「空想路線図(をつくろう!)ワークショップ Vol.2」に参加してきて(前編)

-『自由な空想』から『現実にありそう』な路線へ-

担当:諸星賢治(合同会社MoDip)

はじめに

 2026年12月に沖縄県那覇市で開催された「空想路線図(をつくろう!)ワークショップ Vol.2」に参加をしてきました。
 本ワークショップは、以前に公共交通トリセツでも取り上げた「おきなわ空想路線図を作る! データ活用ワークショップ(2022年)」の続編として開催されたものです。前回と同様「チーム単位で、生活者や旅行者にとって便利な移動手段を考えよう」という大きなコンセプトは変わっていませんが、今回はその“解像度”を一段と高めた内容となりました。

 前回は、特に制約を設けず「県内に自由に公共交通網を描いてみる」という、いわば“純度の高い空想”を楽しむ試みでした。それに対して今回は、チームごとに「交通事業を立ち上げる」という前提のもと、路線計画だけでなく、収支や車両調達、運行条件まで踏み込んで検討するという、より現実に近い制約が課されました。夢の路線図を描くだけでなく「その路線は本当に必要なのか?」という問いと向き合う構成でした。
 各チームでの検討を支えるツールや、作成された路線を評価する仕組みも充実しており、アイデアは単なる空想にとどまらず、実現可能性を帯びた“仮説”へと進化していきました。 「現実」と「空想」の間を往復しながら公共交通を考える。そのプロセス自体が、地域の公共交通の在り方を考える上で重要な視点であり、そこに自然とデータが活用されており、参考になる点が多くありました。本稿では使用されたツールとあわせてワークショップの内容を紹介したいと思います。
 なお、このワークショップは、沖縄県内の公共交通と公共性の高い観光情報をオープンデータとして整備・公開し、地域の情報資産を“地域の力”として活かすためのコミュニティづくりに取り組んでいるNPO法人OTTOPが主催しています。

ワークショップの概要

  • 日時:2025年12月20日(土)・21日(日)
  • 会場:沖縄県立図書館 4階ビジネスルーム
  • 参加者:16名(県内外の学生・コンサルタント・自治体関係者など)
  • 参加費:無料(事前登録制)
  • 協賛:合同会社MoDip
  • データ提供協力:株式会社ヴァル研究所、東京バス株式会社 沖縄営業所
  • 技術協力:株式会社オリエンタルコンサルタンツ沖縄支社
  • 主催:NPO法人OTTOP

ワークショップの進め方

 今回のワークショップでは、「新しいバス路線を設計し、公共交通の利便性を高めよう!」というテーマのもと、まずは各自が解決したい課題や検討してみたいバス路線を考えて発表し、そこからチーム分けを行うことからスタートしました。
 各チームに与えられたお題は「バス路線を走らせる新規事業を考えること」。ただし、「収支を競うゲームではない」という説明もあり、数字だけにとらわれない発想が促されました。
 とはいえ、公共交通事業と数字が切っても切れない関係にあるのも事実です。そこで、公共交通をデータから考える大切さを共有するためのインプットトークも行われました。喜納大作氏(沖縄国際大学南島文化研究所特別研究員)からは、1914年から1945年まで沖縄で運行していた沖縄県鉄道(ケービン)についての紹介があり、OTTOPメンバーからは、県内バス事業者の収支状況を踏まえたバス会社の運営についての(ここだけの)話がありました。
 2日間のワークショップは、以下のプログラムに沿って進められました。

  • 1日目
    • 各自で取り組みたいテーマに投票しチームを結成
    • 現状課題の分析と事業方針の検討
    • 新たなバス路線のルート設計およびダイヤ検討(GTFSデータの作成)
    • 乗車人数を考慮した車両の選択、運賃設定、収支率の計算
    • 必要車両台数の算出と必要予算の申請
  • 2日目
    • 事業評価と予算の確定
    • 予算に合わせた事業の再検討
    • バス路線とダイヤの再検討(GTFSデータの再作成)
    • 最終プレゼン
    • 事業の効果測定
    • 空想路線図の公開
    • 全体総括

各チームで考えたバス路線

 各チームが考案したバス路線は、いずれもオリジナリティあふれる内容となりました。
 なお、発表資料の作成にあたっては、生成AIを活用した画像や動画を制作しているチームが多かったのも印象的でした。これは前回のワークショップには見られなかった方法であり、この3年間で生成AIが一気に普及したことを実感させられました。

 発表資料とあわせて紹介します。

①家toイエ

 「県内のショッピングセンターって転回スペースもあるし、お店やトイレや駐車場もある…」ということで「ショッピングセンターを交通結節点にすればいいのでは!?」と着想。県内大型ショッピングセンターと琉球大学、住宅地などをつなぐ路線を設計しました。

