地域公共交通活性化再生法が改正されたけど、結局何が変わったの?<2026年版>

担当:塩士圭介((株)日本海コンサルタント)

はじめに

「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(通称:地域交通法)が改正されました。2026年3月10日に閣議決定、同年6月3日に成立し、年内に施行される見込みです。ニュースでは「新しい事業ができた」という紹介が並び、何か大きく変わった印象を受けます。

図の出典:国土交通省「「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定~「交通空白」等の解消による持続可能な地域公共交通の実現に向けて~」、以下同様

しかし実際に法律の中身を読み比べると、印象とはだいぶ違う実態が見えてきます。今回は「結局、何が新しくできて、何がこれまでと変わらないのか」を、条文と一次資料をもとに整理します。

いきなり結論!

先に今回の法改正の全体像を出しておきます。

区分 内容ひとことポイント
既にできたことを制度的に位置づけ、財政支援を付けたもの ・自動車地域旅客運送サービス再構築事業・鉄道事業再構築事業の拡充・海上運送利便確保事業 個々の許可・権限自体は元からあるが、地域公共交通特定事業として制度的に位置づけることで、自治体主導での実施と、利便増進事業などと同様の財政支援の”型”を作った 
事業者側に新しい法的義務が生まれたもの ・モビリティデータ提供の応諾義務運用の詳細は未公表(今後情勢を注視する必要) 
変わらないもの ・道路運送法・鉄道事業法そのものは改正なし・地域旅客運送サービス継続事業、各種高度化事業も変更なし条文改正なし、または実質的な変更なし 

ポイントは、地域交通の「計画づくりのルール」を定めた地域交通法は改正されましたが、実際にバスやタクシー、鉄道を動かすときのルールを定めた道路運送法・鉄道事業法そのものには、直接手が入っていないということです。

以下、個々に見ていきます。

改正の背景:「交通空白」約2,500地区・地点

国土交通省の資料(出典:国土交通省「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案」概要資料、2026年3月10日)によれば、全国で約2,500の地区・地点が「交通空白」(生活に必要な移動手段が確保されていない状態)に陥っています(その後の調査では2,740地区まで増加。出典:「「交通空白」解消に向けた取組方針2026」)。バス路線の廃止キロ数は、平成28年度の883kmから令和6年度には3,887kmまで拡大し、この数年で急激に悪化しました。

背景にあるのは、運転者不足による供給の減少と、免許返納や学校・病院の統廃合による需要の変化です。過疎地域では施設の統廃合が進み、車を持たない人ほど移動の負担が増えるという、需要と供給のミスマッチが起きています。

加えて、地域交通の舵取り役である自治体、特に中小規模の市町村では、人材やノウハウの不足という課題も以前からありました。

これを受け、国土交通省「交通空白」解消本部は令和7〜9年度を「集中対策期間」と定める政策方針を打ち出しました(法律の条文ではありません)。今回の法改正は、この集中対策期間を後押しする制度整備です(出典:国土交通省「「交通空白」解消に向けた取組方針2025・2026」)。

自動車地域旅客運送サービス再構築事業──目玉だが「新しい運送手段」ではない

今回の改正の目玉が「自動車地域旅客運送サービス再構築事業」です(第2条第12号、第26条の3〜第26条の6)。

制度の中身を要約すると、こうなります。

  • バス路線・タクシーの営業区域・自家用有償旅客運送(いわゆる公共ライドシェアを含む)のいずれかが休止・廃止、またはその恐れがある区域について、
  • 「市町村が運送主体(誰が運送を担うか)を選定」し、
  • 他の交通事業者や「施設利用者用運送サービス提供者」(後述)から、運転者や車両の協力を「あっせん」することで、
  • 種別(バス・タクシー・自家用有償運送)を問わず、最適な形で運送を再構築する

国土交通大臣の認定を受ければ、事業実施計画に定められた事業について道路運送法上の一定の許可・認可を受けたものとみなされ(第26条の5)、地域公共交通特定事業として交付金等の財政支援や、鉄道・運輸機構(独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)による出融資も使えます。

ただし、バスとタクシーと自家用有償運送を組み合わせて運行すること自体は、今回の改正がなくても道路運送法の枠内でもともと可能でした。新しくできたのは、

1. 市町村が旗を振って複数の担い手をあっせんする「手続きの型」

2. その型に乗って国の認定を受けた場合(地域公共交通特定事業として位置づけられることによる)の、みなし許可(手続きの簡素化)と財政支援

の2点です。つまり「新しい運送の形態ができた」というより、「既存の許可を自治体主導で束ねやすくする”箱”ができた」というのが実態に近いでしょう。

混同しやすいのが、既存の「地域旅客運送サービス継続事業」(第27条の2〜)です。こちらは「今ある路線・事業を維持する」ための制度で、今回創設された再構築事業は「バス・タクシー・自家用有償運送など異なる運送事業を組み合わせて再構築する」ためのもの、と覚えておくと整理しやすいでしょう。

施設利用者用運送サービス提供者という新しい”協力者”

今回、病院・福祉施設・商業施設などが行う無償の送迎サービスの運営者が、「施設利用者用運送サービス提供者」として法律に定義されました(第2条第5号)。これまでも各地でこうした送迎は地域交通の一部を担ってきましたが、法律上の位置づけがなく協力を求める根拠が曖昧でした。今回、市町村が協力を求める相手として明記されるとともに、市町村・施設利用者用運送サービス提供者の双方に、再構築事業への協力に関する努力義務が課され、地域の輸送資源として正式に位置づけられたことになります。

