公共交通の利用促進に取り組むために その5:「連携することで」

事業者・行政…の皆様
事業者・行政…の皆様

CVID-19の影響で利用者の減少傾向が止まらない。なんとかできないものでしょうか?

トリセツおぢさん
トリセツおぢさん

利用者が減少の状況にあっても、様々な工夫をして利用者を増やしている事業者もあります。今回は、こうした活動の紹介をさせていただきます。

一般社団法人グローカル交流推進機構 土井 勉

 厳しい現状においても

 COVID-19の影響は鉄道・バス・タクシーなどへの利用者減少をもたらし、公共交通の経営に対して深刻な打撃を及ぼしています。今もCOVID-19に比べて3割以上の落ち込みがある事業者も鉄軌道・バス・船舶事業者の3割にもなっているとの報告(地域公共交通総研、8/30報告)もあります。このため、全国各地で減便や廃線問題が起こっています。

 こうした厳しい状況においても、様々な工夫と試行錯誤を行い、利用者を新たに増やしている事業者があります。

 ここでは主に兵庫県南部=阪神間を運行している阪神バスの活動を紹介したいと思います。

 阪神バスの概要

 阪神バスは名称からもわかるように、阪神電気鉄道の子会社です。その路線は主に神戸~大阪間の芦屋市、西宮市、尼崎市、伊丹市、宝塚市などをカバーしています。特筆すべきこととして、尼崎市内を運行していた尼崎市交通局のバス事業を2016年3月に一括移譲されていることです。現在もなお、旧尼崎市交通局の路線は「尼崎市内線」と呼ばれて、交通局の頃と変わらない運賃・バスのカラーリングなどで運行されています。

 また、2020年度のNPO法人再生塾のアドバンス・コースのフィールドとしてご協力をいただいています。

 私から見ると阪神バスは結構お茶目な社風という印象があります。例えば、本社がある尼崎浜田車庫前のバス停付近に設置された清涼飲料水の自動販売機のデザインは、まるで阪神バスの車両です。こうしたことに熱心な会社には好感が持てます。

図-1 尼崎浜田車庫前バス停に設置されている清涼飲料水の自動販売機

 「3方よし」のバスサービスの実現

 阪神バスもCOVID-19の影響により大きく利用者を減らし、収支も悪化していました。

これを何とかしないといけない、という思いから阪神バスでは、以前からお付き合いのある自動車教習所・尼崎ドライブスクールを訪問し、いくつかの提案が行われました。

 ここで大きく取り上げられたものが、阪神バスの沿線にある尼崎ドライブスクールなので教習生向けに実施されている送迎バスの機能を阪神バスで代替できないか、ということでした。

 尼崎ドライブスクールにとっては、送迎バスの運行を路線が重複する阪神バスに置き換えることで経費の節減につながる可能性がありそうです。

 ただ、それだけでは尼崎ドライブスクールにとってはメリットが少ないかも知れません。

 そこで、阪神バスでは、教習生が使う主要駅である阪神尼崎駅等から教習所の講義開始時間に間にあるダイヤの再編など利用のやりやすさについての検討をされています。駅から教習所までのシームレスな移動を支えるという提案ですね。

 さらに、大きなサービスの提供として、教習生には期間中に教習所までの路線バスの利用を無料にするだけでなく、阪神バスの全路線を無料で利用が可能となる提案がされました。教習生である期間中は、無料で阪神バスに乗って教習所以外にも行くこともできるわけです。

 また、教習所と協議を重ねていると様々な講習を受講するため一日だけの通学もあることがわかりました。こうした人達に対しても、バス料金の返金システムを考案されています。

 その結果、尼崎ドライブスクールにとっては、送迎バスのコストを削減や事故のリスクを回避できるだけでなく、阪神バスが運行されている広域からの教習生を確保できるようになったのです(2021年7月末から運行開始)。

図-2 阪神バスと自動車教習所の無料送迎を乗合路線バスで代替する仕組み

 教習生の皆さんにとっては、路線バスであることから、送迎バスに比べると利用可能な停留所が増えることで通学がやりやすくなることに加えて、阪神バス全線を無料で利用ができることで、通学以外のバス利用が増加することになりました。友達と遊びに行く時にも、バスを使う人が増えました。なかなかバスを新たに利用する体験をしてもらうことは簡単ではありませんが、今回の仕組みで自然なかたちで利用を促すことになりました。また、教習生の皆さんからは路線バスのプロのドライバーの運転技術を見て、大変勉強になったという意見もありました。

 そして、阪神バスでは、これまで保有していた路線を教習所までの送迎にも活用することで資源の有効利用が実現しました。その結果、利用者の増加が実現しました。それだけでなく、これまで路線バスに乗ったことがない人達にも、乗車体験を生み出すことにも大きな効果がありました。バス会社単独では、なかなかできないことですね。

 こうした教習所、教習生、バス会社の3つの属性の人たちにとって、「3方よし」のバスサービスの実現できたということになりました。

 この仕組については、地元の神戸新聞でも「三方一両『得』」の仕組みとして紹介されることになりました。

 効果の確認

 こうした取り組みの効果を把握するために、尼崎ドライブスクールの協力を得て教習生の皆さんに対して様々な調査を行っています。ここでは、その一部を紹介したいと思います。

 期間中に阪神バスを利用した人たちのうち47.8%の人たちが「運転免許を取得した後も、路線バスを利用したいと思う」と回答されています。単なる送迎バスでは、こうした意識変化を得ることはできない、ということを考えると、今回の取り組みのインパクトが理解できるかと思います。

 これらの一連の取り組みの仕組みと成果が評価されて2022年度の日本モビリティ・マネジメント会議のJCOMMマネジメント賞を授与されています。

 また、ここで提示した図-2などを含む「3方よし」のバスサービスの実現」については、2022年度のJCOMMのHPでも公開されています。

 さらに、こうした活動については、2020年度のNPO法人再生塾のアドバンスド・コースで阪神バスを研修のフィールドとして提供いただいたご縁も活動を推進する一助になったと考えています。

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