②株式会社のんべぇ

 「遅くまで呑んでもバスで帰れる!」路線。県庁前から県内の主要な飲み屋街が集積するエリアを経由しつつ、沖縄市に至るまでの住宅エリアを結ぶ路線を設計しました。バス車内にエチケット袋を常備、運転手に屈強な人物を採用?各拠点にセキュリティを配置するなどの配慮も。

③シン・ケービン

 かつて沖縄で運行していたケービン(軽便鉄道)を現代に復活させLRTとして整備をしたい…その前に!まずは専用軌道のBRTを整備したい!ということで、戦前の軽便鉄道を現代に合わせてルートもアレンジ。連節バスを20分間隔で運行するというサービスレベルの維持にもチャレンジしました。

④アコークロー観光

 「沖縄の朝日と夕陽を観光体験の1ページに」をスローガンに、「守りより攻め」のサービスを展開。高級ホテル宿泊の外国人富裕層だけをターゲットとし、朝は恩納村のホテルから宜野座村へ朝日を見に、夕方は那覇のホテルから読谷村の残波岬に夕陽を見に行くため「だけ」の路線を設計しました。

チーム名ターゲット解決したい課題発表資料
①家toイエ通勤・通学、行楽、観光客問わず市町村間を速く移動したい人那覇市~沖縄市エリアの移動時に渋滞の影響で、既存路線では各停のため時間がかかる点
▶資料
②株式会社のんべぇお酒が好きな人たち、夜間勤務者、イベント参加者公共交通のダイヤにより余暇の時間が制限される点
▶資料
③シン・ケービン住民の通勤・通学・買い物・通院・オトーリ
観光客の中南部移動
渋滞に左右され移動時間が読めない公共交通機関での移動
▶資料
④アコークロー観光高級ホテル宿泊の外国人富裕層富裕層をターゲットとした新規需要の開拓
▶資料
表 各チームで考えた路線の特徴と発表資料

現代によみがえる軽便鉄道(プレゼン資料より)

バスルートを考える上で提供されたツール

 チームが空想路線を考える上で提供されたツールは2つありました。
 1つは、携帯電話のGPS情報を活用した人流解析ツールで、指定した日時における2地点間の移動人数を算出するものでした。このツールで示される人数は、特定の携帯電話キャリア利用者のログデータをもとに、その地域における当該キャリアの保有率を加味して拡大推計した数値です。一般的に都市部では一定の精度で推計できる一方、過疎地では精度が低下する傾向があるという特徴を持つデータです。
 もう1つのツールは、OTTOP開発チームが開発した「Bus Route Studio Lite」と呼ばれるツールです。機能が複数あるので順に紹介していきたいと思います。

バス運行ルート生成機能

 このツールでは地図上の2点間を指定するだけで、バスのルートが自動で生成され、そのルートを運行する際にかかる経費が自動で算出されます。地点の指定は、施設名からの検索と地図上で任意の地点に指定する事が可能で使い勝手の良いものでした。経由地の指定や、通る道路の変更も行えます。

Bus Route Studio Lite「バス運行ルート生成機能」

バス運行コスト計算機能(簡易版)

 「1日のバス運行本数」「想定運賃(平均支払額)」「1日の想定乗車人数」を入力すると、その路線の輸送原価と収支率を自動でシミュレーションできます。運行本数や運賃を調整すれば、収支率も即座に再計算されるため、新規路線の検討における試算ツールとして有効でした。
 なお、この算出根拠には国交省が毎年発表している「バス実車走行キロ当たりの原価」が用いられています。沖縄県内の原価と全国平均を比べて表示する事で、沖縄県内の原価と全国平均を比較表示することで、沖縄における人件費の低さという社会的な課題も浮き彫りになります。

Bus Route Studio Lite「バス運行コスト計算機能(簡易版)」

人口推計機能

 人口推計機能では、2025年に実施された国勢調査の結果に加え、将来人口予測データが活用されています。バスルートが通過する市町村ごとの人口および将来人口の見通しが、数値とグラフで表示されます。また、各停留所から半径500メートル圏内に居住する人口もあわせて算出されます。

Bus Route Studio Lite「人口推計機能」

 そのほかにも、地図上で指定した円の範囲内に居住する人口を算出する機能が提供されました。一般的な人口可視化ツールに見られる、四角いメッシュ単位で人口を表示する方式とは異なり、不動産検索サイトで見られる直感的なインターフェースに近いもので、非常に使い勝手の良い機能でした。