この選択肢が表示されない場合には、「JGD2011 / Japan Plane Rectangular CS」という文字列が含まれるものを選択します。
    ※CRSについて詳しい解説を見たい方はコチラを参考にしてください。
    ④文字コードは「Shift-JIS」を選択します。
    ⑤「選択地物のみ保存」にチェックを入れます。
    ⑥「保存されたファイルを地図に追加する」にチェックを入れます。
    ⑦「OK」ボタンを押して、レイヤを出力します。
停留所レイヤの保存条件

手順3:抽出した駅やバス停の周りに円を描く

  1. QGIS画面左下に表示されるレイヤパネルの中から手順2で作られたレイヤを選択した状態で、画面上部のメニューから「ベクタ」→「空間演算ツール」→「バッファ」を選択します。
対象レイヤの選択
「バッファ」の選択手順
  1. バッファの画面が表示されたら、以下の設定を行い、バスや停留所の周辺に円を描きます。
    ①距離は、駅やバス停の周りに描きたい円の半径を指定します。
     →今回は、500(m)を指定します。
    ※入力する値に定まったものはありません。国土交通省「地域公共交通づくりハンドブック」では、“交通機関が充実している都市では、駅からは半径500m以上、バス停から半径300m以上が空白地域”、“地方では、駅から半径1000m以上、バス停から半径500m以上を空白地域”とされていますが、資料により定義や数値が異なります。
    ②「メートル」を選択します
    ③セグメントに数値を入力します。
    ※値が大きいほど滑らかな円が描けます。例では30と入力していますが、他の数値でも構いません。
    ④「結果を融合する」にチェックを入れる。
    ⑤「実行」をクリックします。
バッファ出力時の条件指定
  1. バス停を中心とした半径500mの円が描かれます。
鶴岡市内中心部:平日19時以降のバス停勢圏
  1. QGIS上で見やすいように設定を変更します。今回の記事では以下の変更を行いました。
    • 透明度を50%に設定
    • レイヤの順序を変更
    • 縮小して広域を表示
鶴岡市内全域:平日19時以降のバス停勢圏
  1. 描画した図に、人口メッシュデータを重ねます。
    ※人口メッシュデータを表示する方法はコチラの記事などを参考にしてください。
鶴岡市内全域:平日19時以降のバス停勢圏と人口メッシュ

バスが運行されていない地域=交通空白地域か?

 今回の記事では、GTFSデータとQGISなどを使い、時間帯別の交通空白地域の可視化を行ってみましたが、実際に現地で19時以降に自家用車以外での移動ができない訳ではありません。その理由は、前述の図では鉄道やタクシーのカバー範囲、シェアモビリティと呼ばれる自転車やキックボードでの移動範囲が考慮されていないからです。
 タクシーについては、2024年4月に国土交通省から行われた通達「地域公共交通会議に関する国土交通省としての考え方について」では、“少なくともタクシーが恒常的に30分以内に配車されない地域は交通空白地に該当する”との見解が示されました。「タクシーが30分以内に配車できる区域」を厳密に可視化するためには、周辺自治体も含めたタクシーの営業所位置や営業時間、タクシー待機場所、そして道路を使った移動時間や周辺道路の渋滞状況などを考慮する必要があり、それらの要素を可視化するためには調査と可視化の技術が必要です。
 厳密な方法で可視化するには少し手間がかかってしまうため、この記事の最後として鶴岡市周辺で営業しているタクシー会社のカバー範囲を簡易的な方法で可視化し前述の図に重ね合わせてみます。タクシーの営業所位置は、Google マップで調べられるものを採用し、配車可能な30分以内の範囲は、時速30km/hで移動可能な範囲(15km以内)としました。

鶴岡市内全域:平日19時以降のバス停勢圏とタクシーのカバーエリア

 図を見ると一目でわかりますが、タクシーで30分以内に移動可能なバスに比べて範囲がとても広く、鶴岡市内においても、山間部の一部地域を除いてほぼ全ての地域がカバーできます。したがって地域にバスが運行されていない時間帯でも、タクシーが運行されていれば自家用車以外での移動が可能という事もなります。

さいごに

 この地域で19時以降に新しい乗り物を取り入れる必要はあると思いますか?
今回の記事では「需要」と「供給量」といった観点に触れていないので、それらの要素を考慮する必要はありますが、少なくとも地域で鉄道やバスが運行されていないからと言って、タクシーの運行実態を考慮せず、すぐにライドシェアやオンデマンド交通が必要という判断をするのは時期尚早かと思います。また、1日に1便の鉄道やバスが運行されているだけで、その地域を交通空白地域から除外するのも危険な判断です。
 地域における交通空白地域を把握する際には、鉄道やバスが運行されている時間帯や、タクシー等の乗り物についても是非考慮をお願いいたします。

参考資料

アイ・エフ・ディー株式会社「【商圏分析】QGISのバッファ機能を使って円商圏を出してみた-後編- < 社員のつぶやき>」

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