鉄道事業再構築事業の拡充

鉄道路線の維持を図る「鉄道事業再構築事業」にも拡充がありました(第2条第10号ホ、第25条、第25条の2)。

これまでこの事業は、上下分離方式(線路の保有と運行を別会社に分ける仕組み)への転換など事業構造の変更が中心でした。今回、対象に「現行の鉄道事業者自身が行う施設の建設・改良、車両の取得・改良」が加わりました。

鉄道会社が自社の施設を改良すること自体は、改正がなくてもできることです。変わったのは、それを再構築事業として認定を受ければ、

– 鉄道事業法上の認可等とみなし取得できる

– 地方公共団体がその事業に助成する場合、地方財政法上の特例(地方債の起債)が使える

という支援策が使えるようになった点です。

モビリティデータ提供の応諾義務

事業者側に実質的な新しい義務が生まれたのが、「モビリティデータ提供の応諾義務」(第28条)です。

自治体が計画づくりに必要な資料・情報の提供を求めたとき、公共交通事業者等は正当な理由がない限り、それに応じなければならないという規定です。

これまでも自治体が交通事業者にデータ提供を「お願い」することはありましたが、法律上の義務として明記されたのは今回が初めてです。ICカードの乗降データや運行実績など、計画の根拠となるデータを自治体が集めやすくする狙いがあります。

対象となるデータの範囲や運用の手続きは、条文だけでは分かりません。国土交通省は2025年11月から「モビリティ・データの活用推進に向けた検討会」を開催しており、データ提供のルールを整理したガイドラインの策定を進めているようです(出典:国土交通省「モビリティ・データの活用推進に向けた検討会」)。「「交通空白」解消に向けた取組方針2026」でも、応諾義務を踏まえ「新たな手引きの作成」を行う方針が示されており、今後の公表が見込まれます。ただし内容や時期は執筆時点(2026年8月1日)で確認できておらず、続報を注視する必要があります。

連携促進団体の活動推進

「連携促進団体」という主体も法律上に明記されました(第6条第2項第4号、第7条第1項第3号)。地域の関係者間の調整役を担う民間団体を法定協議会の構成員として位置づけ、地域公共交通計画の作成・変更を提案する権利を与える改正です。

ポイントは「誰が連携を主導するか」です。地域交通法第4条では、連携・協働の促進は「国の努力義務」とされています(今回変更なし)。一方、新設された自動車地域旅客運送サービス再構築事業のスキーム図では、運送主体を選び協力をあっせんするのは「市町村」です。

つまり、連携を促す旗振り役は国、現場で仲介・実行する役回りは自治体、という役割分担です。地域公共交通行政の「国の役割」と「自治体の役割」を考えるうえで、意識しておきたいポイントです。

さらに、第4条3項(市町村の努力義務)には協力対象として「施設利用者用運送サービス提供者」が加わり、第4項(公共交通事業者等の努力義務)には「関係者相互間の連携と協働」が加わりました。国は環境整備の旗振り役、市町村は現場の実行役、公共交通事業者及び連携促進団体は連携に踏み出す協力者、という役割分担が今回の改正でより明確になったと言えます。

海上運送利便確保事業の創設

離島航路などで船舶の法定検査中に運航が一時休止する際、他の事業者による代替運航や船舶の貸渡しで利便を確保する「海上運送利便確保事業」も創設されました(第2条第13号、第26条の7・第26条の8)。

基本的な構造は自動車地域旅客運送サービス再構築事業と同じで、地方公共団体が代替の担い手を選び、認定を受ければ事業実施計画に定められた事業について海上運送法上の一定の許可等をみなし取得でき(第27条)、地域公共交通特定事業として交付金等の財政支援を受けることが出来ます。なお、離島航路特有の事情を含めた詳しい解説は、次回の記事で取り上げます。

法改正でも変わっていないもの

最後に、今回の法改正でも「変わっていない」部分を確認しておきます。

  • 道路運送法・鉄道事業法・海上運送法は改正なし:今回改正されたのは地域交通法・租税特別措置法・登録免許税法・物資流通効率化法の4法のみです(新旧対照条文で確認済み)。新設された「みなし規定」も手続き特例にすぎず、許可基準や事業類型そのものは変わっていません。
  • 地域旅客運送サービス継続事業:既存路線・事業を種別を変えずに維持するための事業で、今回はほぼそのまま維持されています。
  • 上記以外の地域公共交通特定事業(軌道運送高度化事業・道路運送高度化事業・海上運送高度化事業・貨客運送効率化事業・地域公共交通利便増進事業など):制度の中身自体に実質的な変更はありません。なお、自治体主導で計画をつくる事業(鉄道事業再構築、自動車地域旅客運送サービス再構築、海上運送利便確保、地域旅客運送サービス継続、地域公共交通利便増進の各事業)は、計画作成時にモビリティデータ提供義務(第28条)の対象になります。
  • 地域公共交通計画・協議会制度の基本フロー:計画の作成手続きや認定の基本的な流れは維持されており、連携促進団体が構成員として明記された点が変更点です。

まとめ

今回の改正は、「交通空白」という課題に対応するため、バス・タクシー・自家用有償運送・鉄道・離島航路のそれぞれについて、既存の枠組みでできることを自治体主導で実行しやすくし、財政支援を付けるためのものだと整理できます。

派手な見出しの裏にある「実は何が変わって、何が変わっていないか」を掴んでおくと、各地の自治体の動きをより解像度高く追えるはずです。施行は公布から6月以内で、年内が見込まれています。運用開始後の実例も、機会があれば取り上げたいと思います。

参考文献

国土交通省 報道発表資料:「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定(2026年3月10日)

国土交通省 モビリティ・データの活用推進に向けた検討会

国土交通省「交通空白」解消本部「「交通空白」解消に向けた取組方針2026」(2026年6月10日)