公共交通が健康に良いってどういうこと?

担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)

行政
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公共交通が観光や環境と関係しているのは分かるけど、健康にも良いってどういうことだろう?

天の声
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公共交通そのものが健康に良いわけでなく、公共交通があることで外出が促進されたり、移動した先で様々な活動をすることが健康に良いと考えられています。

地域公共交通活性化再生法や地域公共交通計画での位置付け

 公共交通と健康の関係性は、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(2020年11月改正)」(略称、活性化再生法)に基づく、地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針(平成26年総務省告示・国土交通省告示第1号)における地域社会全体の価値向上の中で以下のように触れられています。

まちのにぎわいの創出、歩いて暮らせるまちづくりによる健康増進といった観点から、居心地が良く歩きたくなるまちなかづくりとも連携し・・・(中略)・・・また、地域公共交通の利用促進による外出機会の増加は、地域住民の健康増進に寄与するとともに、将来にわたる医療・介護分野における公的負担の軽減につながることも期待される

地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針

 また、地域公共交通計画の策定においても、連携する分野として観光や環境と同様に健康・福祉の分野が取り上げられています。さらに、公共交通が維持されることによるクロスセクター効果の一つして「高齢者の外出機会が増えることによって、高齢者の健康増進や就労機会が増加し、そのために医療費や社会保障費が削減され、むしろ社会全体としての費用負担が下がる可能性」と指摘されています。

 このように公共交通と健康の関係性は、単純に健康に良いという観点だけでなく、地域の人々が健康になることによる地域全体に与える効果として捉えられています。

具体的にどれぐらい健康に良いの?

 次に、なぜ公共交通があると健康に良いのか考えてみましょう。活性化再生法や地域公共交通計画でも「歩いて暮らせるまちづくり」がキーワードになっているので、どうやら「歩く」ことが健康に繋がっているようです。一般的にも「健康のために歩こう」と言われていますが、具体的にどれぐらい歩くと効果があるかということについては、「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドライン(ページ下段)」などで調査が行われています。

 このガイドラインでは、歩くことで健康増進が成された結果の医療費の削減効果として0.065~0.072円/歩/日という値が示されています。この数字だけを見てしまうととても小さな効果にように思えますが、公共交通があることよる徒歩の増加は駅やバス停までの往復ということだけなく、これまで外出を控えていた人が出かけるようになり、移動した先でも活動するようになるため、そういったものまで積み上げた効果としては、とても大きなものとなります。

 しかし、ここで誤解してはいけないのが、「歩くことだけ」で健康になっているわけではないところです。普段の健康のために歩いている人は、他にも意識的に健康に良いことをしている場合が多いでしょうし、意識をしていなくても歩いて移動した先での活動が健康に良いことに繋がっていることもあるでしょう。

身体活動と健康の関係

 歩いて移動した先での活動の影響を示唆するものとして、東京大学が柏市で行ったフレイル予防に関する悉皆調査が参考になります。この調査は、対象となる高齢者が行っている活動を身体活動、文化活動、地域活動に分類し、それぞれの活動の有無とフレイルに対するリスクについて調査したものです。

図1 各種活動のフレイルに対するリスク

(吉澤裕世, 田中友規, 高橋競, 藤崎万裕, 飯島勝矢,地域在住高齢者における身体・文化・地域活動の重複実施とフレイルとの関係,日本公衆衛生雑誌より作成)

 全ての活動を行ってる人が最もフレイルのリスクが低く、逆に何もしていない人ほどリスクが高くなるというのは当たり前かもしれません。
 ここで注目したいのは、身体活動のみを行っている人と身体活動を行わずに文化活動や地域活動をしている人を比べた場合、身体活動のみを行っている人の方がフレイルのリスクが高いとされているところです。

 これを歩くことと移動した先での活動というのに当てはめてみると、闇雲に歩くだけでは効果は小さく、移動した先で様々な活動ができるからこそ、健康に繋がっていると考えられるのではないでしょうか?
 公共交通の利用の多くは、何かしらの目的があって移動をしています。だからこそ、公共交通の利用だけを考えるのではなく、利用した先での「楽しい目的をつくる」ということも一緒に考えて行くことが大切です。

参考文献

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