担当:土井 勉(一般社団法人グローカル交流推進機構 理事長)
クロスセクター効果(CSE)はどんな活用の仕方があるのだろうか?
コミュニティバスの役割の評価や、補助金の意味、鉄道存廃についての合意形成などの実例があるよ。
クロスセクター効果は、政策判断に活用ができる
クロスセクター効果(CSE)を算定することで、これまで定性的に必要性や重要性を語ってきた地域公共交通が持つ意義や役割を定量的に提示することが可能となる場合があります。こうしたことを数値で示すことで重要な政策判断についての合意形成を促進することができます。
そうした活用事例を2つ紹介します。
財政支援増額に対する説明資料
コミュニティバスの契約変更の妥当性検証(X市)
X市では、コミュニティバスの運行をZバス会社に年間約5,980万円で委託しています。近年の運転士不足の影響を受けて、人件費を含む待遇改善が必要となりZバス会社から委託費を年間に約3,400万円増額してほしいとの打診がありました。運行に関するサービス改善の経費などは含まず、現状の運行を継続するために新たに3,400万円の追加が必要になるいうことです。この費用の追加がないとコミュニティバスの運行自体が困難になるというのです。
X市では、この追加費用の必要性・妥当性について、他のバス会社への相談や周辺市の対応状況調査など様々な検討が行われました。
その一環として、このコミュニティバスに限定したCSEの算定することになりました。
結果から言うと、医療・商業・教育・福祉の4つ分野で算出した分野別代替費用は年間で約11,150万円となり、現在の委託金額約5,980万円との差額約5,170万円がCSEとして算定できました。
これより、運転士の人たちの待遇改善に要する年間約3,400万円の増額をしても、CSE約5,170万円の範囲内に収まることが明らかになりました。すなわち待遇改善の3,400万円の増額は認められるということなります。
この算定の結果を踏まえてX市では待遇改善に対する委託費を3,400万円/年の増額をしてコミュニティバスの運行を継続する判断が行われることになりました。
鉄道存廃の議論を進める資料としての活用事例
近江鉄道の存廃について
滋賀県内の10市町を沿線に持つ近江鉄道は、近年の運賃収入の減少で赤字が続き、会社による単独での運行が困難となったことから、滋賀県並びに10の沿線市町と近江鉄道株式会社を中心に近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会を設置して、存廃や行政支援の在り方について議論をしてきました。
2020年3月に開催された第2回会議で近江鉄道線のクロスセクター効果の分析結果が紹介されました。ここで協議会の会長(滋賀県知事)の総括メモで分野別代替費用が少なくとも約19億円/年と紹介されました。
表-1 近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会・会長総括メモ2020年3月25日より
こうしたCSEの分析結果も踏まえて、この日の協議会で近江鉄道線については「全線存続」ということで合意されることになりました。
■参考資料
・CSEについての研究的な論文:西村・東・土井・喜多:クロスセクター効果で測る地域公共交通の定量的な価値」、土木学会論文集2019
・第2回近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会(2020年3月25日)会長総括メモ