担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)
これから高齢化率が上昇していくので、コミュニティバスの利用者数も増えるはず!
高齢化率が上昇することは間違いありませんが、必ずしも高齢者数が増えるとは限りません。
高齢化率と高齢者数の現状
人口減少や高齢化の進展は、日本全体の問題であることは疑う余地はありません。しかし、その数字をしっかり見直して見ると思っているのとは少し違うかもしれません。
下図(左:日本全体、右:町村のみを抽出)に示すのは、これからの人口と高齢化率の予測を示したものです。この先、人口は減り続け、高齢化率が上昇して行くことは共通しており、特に人口規模の小さい町村では人口減少・高齢化の進展共に急速に進むことが予想されています。
ここまではイメージ通りだと思いますが、高齢化「率」ではなく高齢者「数」に着目してみると、日本全体では2020年に3600万人だったものが2050年には3888万人にまで増加します。しかし、町村のみの集計で見ると353万人から306万人まで減少することになります。つまり、高齢化率は上昇するけれど、それ以上に人口減少の進みが早いため、高齢者「数」は減っていくことが分かります。また、日本全体でも高齢者数が増えるのは2045年までで、それ以降は減少すると予測されています。
すると、高齢化率が上昇して移動に困る人の割合は増えるかもしれませんが、数そのものは減っていくので、高齢化が進展すればコミュニティバスの利用者が増えるとは限らないことになります。
もちろん自治体によって傾向は異なりますので、国立社会保障・人口問題研究所で公開されている日本の地域別将来推計人口を参考に、自分の地域の傾向を把握してください。
人口と高齢化率の予測(左:日本全体、右:町村のみを抽出)
(国立社会保障・人口問題研究所:日本の地域別将来推計人口)
運転免許の保有率
次に、運転免許の保有率を年代別・男女別に見てみると、高齢者になるほど免許の保有率が減少し、特に女性の運転免許の保有率が低くなっています。つまり、現時点では高齢者(特に女性)に移動に困っている人が多いというのは事実です。
しかし、現役世代の運転免許の保有率は高く、男女差も縮まっています。高齢者も世代交代していきますので、高齢者の運転免許の保有率は10年後、20年後には高くなることになります。
年代別・男女別の運転免許保有数(警察庁:運転免許統計)
これを、人口と高齢化率のグラフと組み合わせてみると、前述のように高齢化率は上昇し、高齢者数は微増から減少に転換しますが、運転免許を持っていない高齢者の数はおおよそ半分になることが分かります。
運転免許の返納が進めばという考えもありますが、高齢者の運転免許の返納率は、コロナの影響もあり直近では減少傾向にあり、最も多かった2019年でも3%程度です。そして、このグラフはそれを考慮した上で作成したものです。
このことから、移動に困る高齢者数は減少していくということが考えられるわけです。
高齢者の運転免許保有数の予測(人口推計・免許統計より作成)
運転免許を持っているからといって困っていないとは限らない
しかし、ここで忘れてはいけないのは、運転免許を持っていても移動に困っている人もいるということです。
若いころに運転免許を取って、その後身分証明書としては使っていたけれど、長年運転していないペーパードライバーのまま高齢者になってしまった人がいます。
逆に、毎日運転をしているけれど、ホントは運転をしたくない人もいます。例えば、年を取ってだんだん運転に自信が無くなってきたけれど、公共交通機関がないため、自分で運転をしなければ買物や病院に行けなくなってしまうような人です。このような人たちはホントは免許を返納したいけれど、仕方なく運転をしている人かもしれません。
計画策定などを進める際に、地域の移動の困り具合を把握するための調査を行うことがあります。高齢化率や運転免許の保有率などの数字だけ見ると、困っていない人に分類をされてしまった人であっても、個別にインタビューをしてみたら実は困っていたというようなこともよくあることです。
表面的に判断するのではなく、地域の状況を深掘りできるような調査をすることを心がけましょう。
参考文献
国立社会保障・人口問題研究所:日本の地域別将来推計人口
警察庁:運転免許統計