担当:トリセツ編集会議
前回に引き続き、北陸信越運輸局の交通企画課長である新倉孝礼さんに国の補助制度のポイントについて教えていただきました。
前回の記事「新倉課長に聞く!<1> 運輸局・運輸支局ってどんな組織?」
補助制度の活用
<編>:前回に引き続き、北陸信越運輸局交通企画課長の新倉さんにお話を伺っていきます。今回は、国の補助制度について聞いていきたいと思います。
2023年に地域交通法が改正され、地域公共交通の「リ・デザイン」が推進されることになりました。国が様々な予算制度の充実を図ったほか、2024年からは「交通空白解消本部」が立ち上がり、全国で「地域の足」「観光の足」の不足が生じないよう、取組が強化されています。
一方で、地域公共交通分野における予算制度は年々、多様化・複雑化しているようにも見え、地域の担当者に十分浸透しているとは言いがたい部分もあるように思えます。
せっかく国が拡充してくれた予算なので、有効活用しないことはもったいないと思います。国の補助制度の仕組みや活用に当たっての注意点についてアドバイスいただけると喜ぶ人が多いと思います。
予算のスケジュール
<新>:まず、国の予算のスケジュールの流れをご紹介しますと、例年、当初予算は以下のように決まります。
- 8月 次年度概算要求
- 秋〜冬 各省庁から財務省への説明、折衝
- 12月 次年度予算案の閣議決定
- 1月 次年度予算案の国会提出、予算審議
- 3月末 国会において予算成立
- 〜夏 補助要綱の制定・改正 → 施行
一方で、補正予算が組成される場合の大きな流れは次のとおりです。
- 秋〜冬 補正予算案閣議決定、国会提出
- 臨時国会での予算審議、成立
- 順次 補助要綱の制定、公募等
地域公共交通に関する補助金などもこのプロセスで予算要求しています。
<編>:自治体などが活用できる補助制度の主なものには何がありますか?
<新>:さまざまなものがありますが、ここでは具体例として、「地域公共交通確保維持事業【当初予算】」と「共創・MaaS実証プロジェクト【令和5年度補正予算】」についてご紹介します。
地域公共交通確保維持事業【当初予算】
地域間幹線系統補助や地域内フィーダー系統補助といった路線バスなどの欠損補填に関する補助金が代表的なものです。

例年、当初予算において計上されている補助メニューであり、スケジュールは毎年ほぼ同じです。自治体に大きく関係するフィーダー補助の場合、以下のような流れになります。
- 6月 補助系統に関する国への「認定申請」★協議会による議決
- 10月~翌9月 補助系統の運行
- 翌11月 補助金交付申請書の提出
- 翌々4月 補助金入金
このとき、「6月」の認定申請と「翌11月」の交付申請が大きな作業の山場です。当初予算に関する補助金は、例年、スケジュールが決まっていますから、山場になる時期から逆算して準備をすることがポイントになります。
共創・MaaS実証プロジェクト【令和5年度補正予算】
地域の関係者の連携・協働により地域公共交通の維持・活性化に取り組む場合の実証経費などの支援に関する補助金です。

ここでは、参考として、令和5年度補正予算における「共創・MaaS実証プロジェクト」のスケジュールを紹介しましょう。
- 令和5年11月 補正予算の成立
- 12月 補助金事務局の公募
- 令和6年2月 案件公募開始(~4月)
- 5月 採択通知
- その後順次交付決定、事業着手
- 令和7年2月 補助対象期間終了
上記の場合には、「4月」の公募申請とその後の交付申請・交付決定が大きな作業の山場です。補正予算ですので、補助メニューの有無から、補助要件、公募期間、交付決定などの各種スケジュールが事前には明確ではないことが多いです。詳細決定後に速やかに対応できるよう、できる準備から対応していくことが重要です。
補助制度活用のポイント
<編>:スケジュールが読めない補正予算での補助制度は活用にコツがありそうですね。国の補助制度の活用を検討している場合に、特に気を付けた方が良いポイントはありますか?
<新>:その補助メニューが当初予算か補正予算かによって気をつけるポイントが変わります。当初予算の補助制度であれば、例年、スケジュールが決まっているケースが多いですが、補正予算による補助制度の場合は都度、スケジュールを確認する必要があります。また補正予算の場合、翌年度に繰り越して執行するケースがありますが、その場合であっても、翌年度内には事業を終了することが必要となるため、補助対象期間が2月頃までとなるケースもあります。この点でも、当初予算に基づく補助制度か、補正予算に基づくものなのかを確認しておくことは重要です。
<編>:補助要綱や概要資料は国土交通省のウェブサイトなどに掲載されているのでしょうか?
<新>:国土交通省や地方運輸局のウェブサイトに掲載されているので、手元に補助要綱や概要資料を開いてから運輸局や支局の担当に問い合わせをしてもらえるとスムーズです。その際、必ずしも内容を読み込んでいなくても、「とりあえず」で相談に乗ることもできますので、気軽に問合せをいただければと思います。
特に補正予算を活用した補助金の場合、詳細な要件がなかなか決まらない一方で、詳細確定から募集開始まで時間がないということもあります。早め早めに活用意向がある旨を運輸局・運輸支局担当者に情報共有しておき、できる準備を進めていただければと思います。
<編>:補正予算の場合、国の事情もわかるのですが、自治体などの担当者からすると早めに情報を知りたいなというのが本音のところです。
<新>:公募開始前に問い合わせを受けても、どうしても国の担当者からは「詳細未定」と答えざるを得ないのは心苦しいところです。ただ、「こうした取組を考えているのだけど、支援メニューはないか」、ということを早めにインプットしておいていただければ、対外的に説明できるタイミングでいち早く連絡をすることもできますし、次回以降の予算要求時の要望事項として本省に情報提供することもできます。そういう意味でも、運輸局・運輸支局の担当者とのコミュニケーションを密にしていただけると良いと思います。
ただし、補助制度を活用される際の注意点を一つだけ。取組の内容によっては補助制度の活用が困難なケースもあり得ます。そうした際、「補助制度ありき」で取組内容をゆがめるようなことはないようにしていただきたいです。その補助制度以外にも活用可能なものがあるかもしれませんし、補助を得た結果、地域のニーズに合わない取り組みとなってしまっては本末転倒です。
<編>:こうした補助制度について知りたいときには個別に相談するしかないのでしょうか?
<新>:各地方運輸局や運輸支局では、制度説明会を開催しています。私の所属する北陸信越運輸局でも、年度当初に各県別セミナーを実施しているほか、個別相談会を開催しています。運輸局の担当者と直接話すことができる機会ですから、案内があった場合には、積極的に参加していただければと思います。
<編>:本日はありがとうございました。次回は「地方運輸局「活用のススメ」」をテーマにお話を聞きたいと思います。