公共交通に関する財政負担は少なければ少ないほど良いですか?

担当:福本雅之(合同会社萬創社)

公的負担は税金が原資なんだから少ない方が良いでしょう?

金額の多い少ないだけでなく、その帰着先を考えてみましょう

財政負担軽減とオンデマンド交通の増加

 ごく一部の地域を除いて、地域公共交通施策を実施している多くの自治体では、財政負担は避けて通れない問題でしょう。

 民間鉄道・バス事業者の赤字補填、コミュニティバスやオンデマンド交通の運行、さまざまな利用促進策の実施、協議会の開催や運営など、何をしようとしても財政負担はつきまといます。

 人口が増加し、経済も右肩上がりであった時代であれば、少々の財政負担は問題にならなかったのでしょうが、現代においては自治体の財政状況も苦しく、少しでも財政負担を減らそうと努力しており、公共交通施策も例外たり得ません。

 こうした財政負担縮小の圧力が働く中で多く見られるのが、「空気を運ぶバスは無駄なので、利用者がいるときだけ運行するオンデマンド交通へ切り替えよう」という動きです。

 ただし、オンデマンド交通が必ずしも運行経費を抑えるものではないということはこちらの記事でも述べたとおりです。

 ここでは、オンデマンド交通の配車オペレーター人件費を例にして財政負担軽減策の是非を考えてみたいと思います。

配車オペレーターの人件費問題

 オンデマンド交通は、利用者から予約を受け付けて配車をするという性質上、予約受付と配車指示を行う機能が必須です。従来、こうした機能は人の力で行われてきました。つまり、電話を受けて配車指示を出す配車オペレーターを配置していたわけです。

 先にも述べたように、オンデマンド交通の導入が運行経費抑制策になり得ない大きな理由がこの配車オペレーターであり、利用があろうとなかろうと配置しなければならない上、コミュニティバスの運行では必要のない人件費が増加することになるため、コミュニティバスよりもオンデマンド交通が高コストとなる訳です。

 そこで最近登場してきたのが「アプリ配車」や「AI配車」と呼ばれるもので、利用者がスマートフォンのアプリから予約をすることで、コンピューターが自動的に配車指示を与える仕組みです。これによって配車オペレーターを廃することができ、その分の人件費が抑えられるということです。

 しかしこの配車システムもタダで使うわけにはいかず、システム利用料を支払う必要があります。利用料はベンダーによって異なりますが、それでも配車オペレーターを雇うよりは安いとして導入する例も増加しつつあります。

配車システム利用料はコスパが良いか?

 配車システム利用料がオペレーターの人件費より安ければ、オンデマンド交通の運行にかかる財政負担は抑えられることになります。現実には、配車はシステムで行うことができても、スマホを使えない高齢者の利用が多いことから、予約受付にはオペレーターを配置せざるを得ないという地域も多いわけですが、事情が許せばシステム導入によって人件費を削りたいという自治体も多いでしょう。実際に、電話での予約受付もシステムで対応するために、AI音声認識を使った予約受付機能を配車システムに追加するという例も見られます。

 ここで少し立ち止まって考えたいのは、配車システム利用料とオペレーター人件費のどちらが費用対効果の観点から優れているのか、つまり「コスパが良いか」ということです。

 「そんなの安い方に決まってるだろう」と思うかもしれませんが、それは支払う費用という一面的な見方しかしていないのではないでしょうか。

 配車システムの利用料は誰に払うのでしょうか? 多くの場合、地域外(場合によっては国外)のシステムベンダーに支払っているでしょう。ということは、払ったお金は地域の外に流出していることになり、地域内の富を減らすことになってしまいます。

 一方、「コスパが悪そう」なオペレーター人件費は、地域内に居住する人を雇って支払っている場合がほとんどでしょう。ということは、払ったお金は地域の中の経済循環に戻ってくることになります。

 配車システム利用料は「正味のコスト」としか言えませんが、オペレーターの人件費はコストである一方で、地域内の雇用を生み出し経済循環の一助となる「投資」の側面を持つことが見えてきます。であるとするならば、その費用がシステム利用料より少しくらい高いとしても、むしろ「人と地域への投資」と捉えることもできます。一見コストにしか見えないものでも、見方を変えてその帰着先をしっかりと見ることで「ただのコスト」なのか、地域のための「投資」の側面を持つのかが変わってくるということです。

 誤解をいただきたくないのは、「配車システムをやめて全部人力で配車しろ」という原理主義的な主張をしたいということではありません。利用が多いと配車指示が複雑になるため配車システムがなければ効率的な配車はできなくなりますし、複雑な配車に手間を取られて予約受付ができなくなるというようなことがあっては元も子もありません。実際に、配車はシステムに任せる一方、オペレーターが電話予約の受付にきめ細かな配慮をすることで利用者の利便性を高めている事例もあります。

 今回はオンデマンド交通を例にしましたが、コミュニティバスの委託先を地域外の事業者にすべきか、地域内の事業者にすべきかということや、アンケートなどの調査を東京のコンサルタント会社に頼むのか、県内のコンサルタント会社に頼むのか、というように、他の業務についても同じことが言えます。

 「安物買いの銭失い」という言葉があります。財政負担は税金が原資なのですから、財政負担をする際には、単に安いかどうかだけでなく、その帰着先や地域の富までよく考えて選択をすべきです。ただし、地域内だからと言って、適切な能力のない業者を選定してしまっては意味がありませんので、この点については注意しましょう。