担当:井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機構)
公共交通空白地域とはなんですか?
公共交通空白地域とは、一定の距離に駅やバス停などがない地域を指します。しかし、距離の定義は決まっておらず、地域の状況に合わせて考える必要があります。
公共交通空白地域の定義
公共交通空白地域は、交通空白地や交通不便地域ともいわれ、公共交通の便利さの指標の一つとなります。具体的には駅やバス停が一定の距離の範囲内にない地域のことを指しますが、「一定の距離」については定まったものがありません。
例えば、国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱」では、“半径1キロメートル以内にバスの停留所、鉄軌道駅、海港及び空港が存しない集落”とされ、同じ国土交通省「地域公共交通づくりハンドブック」では、“交通機関が充実している都市では、駅からは半径500m以上、バス停から半径300m以上が空白地域”“地方では、駅から半径1000m以上、バス停から半径500m以上を空白地域”とされているように、資料によって定義がまちまちです。
また、「空白ではない」という視点では、「バス停圏勢」やそれによる「カバー人口」という用語も用いられます。バス停から一定の距離内にあれば、そのバス停を利用できるとして、それによりどれだけの人口を包含できているかという考え方です。
これらの結果、各自治体における計画策定時には様々な値が用いられており、国土交通省「事業評価を通じた地域公共交通確保維持改善事業の効果的実施に向けて」や佐賀県「公共交通不便地域の抽出に係る事例」における調査によれば、鉄道駅においては300mから3㎞、バス停においては200mから1㎞のように地域よって大きく異なっています。
公共交通空白地域の現状
公共交通空白地域の定義は様々ですが、いくつかの条件下における公共交通空白地域の現状については国土交通省により調査されており、交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会などで検討がされています。
各条件下において該当する公共交通空白地域の面積(居住地面積)と人口が国土や総人口に占める割合を整理すると以下のようになります。
表1 公共交通空白地域の現状
(交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会配布資料より作成)
条件 | 空白地域面積 | 空白地域人口 |
駅:1km、バス停:1km | 17,084km2(14.2%) | 2,362千人(1.8%) |
駅:1km、バス停:600m | 30,122km2(25.0%) | 5,311千人(4.2%) |
駅:1km、バス停:500m | 36,477km2(30.3%) | 7,352千人(5.8%) |
駅:500m、バス停:300m | 62,982km2(52.2%) | 26,510千人(20.7%) |
駅1㎞・バス停500m程度までは人口割合で6%以下となっており、空白地域がまだ少ない印象となっていますが、駅500m・バス停300mとした際に20%を越えている状況が、公共交通が衰退しているといわれる地方部の現状の実感に近いのではないでしょうか。
なお、実務的に公共交通空白地域に居住する人口を推計する場合には、データ上の制約から各町字の人口をバス停勢圏の面積を用いて按分した数値となる場合がほとんどであり、実際の人口を把握することは困難です。よって、この数値はあくまでも大きな傾向をつかむものであり、厳密な値ではないことに留意する必要があります。
また、公共交通空白地域は、駅・バス停までの距離で利便性を評価していますが、これはあくまでも地図上の二次元的な把握に過ぎないことに留意することが大切です。公共交通空白地域では、運行頻度や運行している時間帯などのサービス水準については考慮されていません。地図上では「空白」とはなっていないように見えても、ダイヤなどを見ると公共交通を利用することが困難である「時間空白」地域が増えていることも踏まえなければいけません。こうしたことを把握しやすくするためには、路線ごとに運行頻度を線の太さで表現することや、時間帯別に運行している路線を表現することなども有効です。
公共交通空白地域の設定の仕方
公共交通空白地域の定義が定まっていないからこそ、各地域において計画策定をする際には、地域の状況に合わせた設定を行う必要があります。ここまで示した事例は、いずれも駅・バス停から「半径**m」というような設定となっています。地域の状況に合わせるためにはこれに加えて、以下に示すような歩行に影響を与える条件について考慮することが重要です。
- 高齢化率や運転免許所持率(または返納率)などの居住者の条件
- 迂回等の現実の移動距離や勾配(坂道)などの地理的な条件
- ガードレールや舗装による歩道の整備などの道路の条件
特に、勾配については具体的な数値を定めている自治体もあります。例えば福岡市では「公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保に関する条例」における生活交通特別対策区域としてバス停・鉄道駅との高低差が概ね40m以上の地域と定めている事例があります。
また、これらの設定においては公共交通の一つであるタクシーが意識されていないことが多くみられます。鉄道やバスが存在していなくても、タクシーを用いることができる地域であれば、公共交通空白地域とまでは言えないかもしれませんが、タクシー事業者が撤退・廃業してしまえば、文字通り「公共交通空白地域」になってしまいます。タクシーが地域の公共交通の中でどのような役割を果たしており、計画の中でどう位置づけていくかということも忘れないようにしましょう。
タクシー配車30分以内 (20241105更新)
国土交通省では、タクシーや自家用有償旅客運送(公共ライドシェア)、日本版ライドシェア等を地域住民や来訪者が使えない「交通空白」の解消に向けて、2024年7月に「交通空白」解消本部を設置しました。(ライドシェアなどの定義についてはこちらを参照ください)
ここでの交通空白とは、上記の取り組みが行われていない地域のことを言っていますが、注目をしたいのはタクシーの取り扱いです。
2024年4月の「地域公共交通会議に関する国土交通省としての考え方について」の通達で、
少なくともタクシーが恒常的に30分以内に配車されない地域は交通空白地に該当する
タクシー30分以内という、これまでの距離だけではない目安が示されました。これまで地域公共交通会議の場でも「バスはないけどタクシーは配車できる」「(タクシーの)お客さんが奪われてしまう」というような議論になることがありました。あいまいだったタクシーの取り扱いにおいて、30分という目安が示されたことにより、制度の運用がやり易くなったと言えます。
同時に以下のようにも書かれており、
アンケート調査や地域の実情(高齢化率及び独居率といった人口構造の特性、勾配など地理的特性等)を踏まえた市町村長又は都道府県知事の判断により、30分未満とすることも考えられる
30分という目安に縛られることなく、地域の状況に合わせて短くするという運用も可能です。
この「市町村長又は都道府県知事の判断」には注意が必要で、地域公共交通会議で協議で結論に至らなかった場合に
地域公共交通会議を主宰する市町村長又は都道府県知事が、設置要綱の規定に基づき、協議内容を尊重しつつ、自らの責任において、自家用有償旅客運送の導入の可否について最終的な判断を行える
以上のように取り扱うことができます。しかし、これはむやみに首長が判断できるということではないく、「地域公共交通会議の協議内容を尊重する」「(地域公共交通会議の)設置要綱に規定する」ことが必要になります。
このように交通空白地域の解消に関心がもたれるというのはとても良いことです。しかし、関心が持たれているからこそ、様々な制度やシステムが乱立する状態になってしまっているのも確かです。
その中から自分たちの地域に合ったものを選ぶことが重要ですので、「どこで」「どのような人が」「どれくらい」困っているかを、できるだけ詳しく把握して取り組みを進めて行きましょう。
参考文献
- 国土交通省「地域公共交通確保維持改善事業費補助金交付要綱」
- 国土交通省「地域公共交通づくりハンドブック」
- 国土交通省「事業評価を通じた地域公共交通確保維持改善事業の効果的実施に向けて」(pp.108-109)
- 佐賀県「公共交通不便地域の抽出に係る事例」
- H25年交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会 配布資料(pp.9,公共交通空白地域の拡大)
- 福岡市 公共交通が不便な地域への対策
- 国土交通省「交通空白」解消本部